片麻痺の上着更衣の手順とは
上着更衣で手順が大事?
モクモク博士!
今日は、片麻痺の上着更衣について教えてください。
わかりました。
片麻痺の日常生活動作の訓練の中でも、上着の更衣は座位がとれるようになったら直ちに行いたい練習の一つです。
よく、片麻痺の更衣では、手順が大事だと言われます。
でも、手順通りに行ってもなかなか出来ないこともありますよね。
いくら、手順を覚えていても身体が上手く反応しないようなこともあります。
普段、我々が何気なく行っている更衣動作ですが、どうしてこんなに難しい時があるのでしょうか?
先ず、手順について考えてみましょう。
上着のかぶりシャツであれば、着衣は麻痺側の上肢から着なければ上手く行えません。
しかし、脱衣時は、頭から脱いだ後に麻痺側を脱ぐなどのように手順が変わります。
さらに、前あきシャツであれば、脱ぐ時は非麻痺側から行い、最後に麻痺側を脱ぐことになります。
これらの手順は、一応は決まっており、教科書的に説明を受ける場合もあるでしょう。
しかし、実際問題としては、患者さん個々の状態や考え方により手順が変わる場合も多々あります。
例えば、前あきシャツでも、脱衣時にはかぶりシャツのように脱ぐ方が簡単な場合もあるでしょう。
また、麻痺側上肢が不十分ながらでも掴みや離しができる場合では、患者さんは健側の袖から着ようとするかもしれません。
たしかに、患者さんによっては、何度も正しい手順をお教えしても上手くできない場合もあります。
そのような場合は、どうすれば良いのでしょうか?
そのような場合は、動作手順の指導に加えて、さらに心がけるポイントがあります。
それは、身体の自然な動きを考えることです。
これを、ここでは身体の無意識的運動(動作・活動)と呼ぶことにします。
それについては、後半にお話しましょう。
先ずは、正しい動作手順の確認をしましょう!
よろしくお願いします。
上着着脱の手順
では、一般的なかぶりシャツの動作手順をご説明しましょう。
下の図をご覧ください。
一般的な手順を説明しています。
かぶりシャツの着衣では、麻痺側袖→頭→非麻痺側袖の順番で着ます。
麻痺側袖→非麻痺側袖→頭の場合もあります。
要は、麻痺側袖を最初に通すことが大事です。
赤い矢印はどのような意味でしょうか??
はい、赤い矢印は重要なポイントを示しています。
通常の動作指導では、手順の重要性が強調されますが、実はそれだけでは不十分なのです。
赤い矢印は、動作の際の衣服に生じる張りを示しています。
衣服の張りですか???
実は、更衣動作で必要なことに、このような衣服の張りを感じながら行うということがあります。
通常、健常者は、両上肢を使って衣服の張りを調整しながら動作を行なっています。
片麻痺では、片手動作の中で、衣服の張りを感じたり調整したりすることが難しくなります。
そこで、動作指導では、動作手順に加えて衣服の張りを感じながら行うことを強調するべきなのです。
片手動作でも、「上手く着れた」、「気持よく着れた」、「動作がしっくりしてきた」などと感じる時は、無意識のうちにこのような衣服の張りの調整ができている時です。
たしかに、動作手順だけを強調して繰り返しても、患者さんの反応がイマイチな時があります。
そんなケースが上手になった時には、納得した表情となり満足されます。
それは、単に繰り返して慣れたというよりは、上手く感覚がつかめたと実感した時なのですね。
そうだと思います。
我々は、外目にはわかりませんが、身体の感覚を手がかりにして動作や運動を行います。
動作手順のみの指導だと、この感覚的な部分への配慮が不十分となるのです。
そうですね。
だから、かぶりシャツを着る時は、麻痺側袖の次は、頭でも非麻痺側袖でも構わないで、衣服の張りを感じやすい方を選べば良いのですね!!
そうなんです。
次は、脱衣です。
脱衣の場合は、頭を脱ぐ→麻痺側袖→非麻痺側袖、が一般的な手順です。
矢印が点線になっていますね?
これは、衣服の張りが背面に作られているということを示しています。
正面からだと見えない部位なので点線にしました。
なるほど、脱衣では、背面を衣服が滑るような感じが必要ですね
そのために、背面に衣服の張りを作ることが重要ですね。
そうです!
そこが上手くできていないと、首の後ろで衣服が引っかかって脱げないことがあります。
ただ、この脱衣の最後の関門は、非麻痺側袖を引き抜く際に衣服の張りが作り難いことです。
たしかに、衣服の大半が脱げていたら、張りを作るための固定点が得られませんね。
そこで、写真では、太腿に押し付けるようにして摩擦を利用して脱ごうとしています。
これ以外にも、衣服の一部をお尻の下に敷いて脱ぐことなども考えられます。
ただ、しばしばあるのですが、口を使って脱ぐのはおすすめできません。
これをやってしまうと、歯を痛める可能性があります。
第一に、見た目もよろしくありません。
かぶりシャツの練習は、最初は伸縮性のある素材が良いですよね。
でも、トレーナーのようなダボっとした衣服は却ってやりにくいこともあります。
その理由は、衣服の張りを上手くコントロールできないからなんですね。
そうです。
だから、伸縮性があれば、身体にフィットしたものでも練習しやすいものなのです。
次は、前あきシャツについてです。
上図は、動作の手順と衣服の張りについて示しています。
一般的な手順では、麻痺側の袖→背中に衣服を回す→非麻痺側の袖の順番になります。
また、点線がありますね。
これは、背面での衣服の張りですね。
そうです。
前あきシャツの場合は、ワイシャツなどをイメージしてみてください。
ワイシャツでは、一般的には伸縮性があまりありません。
そのため、衣服の張りを作る時の感覚が少し分かりにくいのです。
なるほど、少しでも非麻痺側の手の力が緩むと張りが感じられなくなりますね。
ですから、背面で衣服の張りを作り続けることには集中が必要なんです。
更衣動作の練習場面では、ここを注意してください。
やはり、前あきシャツの場合も、動作手順が全てではないのですね。
右端の写真では、両肩の位置を丸で示しています。
はい、きちんと着れた時は、このように両肩の位置が衣服にフィットしています。
実は、これは着心地の問題だけでなく、ボタンを掛ることにも関連しています。
それは、どういうことでしょうか?
まだ、上着の更衣動作が自立ではない段階では、ボタンの掛け方がずれていることがありませんか?
あります!
その最大の理由は、両肩が衣服にフィットしていないままでボタンを掛け始めてしまうことにあります。
そうなんですね。
これは、気づいていませんでした。
だから、大きめのシャツで練習すると良くないのですね。
両肩のフィット感が分かりにく衣服だと、しばしばボタンの掛け違いが生じやすいです。
指導する側も患者さんも、両袖が通せたら気を緩めてしまいます。
また、衣服が両肩にフィットしていないと着心地も悪いと思います。
なるほど。
それでは、衣服を着た時のフィット感や着心地の良さも確認してから次に進む方が良いですね。
そこに気づけば、リハビリ専門職としても合格ですね。
だんだん、動作手順以上に大事な事が分かってきました。
それはよかった!
次は、前あきシャツの脱衣です。
前あきシャツ脱衣の関門は、最初にあります。
それは、非麻痺側の肩を抜くところです。
手順としては、非麻痺側の肩を抜く→非麻痺側の袖を脱ぐ→麻痺側の袖を脱ぐです。
ただ、最初の非麻痺側の肩から袖を脱ぐまでが少し大変です。
また、矢印や点線があります。
赤い矢印は、非麻痺側の肩を抜く時の衣服の張りを示しています。
緑の矢印は、衣服が滑る方向を示しています。
張りを作りながら、衣服と皮膚の摩擦を加減して衣服を滑らせることが必要です。
これは、片麻痺の患者さんにとっては高度な技術です。
それは、何故ですか?
片麻痺の非麻痺側は完全な健側ではありません。
これは一般的に知られていることですが、片麻痺の非麻痺側では筋力や巧緻性などが不十分なケースが大半です。
そのため、衣服の張りや衣服が滑る感覚を捉えてながら操作するような繊細なことは容易ではないのです。
衣服操作の細かいところにも、片麻痺の難しさがあるのですね。
このようなところをしっかりと配慮しないと、いくら繰り返し練習しても効率が良くありませんね。
真ん中の写真では、非麻痺側の袖が重力で自然に脱げるようにしています。
ここも、結構難しいですね。
ここまでくれば、麻痺側の袖は比較的簡単に脱げます。
そうですよね。
でも、非麻痺側の肩を抜くところから袖をを脱ぐまでが、どうしても上手くできない患者さんはどうしたら良いでしょうか?
そんな時は、かぶりシャツのように脱ぐと良いです。
頭が脱げてしまうと、袖は比較的容易に脱げると思います。
そう考えると、上着着脱の練習は、かぶりシャツから始めて、可能になってから前あきシャツを練習すると効率が良さそうですね。
このように見てゆくと、着脱の動作を丁寧に分析すると、患者さんの難しさが理解できるような気がします。
はやり、こんな風に分析することが重要なんですね。
重要なことに気づきましたね!
では、次には片麻痺の困難となりやすい点を具体的に挙げてみましょう。
片麻痺の上着更衣が困難な理由
片麻痺の更衣が困難となる状況
片麻痺の上着更衣が困難な場合は、具体的にはどんな状況がると思いますか?
いろいろ、ありそうですね。
最も、良く耳にするのは、麻痺側の袖が通せなかったりすることですね。
そうですね。
他にもあるので、具体的に箇条書きににしてみましょう。
- 麻痺側の袖が通せない
- 麻痺側の袖が肩まで上がらない、一度上がっても落ちる
- 頭が引っかかって脱げない
- 何とか着れても麻痺側の身頃が下がっていない
- 何とか着れても左右の肩の位置がずれている
- 前あきシャツを着る時に身頃を背中に回せない
- 前あきシャツのボタンをずれて掛けている
- 前あきシャツの非麻痺側が脱げない
- 非麻痺側の袖が脱げずに口を使う
よくあるのは、こんなところでしょうか・・・
次に、これらの背景にある、片麻痺特有の症状について考えてみましょう!
更衣動作の阻害因子となる片麻痺の症状ですね。
片麻痺と言っても、症状は多彩ですからね。
座位保持やバランスが不良
そもそも、座位保持が困難な場合は、上着更衣は未だ難しい状態でしょう。
また、なんとか座位が保持できても、極端にバランスを崩しやすい場合も同様です。
急性期や重度の患者さんに多いですね。
上肢の筋緊張が強い場合
上肢の筋緊張が強い場合は、単に手指や肘が曲がって着づらいだけではありません。
連合反応という現象が生じ、非麻痺手で操作を頑張れば頑張るほど、筋緊張がより高まり肘などが曲がってしまうのです。
この連合反応とは、痙性麻痺が強いケースでは非常に問題となります。
痙性麻痺については、以前に書いた 脳卒中片麻痺に多い痙性麻痺とは|症状と治療やリハビリ方法について という記事をご参照ください。
そうですね。
単純に拘縮しているだけなら、まだ慣れもあります。
しかし、更衣を使用とすると、勝手に肘や手指が曲がってくるような状況では上手く順応することもできませんね。
連合反応については、以下のような理解で良いですね?
連合反応とは、非麻痺側上下肢の努力性の使用により、麻痺側上下肢の痙性麻痺が増強する現象です。具体例としては、歩行時や非麻痺側上肢にて力や巧緻性が必要な場面で、麻痺側上肢の屈曲筋群の筋緊張が増強して、肘や手指が曲がってくることなどです。
はい、その通りです!
半側空間無視がある
高次脳機能障害の影響があることも更衣を困難とする理由になります。
中でも、半側空間無視はしばしば左片麻痺に併発することがあります。
半側空間無視の症状は、見えているはずの視野内において、片側が常に無視されるというものです。
半側空間無視については、以前の記事の リハビリによる高次脳機能障害の回復事例|失行失認へのアプローチ を是非ご参照ください。
半側空間無視の問題は、単に視覚的に外部空間への無視が生じるというものではありません。
身体図式と呼ばれる、身体の内部認識に対しても無視が生じます。
つまり、健常者のように、仮に目を瞑っていても自分の手脚がどこにあり、どのような姿勢をとっているかなどの認識が低下するのです。
経験上、半側空間無視を伴う片麻痺の更衣動作の障害は非常に多く、また改善にも労力を要するものです。
半側空間無視を含む高次脳機能障害では、更衣などの日常生活動作に影響がありますよね。
最も重要な問題とは?
ここまで、更衣動作が困難となる原因を挙げてみました。
しかし、実は、それらは本質的な問題ではありません。
そこに少し触れたいと思います。
たしかに、バランスの不良や、上肢の拘縮や連合反応の影響、半側空間無視などの影響は大きいです。
さらにそれにより、更衣動作の本質的な問題が強調されるのです。
健常者は手順を考えて着るのか?
片麻痺の上着更衣が困難な場合の、本質的な問題とは何でしょうか?
実は、動作手順以上に重要なことがあります。
そもそも、元々我々は手順を考えながら衣服を着ているでしょうか?
患者さんも、片麻痺になってから動作手順を考えなければならなくなった訳です。
つまり、元々は無意識に行なっていた動作に対して、新たに手順を考えることで余計にややこしくなっている場合もあります。
特に、高次脳機能障害を持つケースでは、そのような面があります。
では、その無意識な動作とはどのようなものでしょうか?
実は、そこに更衣動作獲得の重要な鍵が存在します。
たしかに、普段、我々は手順など考えずに衣服を着ていますね。
無意識的な動作が必要なのですね。
更衣に必要な無意識的な運動や自律的反応
身体における、無意識的な動作とはどのようなものでしょうか?
実は、我々の行為の90%は無意識に行われるともいわれます。
我々は、自分の意思で行動や動作を行っていると考えがちですが、実は意識的に行っているのは僅か1割程度なのです。
つまり、圧倒的な無意識に支えられて生存していると言っても過言ではありません。
それは、更衣動作についても同様です。
更衣動作のおける、無意識的な動作とはどのようなものでしょうか?
その前に、そもそもの前提となる無意識的な身体活動についての知識を押さえておきましょう。
無意識的な身体活動として最も有名なのは、自律神経による作用でしょう。
自律神経とは
- 自律神経は、1日24時間休むことなく働き、我々の生命維持を支えます。
- 自律神経は、交感神経と副交感神経からなります。
- 自律神経は、我々の血管や内臓、体温調整などと深い関係にあります。
- 活動時には、交感神経が優位となることで、血圧を上げたり心拍数を増やしたりします。また、寒い時には皮膚に鳥肌を立てることで体温を保とうとする作用があります。
- 一方で、副交感神経は、リラックスした時に優位となります。
- 副交感神経は、血管を拡張させ、心拍数を低下させます。
- 副交感神経は、内臓の働きを優位にすることで、消化や排便を促進します。
また、姿勢反応や筋緊張なども無意識レベルで調整されます。
姿勢反応や筋緊張なども無意識レベルで調整させます。 これらは、脳幹網様体と呼ばれる、脳幹にある神経が網目のように張り巡らされた部位が関係します。 脳幹網様体の他の機能として、意識や覚醒の維持があると知られています。
脳幹網様体
看護roo! 脳幹機能 https://www.kango-roo.com/learning/2112/#:~:text=%E5%BB%B6%E9%AB%84%E3%81%AE%E5%89%8D%E9%9D%A2-,%E8%84%B3%E5%B9%B9%E7%B6%B2%E6%A7%98%E4%BD%93%E3%80%94%20reticular%20formation%20%E3%80%95,%E8%84%B3%E5%B9%B9%E7%B6%B2%E6%A7%98%E4%BD%93%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%80%82
姿勢反応や筋緊張も、覚醒などと同じように脳幹網様体で調整されるのですね。
以上のように、我々にとって無意識的な活動が非常に重要であることが分かります。
では、更衣についてはどうでしょうか?
衣服の更衣と無意識的な活動の関係について考察した文献は多くありませんが、以下の書籍が参考になります。
「環境適応」柏木正好著 では、更衣や洗体などの身体への接触に関する自律的な運動反応について書かれています。 洗体や更衣などにおける運動の本質は、上肢を自由に使えない動物の身づくろいや毛づくろいにあると述べています。
更衣動作の質的研究
柏木 正好 「環境適応 第2版」青海社
つまり、下図のように、様々な動物達は、身体を地面や木々にこすりつけるような動作により身体の清潔の維持を計っている側面があります。
様々な動物の身づくろい 身体を木や地面にこすりつけて身体のメンテナンスを行う
身づくろい 「アニマルウォッチング」 デスモンド・モリス
我々人間も、背中がかゆい時には、壁や柱にその部位をこすりつけて問題を解消しようとします。
上肢が高度に進化した人間では、身体を洗う時も衣服を着る時も両手が主役のように思われがちです。
しかし、衣服を効率的に着脱するには、上肢以外にも衣服と接する身体の局所が無意識的に反応する必要があるのです。
次には、このような更衣における、身体の無意識的活動について考えてみましょう。
環境適応講習会ですね。
片麻痺更衣が手順練習だけではダメな理由
主役は非麻痺側手ではなく着る身体そのもの
ここまでご説明したように、環境適応では、「片麻痺の更衣動作においても動作の主役は非麻痺側手ではなく、着る身体そのもの」ということを強調しています。
少し抽象的で分かりにくいかもしれませんので、一つ体験をしてみましょう。
もし可能であれば、試しに今履いている靴下を脱いで、次に履いてみてください。
両手を使ってかまいませんが、履く側の足は麻痺していると仮定してください。
麻痺しているため、足首は動かせません。
どうでしょうか?
両手を使っても、かなり難しいと感じませんでしょうか?
そして、どうしても無意識的に足首が動いてしまわないでしょうか?
いくら、足首の力を完全に抜いているつもりでも、両手の動作に合わせて動いていないでしょうか?
これが、更衣における無意識的な動作の一例です。
本当ですね。
足首を動かさないようにして無意識に動いてしまいます!
更衣練習は手順の理解に加えて、このような無意識的動作を引き出す必要があります。
しかし、実際に片麻痺により上下肢が麻痺している場合はどうすべきでしょうか?
足が麻痺している場合は、先ほどのような足首の運動は困難かもしれません。
上着の場合も、上肢が完全に麻痺している場合は動きが無いでしょう。
ここで、ポイントとなるのは、身体の近位部です。
片麻痺では、一見すると、重度の麻痺に見える場合でも、肩甲帯や骨盤帯を含む体幹には動きが残存しやすいのです。
例えば、肩甲帯を見てみましょう。
肩甲帯とは、肩間節や肩甲骨などを含む肩の周囲全体のことを言います。
この肩甲帯の無意識的活動動作を引き出すことは、上着更衣を円滑にするポイントと言えます。
次には、その具体的方法をご紹介しましょう。
着る身体に焦点を当てた方法
環境適応では、この実技のことを「縄抜け」と呼んでいます。
ロープをややきつめに身体に巻きます。
そこから、肩を抜くようにロープを通過させます。
ロープがきつめな為、肩をロープが通過する時には肩甲帯を前に出して肩をすぼめるようにする必要があります。
通過の瞬間には、逆に肩甲帯を引いて通過時の抵抗を少なくするような運動反応が出現します。
これを何度か繰り返すと、ロープの通過に伴う肩甲帯の運動が次第に明確となります。
この運動反応は、皮膚上をロープが通過する感覚を基にしての無意識的かつ自発的なものです。
丁度、ロープが衣服の通過点のような位置づけとなります。
次の写真は、この実技を行う前後での右片麻痺患者さんの上着着衣動作の変化です。
実技後は徐々に着やすくなっています。
少し、解説しましょう。
写真の左は、縄抜けの実技を含むリハビリ前の袖通しの場面です。
非麻痺側の左手で麻痺側の右腕の袖通しを行なっています。
しかし、麻痺側の右腕には、無意識的な運動反応が無く、右半身がどんどん後ろに引かれています。
一方で、写真の右は、麻痺側の右腕に無意識的な運動が見られています。
左手による袖通しに対して、通しやすいように右腕が前に出ています。
更衣動作には、手順学習と共にこのような無意識的な運動反応が重要なのです。
上肢の近位部に相当する肩甲帯の無意識的な運動が向上することにより、更衣が行いやすくなるのですね。
以上のように、片麻痺の上着更衣では、基本的な手順の理解に加えて、より動作が自然に行えるような無意識的な活動を引き出すことが大事です。
片麻痺の更衣で手順よりも大切なこと|練習してもできない時の対処法のまとめ
片麻痺の上着更衣の手順とはのまとめ
片麻痺の上着の更衣練習では、先ず手順の理解が重要です。
かぶりシャツの着脱、前あきシャツの着脱などの基本的な手順を学びましょう。
片麻痺の上着更衣が困難な理由のまとめ
片麻痺の上着更衣が困難理由には、座位バランスの低下、上肢の筋緊張の強さ、半側空間無視の影響などが考えられます。
手順の理解が非常に大事ですが、それ以上に重要な要素があります。
片麻痺更衣が手順練習だけではダメな理由のまとめ
片麻痺の更衣動作の習得には、手順練習に加えて身体の無意識的な活動の向上が重要です。
環境適応講習会は、更衣以外にも様々な参考になる情報を提供しています。