脳卒中の復職の現状
脳卒中患者の2割弱が就労年齢の65歳未満
モヤイ教授
今日もよろしくお願いします。
こんにちわ、コアラさん。
こちらこそ、よろしく。
今日は、どのようなお話をしていただけるのですか?
毎回、楽しみです。
今日は、脳卒中の復職についてです。
コアラさんは作業療法士(OT)ですよね。
OTは脳卒中のリハビリテーションの中で、どのような役割を果たしていますか?
はい。
私は、現在、回復期の病院で働いています。
OTは、理学療法士(PT)や言語聴覚士(ST)と協力しあって働いています。
食事や排泄などの日常生活動作の訓練や、上肢や手指の回復訓練などを行います。
なるほど、そうですね。
一般に、リハビリテーションという言葉は、身体機能や日常生活動作への訓練のことを指していることが多いですよね。
しかし、本来のリハビリテーションの言葉の語源はどのようなものかご存知ですか?
専門職の養成校で習いました。
Rehabilitationとは、「re」と「habilitation」に分けられます。
Rehabilitation(リハビリテーション)の「 re:リ」は再びという意味があります。
「habilitation:ハビリテーション」は、「habilis:ハビリス」という言葉が語源と聞きました。
ハビリスとは「適する」というような意味でしたね。
その通りですね。
つまり、「re」と「habilis」という言葉を組み合わせて、「Rehabillitation」という造語が作られたと言われていますよね。
ですから、リハビリテーションには、単なる機能回復訓練以外にも、「再び人間らしく生きる権利の回復」というような意味が込められています。
現場で働いていると、ついつい忘れがちなことですが、とても大事なことだと思います。
脳卒中の患者さんにとっては、しばしばこのことが「復職」という形で目的とされることがあります。
現在の高齢社会の中で働いていると、数の上ではどうしてもお年寄りへの支援が多いです。
しかし、復職や就労が目的となるケースもけっして少なくはありませんよね。
久留米エリアの脳梗塞への自費リハビリ|高齢化率や脳卒中患者数は? という記事の中で紹介していますが、国勢調査の資料などを参考にすると、脳卒中の発症率は1.4%ぐらいで、患者数は174万人と言われていますが、その中の17%が65歳未満であることがわかっています。
就労世代の脳卒中患者は全体の17%
厚生労働省 「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」
174万人の17%ですか!!
30万人近くですね。
大変な数なのですね!
その中で、実際に復職が可能だったのは、40%に留まっています。
脳卒中の復職率は40%
脳卒中の復職の現状 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/41/5/41_10668/_article/-char/ja/
30万人の40%とすると、12万人ぐらいですね。
つまり、18万人は、復職ができないということが現状なのですね。
もちろん、脳卒中の症状は多彩で複雑です。
よって、全員が復職することは難しいでしょう。
しかし、実は、この40%程度という復職率は、過去20年以上も変化していないそうでそうです。
20年前というと、スマートフォンも無かった時代ですよね。
現在のように、ITやAIが進歩した時代であれば、色々な働き方ができるのではないのでしょうか?
実際に、コロナ禍では、多くの企業がリモートワークになりましたし・・・・・
そうなんですよ。
もちろん、脳卒中の後遺症を抱えて復職するということは、けっして容易なことではありません。
しかし、もう少しぐらいは復職率が改善しても良いのかもしれませんね。
政府は、働き方改革により、女性や高齢者の就労を後押ししていると言われていますよね。
また、外国人の技能実習生の受け入れ緩和など、実質的な移民政策にも舵を切って労働力の確保に取り組もうとしているのですよね。
それなのに、脳卒中などの障害者の雇用が思ったように進まないことは、もっと問題視されても良いのかもしれませんね。
私もそう思います。
少子高齢化、人口減少、生産年齢人口の減少などへの問題を喚起する声は上がっています。
脳卒中の復職などへの取り組みは、生産年齢人口の減少への対応としても重視すべきなのかもしれません。
復職を諦めざるを得ない現状
しかし、20年以上も、復職率が変わらないのも少し不思議な気がします。
実際に、脳卒中患者へのニーズ調査では、仕事に対するニーズは高いものの、ニーズのあきらめで多かった項目も復職であるという皮肉な結果が示されています。
国の政策としては、どうなのでしょうか?
法律で企業に求めている、障害者雇用率は上がっているのでしょうか?
では、下の図を見てください。
障害者雇用率は身体障害者ではあまり伸びていない
厚生労働省による障害者雇用状況の集計結果 https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001027391.pdf
一番下に、法定雇用率の変化が示されています。
この20年の間、徐々に法定雇用率は高くなっています。
折れ線グラフが、実雇用率です。
実際の雇用率も、グラフで見ると急上昇しているように見えますね。
次に、積み重ねの棒グラフを見てください。
実際の障害者の雇用者数です。
精神障害者、知的障害者、身体障害者に分けて示されています。
どの障害者も、たしかに増えているようです。
ただ、近年の増加率は、精神障害者と知的障害者で特に高く、身体障害者はやや伸び悩んでいます。
脳卒中による片麻痺などの後遺症は、主に身体障害者に分類されます。
このグラフからも、脳卒中の復職は目立って改善しているとは言えないのかもしれませんね。
たしかに、そうですね。
一般的に、脳卒中後の復職では、発症から3ヶ月と1年〜1年半の二つの時期では復職率が高まるものの、それ以降は変わらないことが現状だと言われています。
これは、傷病手当金の受給や定年退職年齢が関係していると考えられます。
いずれにせよ、脳卒中後などの中途障害の復職は決して容易なことでは無いと言えるでしょう。
なんだか、とても残念な気がしますね。
今の日本では、高齢者でも働かざるを得ない状況があると聞きます。
働き改革というと聞こえが良いのですが、実際には年金だけでは暮らせない現状もあるのだと思います。
一方では、脳卒中後の身体障害者の雇用率は大きく増えていないのですね。
働きたい人が仕事がなく、高齢で身体的に苦しい人が働かなくてはならないとしたら、あまり良いことではありませんね。
脳卒中への就労支援サービスは乏しい
実際に、わが国の障害者雇用制度の矛盾を指摘する声もあります。
それは、障害者の雇用制度が、主に新規雇用を目的としているため、脳卒中などの中途障害者への復職支援サービスとしては乏しいというものです。
なるほど、そうかもしれませんね。
障害者雇用促進法では、法定雇用率は達成できない企業については、不足1名につき月に5万円の納付金を納めることとされています。
逆に、法定雇用率は超過して雇用した場合には、1名につき27,000円が支給されます。
しかし、これぐらいの金額では、必ずしも障害者を雇用するための強いインセンティブにはならないのかもしれません。
そうかもしれませんね。
障害者総合支援法では、就労継続支援AB事業や就労移行支援事業などがあります。
これらも優れた事業ではありますが、直接的に復職への支援を行うものではありません。
そうですね。
私たち、医療関係者の立場としても、具体的にできる支援はあまりない印象ですね。
復職は、結局のところ患者さん自身と企業との当事者間の問題とみなされ、行政が直接支援することはできない状況ですね。
過去に復職に上手くたどり着けたケースでも、私たちの支援の結果というよりも、脳卒中発症以前の患者さんと職場との関係などの方の影響が大きかったと思います。
もちろん、通常のリハビリや医療相談などは大切です。
しかし、それらだけが、復職を有利にするとも言えない状況ですね。
そうであれば、ご本人の意欲や努力以前に、国や企業の経済状況が大きく影響することも多くなりますね。
今の日本は、30年も経済成長していない国です。
平均年収でも、G7だけでなくアジアの国々と比べても低下しつつある状況です。
このような経済状況の中で、国を企業もグローバル化により国際競争にさらされている訳です。
障害者雇用率が大きく上昇しない背景にも、国の経済状態が無関係ではないですよね。
本当にそう思います。
国の成長なくして、障害者雇用だけが良い方向に変わるかと言われると、それはかなり疑問と言わざるを得ませんね。
脳卒中の復職は社会的課題
少子高齢化の本質は就労世代人口の減少
少し大胆なことを言いますと、私は日本の様々な問題の多くは国の経済成長により解決できることが多いのではないかと考えています。
例えば、脳卒中のリハビリ難民問題という言葉が出来た背景にも、国が財政支出を制限し始めた事と関係があります。
モヤイ教授は、どうお考えですか?
様々な問題を、経済という視点からだけで論じることは少し難しいかもしれません。
ただ、逆を言えば、経済が絡まない事が無いということも事実でしょう。
少子高齢化の背景に、経済問題が無いか?と尋ねられたら、やはりあると答えます。
そうですよね。
少子化の背景に、日本が対外的に貧困化しつつあることや、実質賃金が伸び悩んでいることが関係しないとは思えません。
国は少子化対策と言いながら、授業料の無償化など、既にいる子供たちへの支援を行う方針です。
これ自体には反対しませんが、それで子供が増えるとも思えません。
少子化問題の本質は、将来的な生産年齢人口の減少です。
生産年齢とは、15〜64歳までです。
脳卒中の復職率向上は国家的課題
ちょうど、今回のテーマである、脳卒中の復職とも関係する世代です。
今後、数十年間に渡って高齢者の数は大きく減らないのに、生産年齢人口は着実に減少することは間違いありません。
たしかに、好ましくない展開が予想されます。
しかし、現状だけを言えば、それほど悲観的なことばかりでもありません。
現在の2023年時点での日本の生産年齢人口は、高度経済成長期が始まった1950年代よりもまだ多い状況です。
あの当時は、国が財政支出を適切に行い、その結果1970年代まで高度経済成長が続きました。
戦後の最貧国の頃にできたことが、今は出来ないのでしょうか?
けっして、出来ないとは言えないでしょうね。
むしろ、出来るような気がします。
しかし、現在は国の政策がそのような望ましい方向へ向かないことも事実です。
これについては、短時間では語れないような根深い問題があるのかもしれません。
就労世代へのリハビリはもっと重視されるべき
ただ、コアラさんがおっしゃるように、65歳未満の脳卒中の患者さんたちの復職を考えることは、日本の国の労働力を維持する上では大きな課題なのかもしれません。
なんと言っても、生産年齢人口の減少にブレーキをかけることにもなるのですから。
しかし、その割には、復職が当事者の患者さんと企業の間の問題として片付けられることへも疑問が浮かびます。
一体、どのようなことが国や我々リハビリ関係者にできることなんでしょうか?
これも、一概には言えないことですね。
しかし、何とか現在のリハビリの制度の観点から考えてみましょうか?
はい、お願いします。
先ずは、復職を目標とするようなケースへのリハビリ期間を少し考え直すべきではないでしょうか?
今の制度では、発症年齢や復職を目指すかどうかなどと無関係にリハビリ期間や時間が設定されます。
はい、そうです。
例えば、40歳の一家の大黒柱の患者さんも、100歳の高齢者の患者さんも、同じように脳卒中のリハビリ期間は150〜180日とされています。
これは、一見すると公平なように見えますが、実はそうではないのではないでしょうか?
40歳の大黒柱であれば、その回復状況は少なくとも家族全員へ影響する問題です。
もし、復職出来なければ、企業や社会においても損失と言えるでしょうね。
一方で、100歳の方であれば、多くの場合はそこまでの影響は無いでしょう。
ただ、100歳の患者さんとご家族にそのように言えるか?というと少し難しいかもしれません。
つまり、もう余命が少ないのだから、若い患者よりも少し我慢してくださいというようなことは言えませんね。
それは、そうです。
だからこそ、法的な裏付けが必要となるのです。
法律でそのように決めなければ、現場が判断できることではありません。
考えてみて欲しいのです。
人間には必ず寿命があります。
そして、社会保障とは、皆の支えで成り立つものです。
将来にまだまだ担うべき重荷がある世代と、そうでない世代が等しく権利を主張することが本当に良いことなのでしょうか?
そうですね。
少し話は変わりますが、私は、日本人の思いやりや道徳心が海外で賞賛されることが嬉しいと感じます。
大震災の時にも譲り合いができたり、サッカーの国際大会の日本人観客が綺麗に掃除して帰ることなどがしばしば海外で話題になります。
そのような、他者への思いやりが持てる国民なのに、医療や年金などについては、将来世代のことを考えられないことはないですよね。
国やマスコミが、正しい情報を伝えれば可能だと思います。
今は、「若い人が選挙に行かないのも悪い」とか、「高齢者が社会保障を使いすぎることで将来世代が困る」とか、どちらかと言えば世代間を分断するような情報の方が目立ちます。
これでは、日本人が本来的に持っている思いやりの感情が消えてしまいますね。
脳卒中の復職の重要ポイントとは
脳卒中復職への最低条件とは
やはり、国の将来という観点からも、就労世代へのリハビリはもっと重視されるべきですね。
ただ、病院でのリハビリが必ずしも復職へのアプローチとは言えない面も感じます。
必ずしも、医療的なリハビリ期間が長ければ良いとも言えない印象もありますね。
もちろん、病院でのリハビリや医療相談の体制が、必ずしも復職に直結するとも言えないかもしれません。
実は、過去の報告で、脳卒中患者個人レベルでの復職条件について分析したものがあります。
そこでは、以下のように、通常の病院などでのリハビリの重要性を示唆する結論が書かれています。
①日常生活動作遂行能力が高い ②疲労なしに少なくとも300mの距離を歩行できる ③作業の質を低下させないで精神的負荷を維持できる ④障害受容ができている
脳卒中患者の復職条件
Prediction of functional outcome in hemiplegic patients. https://europepmc.org/article/med/3868038
なるほど。
これを読むと、病院でのリハビリの重要性も高いことがわかりますね。
そうなんです。
①日常生活動作遂行能力と、②疲労なしに300mの距離を歩行できる、については、病院などでのリハビリでも十分考慮できることです。
復職希望のケースでは、特に留意して欲しい点ですね。
就労訓練の前に重要なこと
ということは、他のケース以上に復職希望者へのリハビリ内容は重要ということですね。
日常生活動作というと、食事や排泄などのセルフケアが主体となりますね。
それに加えて、ケースによっては様々な課題への取り組みが必要ですね。
どのようなことでしょうか?
例えば、利き手交換と呼ばれるような訓練もその一つです。
これは、利き手側の片麻痺の患者さんが対象になります。
非利き手の左手などで、書字などの細かい動作を練習することですね。
なるほど、そうですね。
書字などは、復職には絶対欠かせないでしょうから。
しかし、経験的にしばしば、利き手交換訓練を拒否されることがあります。
その主な理由は、やはり、麻痺側の手で書けるように回復したいという思いからでしょう。
そこで、先ほどの③で挙げた障害受容が重要になります。
障害受容とは、回復を諦めるということはありません。
この場合であれば、長期的には麻痺側の上肢の回復に取り組みながらも、現実問題として利き手交換も練習するというような状況です。
そうですね。
入院やリハビリに決められた期間がある以上は、それまでの間に必要なことには取り組まなければなりませんよね。
私は、発症から一月程度で、麻痺側で書字が困難な場合には、利き手交換も積極的にお勧めしています。
ただ、これには、こちらの医療従事者側の態度も重要だと思います。
私もそう思います。
右手か?左手か?というような二者択一を患者さんに迫るのではなく、「麻痺側のリハビリにも取り組みながら現実で必要な利き手交換も行いましょうね」という雰囲気作りが重要です。
障害受容と上肢回復の関係については、後でも考えてみましょう。
歩行と日常生活動作自立のポイント
歩行や日常生活動作の自立に対しては、何か共通する重要なポイントがあるのでしょうか?
はい、あります。
これは、体幹の機能です。
体幹の機能は、バランス能力と密接な関係があります。
それに加えて、上下肢を使うための安定性の確保に必要です。
コアラさんは、臨床で体幹機能を意識していますか?
実は、最近までは、あまり重視していませんでした。
歩行は歩行訓練、上下肢は上下肢機能の運動促通などと、特に意識せずに行っていました。
日常生活動作については、病棟で反復動作訓練を行います。
たしかに、それらは重要ですね。
さらに、体幹機能の訓練を追加すると効果的です。
歩行や日常生活動作の改善にも相乗効果があります。
ここで、一つ有名な論文をご紹介しましょう。
これは、Trunk Control Test(トランクコントロールテスト TCT)と呼ばれるものについてです。
この論文は、トランク・コントロール・テスト(TCT)という、体幹機能の評価点数と歩行や日常生活動作の相関関係について研究したものです。 退院時の日常生活動作点数とTCTの相関係数:0.738、歩行速度とTCTの相関係数:0.654、バランスとTCTの相関係数:0.755など、体幹機能と日常生活動作や歩行が高い相関関係にあることが述べられています。
医学的な研究で、相関係数が0.6〜0.7とは、なかなか高い数字ですよね。
そうですね。
相関係数は、1に近いほど高いわけです。
ただ、人間を対象にする場合は、心理面などの様々な因子が関係するので、そう簡単ではありません。
ここで言えることは、体幹の訓練は歩行や日常生活動作の改善に大きな影響を及ぼすということでしょう。
体幹トレーニングは、スポーツやダイエットなどの分野で、非常に注目されています。
考えてみれば、人間のパーツの中で体幹が大部分を占めるのですから、体幹トレーニングが様々なパフォーマンスに影響することは間違いないでしょう。
ただ、リハビリの業界では、必ずしも必須ではないですよね。
もっと注目されて良いですね。
障害受容のために必要なこと
最後に障害受容についてです。
障害受容が出来ている方が、復職に有利ということですね。
でも、障害受容とは、なかなか難しい話ですよね。
具体的に論じることが難しいと感じています。
本当にそうです。
そこで、ここでは、先ほども話題に上がった利き手交換訓練と麻痺側上肢の訓練の関係について考えてみましょう。
しばしば、歩行や日常生活動作が自立に近い状態まで改善した患者さんが、いつまでも上肢の回復を希望していると、それは障害受容が出来ていないなどと言いますよね。そんな状況のことでしょうか?
そうですね。
そんな状況を想像してみましょう。
最近は、徐々に変わってきましたが、少し前までは片麻痺の麻痺側上肢の改善は急性期以外は難しいと考えられていました。
一般に、歩行や日常生活動作の回復がほぼ限界となったケースでは、患者さんはまだ回復していない上肢に注意が向きます。
時には、少し異常なくらいに回復へ固執するような場合もあるかもしれません。
しかし、一方で、医療従事者側としては、もう十分回復したから退院しても良いと考えています。
そのような時に、医療従事者側は患者さんのことを障害受容ができていないと呼ぶことが多いでしょう。
患者さんの気持ちも分かりますが、リハビリの専門職をしている身としては、医療従事者側の立場も理解できます。
実際に、患者さんに上肢や手指が回復しないと訴えられて悩むこともしばしばありますね。
そんな中で、非麻痺側で書字や箸動作を行うような利き手交換が進まないという悩みはよく聞きますね。
ここでの問題を、一つだけ指摘しますね。
はい、お願いします。
この場合、患者さんも医療従事者側も麻痺側?or非麻痺側?というような二者択一的な思考にはまっているのではないでしょうか?
しかし、そもそも、人間の活動は左右の両半身の協調の結果行われていますよね。
つまり、麻痺側の上肢や体幹にアプローチを行うことは、けっして、利き手交換においても無駄ではないということです。
それは、どういうことでしょうか?
たとえば、非麻痺側で細かい字を書く時などは、体幹や麻痺側身体にはより安定性が求められます。
そのため、未だ回復に乏しい麻痺側の上肢であっても、取り敢えず机の上に乗せて安定感を維持する方が良いという意見は多くあります。
たしかに、そうですね。
私も、利き手交換訓練の時には、なるべく麻痺側の上肢を机に載せたり、可能であれば紙などを軽く押さえるように促しています。
そうですよね。
そうだとすると、回復に乏しい麻痺側の上肢や手指であっても、少しでもアプローチをして安定性やバランス能力を確保した方が良いと思いませんか?
そう思います。
実際に、麻痺側へのアプローチを適切に行うと、それだけでも書字が良くなることがあります。
具体的に筆圧の調整や運筆の際のコントロールなどです。
大変、興味深いお話です。
そして、もし、そのようなアプローチ展開が上手にできたら、患者さんの要望である麻痺側上肢にアプローチしながらも利き手交換を進めることが可能ですね。
そうなんです。
そうなれば、患者さんの一方的な要望に悩まされずに、同時に医療側の方針でもある利き手交換を行うことが可能になるのです。
でも、そのような時でも、最終的にも麻痺側上肢が実用化しないことも多いですが・・・・
はい。
それも、十分あり得ます。
でも、患者さん自身の心も常に変化しています。
自分の意見が受け入れられながらも、ある程度の限界を悟る経験は、けっして無意味なものではありません。
人は、言葉による説得で納得できないことでも、体験を通じて悟ることができるのです。
私自身は、障害受容の本質とは、このようなことではないかと感じています。
共感できるような気がします。
難しい問題ですが、相手の立場を想像することも大事ですね。
モヤイ教授、ありがとうございました。
今回は、脳卒中の復職を考えることの重要性がわかりました。
その中で、私たちのようなリハビリ従事者にもできることが沢山あることが知れて勉強になりました。
脳卒中の復職へのリハビリで重要なこと 65歳未満の復職率の向上へのまとめ
脳卒中の復職の現状のまとめ
国の調査や著名な論文では、脳卒中患者の約3割が65歳未満の就労年齢と言われています。
しかし、実際に復職が可能だったのは、その中の40%程度に止まっていることが現状です。
そして、その傾向は、過去20年間もほぼ変化がありません。
脳卒中の復職は社会的課題のまとめ
現在から将来に渡って指摘される、少子高齢化問題の本質は、生産年齢人口と呼ばれる就労世代人口の減少です。
そのため、脳卒中の復職は社会的課題とも言えます。
よって、就労世代へのリハビリはもっと重視されても良いのではないでしょうか?
脳卒中の復職の重要ポイントとはのまとめ
脳卒中の復職への重要なポイントは、就労訓練以前に日常生活動作遂行能力や、ある程度の距離の歩行が可能なことなどです。
それらに加えて、障害受容も大きなテーマと言えます。