目次
片麻痺の尖足とは?
片麻痺になると尖足(せんそく)という症状が出現することをご存知でしょうか?
写真は、尖足の状態にある足首です。
足首が下向きに固定され、極端な場合は爪先立ちのようになります。
また、足首は関節の構造上、下向きと共に内返しになることも多くあります。
そのため、尖足のことを内反尖足(ないはんせんそく)と表現する場合もあります。
ウェルニッケマン姿位
久留米脳梗塞リハビリサービスHPより https://noukousokuriha.com/spastic-paralysis/
図は、片麻痺になった場合の典型的な姿勢を示しています。
このように、片麻痺の症状が典型的に見られた姿勢のことを、ウェルニッケマン肢位と呼びます。
図のように、上肢が屈曲し、下肢が伸展して突っ張ります。
イラストでは、装具を装着しているので目立ちませんが、実際には足関節に内反尖足があります。
尖足になると、一体何が問題でしょうか?
多分、お分かりと思いますが、麻痺側の下肢での体重支持が困難となります。
つま先立ちになって踵が着き難いのですから、当然ですよね。
仮に、何とか踵が着いたとしても、かなり無理な姿勢となります。
しばしば見かけるのは、足首が下向きに固定された状態で無理に踵をつけたため、膝が過進展の状態になってしまうことです。
これを反張膝(はんちょうひざ)と言います。
さらに、問題となるのは歩行です。
体重をかけられないだけではなく、下肢の振り出しの際につま先が引っ掛かりやすくなります。
歩行時に、下肢に体重をかける相を立脚相、下肢を振り出す相を遊脚相と言います。
つまり、尖足は、歩行に必要な麻痺側下肢での立脚相も遊脚相も困難にしてしまう症状と言えます。
片麻痺の尖足の原因は?
片麻痺の尖足の原因は何でしょうか?
図は、尖足の直接的な原因となりやすい筋肉である下腿三頭筋を示しています。
所謂、ふくらはぎの筋肉です。
下腿三頭筋は、腓腹(ひふく)筋とひらめ筋の二つの筋からなります。
両方の筋肉は、およそ膝の裏側の大腿骨からアキレス腱にかけて走行します。
下腿三頭筋が収縮すると、足首が下向きとなります。
尖足の原因は、主にこの下腿三頭筋の筋肉の緊張の亢進が背景にあります。
筋肉の緊張の亢進とはどのようなことでしょうか?
私達の身体には、全身で約640もの筋肉が存在しています。
我々は、その一つ一つを全て自分の意思で動かしている訳ではありません。
実は、大半は反射などの無意識の機構により制御されています。
その代表的なものが伸張反射です。
伸張反射
看護roo! より https://www.kango-roo.com/learning/2164/
図は、伸長反射の模式図です。
これは、膝蓋(しつがい)腱反射の検査場面です。
図のように、膝の皿の下の膝蓋腱を打腱器で叩くと、膝が勝手に伸びます。
これは、膝蓋腱を叩くことで、大腿四頭筋が瞬間的に伸張されることが刺激となり、次に筋肉に収縮が起こるものです。
私たちの身体には、このような反射が沢山作用しています。
それにより、常に意識をしていなくても姿勢が保持できたり、身体が自由に動かせるのです。
しかし、脳梗塞などにより片麻痺になると、このような反射が亢進してしまうことがあります。
反射が亢進するとどうなるかと言うと、常に筋肉の緊張が異常に高い状態が生じます。
或いは、一見リラックスして見えても、僅かな刺激で筋肉の緊張が高まります。
これが、象徴的に下腿三頭筋に見られることがあります。
患者さんが椅子に座っている時に、まるで貧乏ゆすりのように麻痺側下肢が揺れている場面があります。
これを専門用語でクローヌスと呼びます。
クローヌスは、伸張反射が強く亢進した際に見られます。
このように、反射や筋緊張が亢進すると、様々な場面に支障をきたします。
尖足とは、その中でも非常に重要な症状と言えるでしょう。
片麻痺の尖足にストレッチがダメな理由
一般に、尖足やそれに伴うアキレス腱の短縮などに対しては、リハビリの一つとしてストレッチが用いられることが多いです。
緊張した筋肉や腱に対して、ゆっくりとした持続的なストレッチを加えることは、リハビリ場面ではとても一般的な方法です。
ただし、片麻痺の尖足へのリハビリを総合的に見た場合は、ストレッチだけでは不十分です。
以下に、その理由を考えてみたいと思います。
実は難しいアキレス腱ストレッチ法
図は、尖足に対して下腿三頭筋やアキレス腱にストレッチを行っている場面です。
リハビリ現場ではしばしば見られる場面です。
リハビリ療法士は、踵を持って、足底に前腕などを当ててストレッチを行います。
最初は、膝を曲げて行い、次に写真のように膝を伸ばしても行います。
この方法は、比較的簡単に行いやすいのですが、実際にやってみるとあまり効果的にストレッチできないと感じることもあります。
特に、強い尖足の場合などです。
その理由は、足首の関節の動きを上手くコントロールできない方法だからです。
足首の中の距腿(きょたい)関節は、足首を上に向ける背屈(はいくつ)の運動の際は、足根骨(そっこんこつ)の一つの距骨という骨がその上の脛骨(けいこつ)の下に滑り込みます。
脛骨とは、むこうずねの骨のことです。
つまり、図のようなストレッチ方法では、このような足首の関節運動が上手く行えないため、ストレッチの効率が悪いと感じやすいのです。
他動ストレッチの効果は一過性
ヒトの運動は、大きく分けると自動運動と他動運動に分けられます。
ストレッチは、この中では基本的には他動運動として行われる場合が大半です。
他動運動の効果については、筋緊張が低いケースに対して、関節可動域の制限を予防する目的では一定の効果があると言われています。
しかし、尖足などの強い筋緊張の亢進を伴う場合や、一度出来上がった筋肉の短縮などを矯正する意味では、一過性の効果に限られるという意見が強いです。
つまり、どんなに上手にストレッチができたとしても、片麻痺の尖足に対してはその効果は限定的になりやすいものです。
他動運動だけでは学習できない
先ほど、ストレッチは他動運動として行われる場合が多いと述べました。
他動運動には、リハビリ上の限界があります。
片麻痺へのリハビリの大きな目標は、麻痺した身体などを克服して徐々に運動を再学習することにあります。
学習というと、勉強のように目や耳から学ぶという印象を抱くかもしれません。
ただ、運動面においても学習の概念は必要です。
例えば、スポーツにおいても、徐々にタイムが改善したり、できなかった技術が可能となる背景には、脳を中心とした学習のメカニズムが必要です。
彦坂興秀「随意運動における大脳基底核の役割」
脳とニューラルネットより一部改変
図は、運動学習に関連した様々な神経システムの模式図です。
ヒトの運動学習には、このように重層的な脳の働きが関与します。
その中でも注目していただきたい部分があります。
赤の矢印の、感覚入力の流れです。
感覚入力は、脳幹/脊髄に入り運動出力となります。
さらに、感覚入力は大脳皮質にフィードバックされて、大脳皮質から運動司令を出すと共に、一部は大脳皮質連合野と呼ばれる高次の脳の領域にも入ってゆきます。
この流れの中で、脳では様々な学習が行われます。
しかし、ここで一つ重要なことがあります。
それは、実際の感覚入力は自発的な運動の結果生じるということです。
仮に、他動的に関節を動かしたとしても感覚自体は生じます。
しかし、それは自らが指令を出したものでないため、運動を再学習する手がかりにはなりません。
大事なことは、自発運動の結果生じた感覚入力を脳がしっかりと受け止めて再学習に結び付けることです。
つまり、他動運動だけでは学習はできないということです。
片麻痺尖足への新しい施術方法
以上のように、片麻痺のリハビリにおいては他動的なストレッチだけでは不十分な理由をご説明しました。
次に、どのような方法が、片麻痺の尖足に有効なのかを考えてみましょう。
正確な関節運動を伴うストレッチ
先ずは、ストレッチについてです。
ストレッチのことを、関節可動域(ROM)訓練と読み替えても良いと思います。
前述の一般的な方法では、十分効果的には感じられないかもしれません。
それに対しては、以下の方法を行います。
左図は、足首の背屈の際に、距骨を脛骨の下に押し込むようにして行っています。
実際に、生理的に正しい関節運動においては、距骨が脛骨の下に滑り込むようにして背屈運動が行われます。
右図は、足首の骨のイメージです。
丁度、矢印の方向に距骨を押し込みます。
このようにして、関節運動としても正しい動きを行うことで、より効果的に下腿三頭筋やアキレス腱のストレッチが可能となります。
振動刺激を加える
次に、振動刺激を利用してみましょう。
左図は、筋膜リリースガンと呼ばれる機器です。
これを右図のように足底などに当てて振動刺激を身体に与えます。
経験上、振動刺激は筋膜や腱膜、腱や関節包などの、皮膚から見てやや深層の組織に有効だと思います。
実際に、振動を感じるセンサーは、皮下組織や筋膜などに多く分布しているそうです。
振動刺激には、主に二つの意義があると思います。
一つ目は、振動により硬い組織を緩めることです。
二つ目は、振動感覚の入力により、運動学習を促すことです。
一つ目は、比較的に理解しやすいのではないでしょうか?
多くの方が、マッサージ器などを通じて経験されているでしょう。
二つ目は、少しイメージし難いかもしれませんので、例を挙げてみましょう。
電動歯ブラシを使ったことがおありでしょうか?
電動歯ブラシは振動でブラシを動かしますが、力の入れ加減によってはもろに振動を感じることがあります。
しかし、慣れてくるとそのような誤操作は次第に無くなります。
その代わりに、頬の筋肉などを使って歯ブラシのヘッドを包み込むようにサポートできるようになります。
これにより、上手に振動を吸収することができます。
このように、振動刺激には周囲の筋肉の働きを引き出して運動学習を促すことが期待できます。
下腿三頭筋の随意収縮を起こす
これまでのように、正確なストレッチや振動刺激などにより、尖足の状態に緩和が見られたら、次に、自発的に足首の運動を練習します。
図のように、助けながら足首の運動を行います。
多くの場合は、下向きの底屈(ていくつ)の運動が比較的可能と思われます。
この時には、下腿三頭筋の随意的な筋収縮を起こします。
タッピングと呼ばれる、筋肉への刺激を利用する場合もあります。
元々、尖足で筋肉の緊張が強い下腿三頭筋を収縮させるには目的があります。
筋肉は特性上、収縮すると次には弛緩する特徴があります。
筋肉の緊張が亢進した状態は、言わば筋肉の緩み方が分からなくなっている状態とも言えます。
緊張の亢進を伴う尖足に対して、随意的な筋肉の収縮と弛緩を繰り返すことで、緊張の緩め方を学習する機会になります。
背屈運動の促通
随意的な底屈に続いて、背屈も練習します。
実際に、底屈運動の反復により下腿三頭筋の収縮と弛緩が分かりやすくなると、背屈も可能となる場合があります。
これらの、片麻痺尖足への新しい施術方法については、私たち 久留米脳梗塞リハビリサービス のオリジナルアプローチの部分が多く、技術的な習熟が必要です。
ご関心がある場合は、是非、お問い合わせください。
片麻痺の尖足の原因はなにか?足首ストレッチではダメのまとめ
片麻痺の尖足とは?のまとめ
片麻痺になると、尖足(せんそく)という症状が出現する場合があります。
尖足は、片麻痺の典型的な姿勢の一部でもあります。
片麻痺の尖足の原因は?のまとめ
片麻痺の尖足の原因には、主に下腿三頭筋の筋肉の緊張の亢進が背景にあります。
片麻痺の尖足にストレッチがダメな理由のまとめ
ストレッチを加えることは、リハビリ場面ではとても一般的な方法です。
しかし、片麻痺の尖足へのリハビリを総合的に見た場合は、ストレッチだけでは不十分です。
片麻痺尖足への新しい施術方法のまとめ
片麻痺尖足の原因を取り除くには、他動運動だけでなく下腿三頭筋の随意収縮も必要です。
片麻痺尖足への新しい施術方法にご関心がある場合は、是非、お問い合わせください。