

さくら先生!
前回は、脳梗塞による認知症について教えていただきました。

血管性認知症について勉強しましたね。

今回は、脳梗塞後の血管性認知症のリハビリについて教えてください。

わかりました。
でも、その前に前回の復習をした方が良いですね。
脳梗塞による認知症である血管性認知症についての基礎知識も再度確認してください。

是非、前回の記事を参考にしてください。

はい、わかりました!

先ず、脳梗塞後の血管性認知症の症状や評価についてご説明しましょう。
目次
脳梗塞後の血管性認知症に伴う症状と評価

では、次の図を見てください。

血管性認知症の代表的な経過
河野和彦「ぜんぶわかる認知症の事典」成美堂出版より

これは、前回の記事の中でもご説明いただいた血管性認知症の代表的な経過についてですね。
血管性認知症は、多発性ラクナ梗塞やビンスワンガー病などの皮質下型の小血管性認知症が多いのでしたよね。

最初は、無症候性であっても、脳梗塞を繰り返すうちに次第に様々な症状が出現するのでしたね。
記憶障害などの認知症の中核症状だけでなく、当初は歩行障害や意欲低下などが見られ、徐々に認知症の症状も著明になるのでしたね。

はい、そうです。
ですから、アルツハイマー型認知症のように最初から記憶障害や見当識障害が目立つと言うよりは、歩行障害や構音障害などの運動系の障害も併せ持つので、そちらの評価もしなければなりません。

認知症といっても、運動面と認知面の両方を見ておく必要があるのですね。

図では赤線が血管性認知症の経過です。
青のアルツハイマー型認知症と比べると、階段状に進行することがわかります。
つまり、急に症状が悪くなったり、新しい症状が現れたりすることがあるのです。

最初の症状や病気の経過についても把握しておく必要がありますね。
歩行障害

血管性認知症において、当初から問題になるのは歩行障害です。

血管性認知症の歩行障害の特徴は、小刻み歩行や幅広歩行と呼ばれるものです。

小刻み歩行というと、パーキンソン病の典型的な歩行パターンですね。

そうですね。
血管性認知症では、歩行パターンだけでなく、姿勢も前傾姿勢となりバランスが低下するなど、パーキンソン病と似た要素があります。

次の図に、小刻み歩行や幅広歩行の状態を示します。
比較できるように、正常歩行も記載します。


正常歩行に比べると、小刻み歩行や幅広歩行は、一歩の長さである歩幅が狭いことがわかります。
歩幅はストライドとも言いますよね。
では、小刻み歩行と幅広歩行の違いは何でしょうか?

小刻み歩行は、一歩の長さである歩幅と共に、左右の足の間隔である歩隔も広くはありません。
この点もパーキンソン病と似ています。
一方で、幅広歩行の場合は、歩隔を広めにとっていることが特徴です。

これは、支持基底面を広くすることで安定性を補う目的があります。

歩隔を広くして、支持基底面を拡大することをワイドベースとも言いますよね。
ワイドベースは、失調症のような安定性に乏しい場合に見られやすいですよね。
つまりは、幅広歩行の場合も不安定性を代償する側面があるのですね。
意欲低下

意欲の低下なども、よく見られますね。

意欲低下や自発性低下のことを、アパシーと呼びます。
アパシーは、うつとは異なります。
うつが、抑うつや悲壮感が主体で、希死念慮などもあることに対して、アパシーは意欲や自発性の低下が主になります。

脳卒中後のうつも多いと言われますが、混同してはいけませんね。

アパシーでは、生活習慣が乱れたり、あらゆることに無気力・無頓着になります。
身だしなみや、整容をしなくなるなどの特徴があります。
構音障害

構音障害は、前回の記事でもご説明した通り、失語症とは異なります。
発声発語器官の運動障害で、同時に嚥下(えんげ)障害を伴うことがあります。

失語症が、大脳皮質の言語中枢の問題であることに対して、構音障害は、発声発語器官の筋や喉頭の運動障害により発話が不明瞭になることを指すのですよね。

その通りです。
発話の不明瞭さに加えて、速さ・リズム・声量にも乱れを生じます。

構音障害は、脳幹にある脳神経核の中の、舌咽神経・迷走神経・舌下神経・三叉神経などの障害によって生じます。
このような状態を球(きゅう)麻痺と言います。
しかし、脳梗塞などによる血管性認知症の場合では、脳幹よりも上位の大脳皮質や皮質下の障害により球麻痺に似た症状が起きます。
これを、仮性球麻痺や偽性球麻痺などと呼びます。

つまり、脳幹の脳神経核に接続する前の、中枢神経の段階で障害があることで、あたかも球麻痺と同じ症状が現れるということですね。

はい、そうです。
球麻痺や仮性球麻痺による構音障害は、発声発語器官の運動障害ですから、口腔周辺の運動の麻痺が見られます。
これの評価には、しばしば「パ・タ・カ・パ・タ・カ」を早口で繰り返すことが用いられます。

これを応用したのが「パ・タ・カ・ラ」体操なのですね。

「パ」は口唇音です。唇を使って作る音です。
「タ」や「ラ」は舌の前の方が使った舌音です。
「カ」は舌の奥で作り出す喉頭音になります。

これらを一つづつ発音することも難しい場合がありますが、さらに「パ・タ・カ」のうように切り替えて発音することはさらに難しいかもしれません。これを交互変換運動と言います。

なるほど、このような口腔周辺の運動障害があれば、当然のこととして嚥下機能にも問題を生じる可能性があるのですね。
記憶障害

記憶障害は、認知症の中核症状の一つですね。

はい。記憶障害や見当識障害は、認知症の代表的な中核症状と言えます。

前回の記事の復習になりますが・・・・・
記憶には、頭で覚える陳述記憶と身体で覚える非陳述記憶があるのでしたね。
認知症で問題になるのは、頭で覚える陳述記憶の方でしたね。
そして、陳述記憶の代表は、エピソード記憶でした。

エピソード記憶とは、「いつ・どこで・何をした?」というような記憶のことです。
感情とも深いつながりがあります。

記憶には、ものごとを覚える「記名」、それをとどめる「保持」、必要時に引き出す「想起」の過程があることも重要でしたね。

以下に、記憶障害や見当識障害などに対する代表的な検査方法のMMSE(Mini Mental State Examination)をお示ししますね。

MMSE(Mini Mental State Examination)
服部光男 全部見える脳・神経疾患 成美堂出版
失禁

次は失禁ですね。
介護上も問題になりますね。

脳梗塞などの脳卒中では、急性期には弛緩(しかん)性膀胱に、それ以降では過活動性膀胱になりやすいものです。

弛緩性膀胱では、膀胱の収縮力が低下して、うまく排尿できなくなります。
逆に、過活動性膀胱では、膀胱が過敏となって、頻回に尿意を感じやすくなります。
過活動性膀胱は、切迫性失禁の原因とされていますね。
脳梗塞後認知症へのリハビリの内容
歩行障害へのリハビリ

次は、脳梗塞後の血管性認知症へのリハビリについてですね。
先ずは、歩行障害ですね。
よろしくお願いします。

血管性認知症を伴う場合の歩行障害は、脳の中の病巣の部位により症状が異なります。
血管性認知症の場合の病巣は、皮質下型の多発性ラクナ梗塞などが多いと言われています。
当初は無症候性の脳梗塞の場合が多いのですが、脳梗塞を繰り返すうちに次第に歩行障害などが目立ってきます。

一般に、脳梗塞というと片麻痺といいうイメージがありますが、そうではないのですか?

典型的な片麻痺となるのは、アテローム血栓性脳梗塞が大脳皮質に生じる場合が多いでしょう。
一方で、皮質下型のラクナ梗塞などでは、それよりも麻痺の影響は少ないケースが目立ちます。

その一方で、先ほど述べたように、皮質型ラクナ梗塞などによる血管性認知症では、小刻み歩行や幅広歩行などが目立ちます。

同じ脳梗塞でも、皮質型と皮質下型では、歩行障害の内容が異なるのですね。
皮質型では、典型的な片麻痺歩行。
皮質化型では、パーキンソン病のような小刻み歩行などになるのですね。

皮質型の片麻痺の歩行については、以下の記事も参考になります。
是非、ご一読ください。

皮質下型のラクナ梗塞などによる血管性認知症の歩行訓練はどのように行われますか?

一般的な歩行訓練は、歩行器や平行棒、杖などを用いて行われます。
次の図を見てください。

血管性認知症の歩行訓練に用いられる歩行器

血管性認知症の歩行訓練に用いられる平行棒・T字杖

脳梗塞後の血管性認知症では、比較的に麻痺が目立たないため、歩行器や平行棒などによる両上肢を用いた方法で歩行訓練を行うことができます。

それ以外には何か有効な方法がありますか?
下肢のストレッチ訓練などは必要ですか?

はい、ストレッチ訓練や関節可動域(ROM)訓練を歩行訓練の前に行うことも有効です。
経験的には、下肢だけでなく、体幹へもストレッチを行うことが重要だと考えています。
血管性認知症では、前述の通り、姿勢も前傾姿勢となりバランスが低下するなどの問題があります。
それに対しては、下肢だけでなく体幹へのアプローチも有効と考えます。
次の図を見てください。

体幹の筋肉模式図

これは、体幹の筋肉のイメージ画像です。
非常に多くの筋肉が存在することがわかります。
姿勢やバランスを改善するためには、体幹へのアプローチが必要となります。
そして、それは歩行機能の改善へも役立ちます。

例えば、どのようなアプローチが良いですか?

次の図を見てください。
あくまで一つの例ですが、体幹のストレッチなどが効果的だと考えます。


なるほど、わかりました!
意欲低下への対応

意欲低下への対応は難しいですね。

大切なのは、意欲低下をうつと混同しないことです。
繰り返しになりますが、うつが、抑うつや悲壮感が主体で、希死念慮などもあることに対して、意欲低下(アパシー)は意欲や自発性の低下が主になります。

自発性低下に対して、誤って抗うつ剤が投与されると、かえって逆効果になる場合もあります。

どのような対応が良いのでしょうか?

先ず、良くない対応としては、「なぜできないのですか?」などと責めたり、強制するようなことです。

かと言って、放置することは、さらなる心身機能の低下を招きますよね。

意欲や動機づけを高める工夫が必要です。
それには、情動的に「快」の刺激が重要になります。
強制されては「不快」の反応しか表れないですよね。

患者さんが好きなことや得意なことを取り入れることが大事です。
また、それに加えて楽しい雰囲気作りも必要です。
こちらが笑顔で話しかけるなど、楽しい雰囲気が感じられる接し方から始めます。

どんな人にも、好きなことや得意なことはありますから、そこがきっかけなのですね。

それから、基本的には受容的・肯定的な態度で接します。
小さなことでも、「上手くできましたね」と肯定することで次第にポジティブな感情が増えるように心がけましょう。
構音障害へのリハビリ

構音障害は、発声発語器官の筋や喉頭の運動障害により発話が不明瞭になることでしたね。

はい、そうです。
構音障害とは、つまりは口腔周囲の運動障害と言えます。
脳梗塞では、手脚の麻痺や体幹の麻痺が生じるように、口腔周囲にも運動障害が表れやすくなります。
そして、嚥下障害を伴う可能性が高くあります。

これらに対しては、先ずは言語聴覚士(ST)の介入が必要ですね。

その通りです。
STにより言語状態や嚥下状態の評価を行う必要があります。
嚥下障害に対しては、場合によっては嚥下造影(VF)検査や嚥下内視鏡(VE)検査を行う場合もあります。

その上で、呼吸・発声・口腔機能・発音の各訓練を段階的に実施します。
それに加えて、口腔周辺へのマッサージや体操なども行います。

構音障害へのリハビリは、主にはSTが中心となり実施されます。
しかし、理学療法(PT)や作業療法(OT)などのリハビリも間接的に影響を及ぼすことがあります。
例えば、呼吸機能は胸郭や横隔膜などの運動が必要になります。
それについては、PTやOTで行われるような全身の運動機能へのリハビリが、結果として言語面の機能をアシストすることにもなります。

それから、レクレーションなどで行われるような、口腔体操も有効と考えます。

リハビリは、チームアプローチと言いますが、構音障害へのリハビリもそうなのですね。
記憶障害へのリハビリ

記憶障害へのリハビリは、認知症の中核症状へのアプローチの代表ということになりますね。

今の私のリハビリの仕事では、身体障害を併せ持つ患者さんへの援助が多いので、記憶障害そのものへのアプローチはそれほど行えていません。
でも、現在はこれだけ認知症が問題になっている訳ですから、記憶障害へのリハビリも色々とあるのでしょうね。

そうですね。
身体障害へのリハビリと比べると、まだ確立されていないかもしれませんが、次第に開発されつつあると言って良いでしょう。

これから、いくつかのリハビリ内容のご紹介をいたします。
ただ、その前に記憶について重要なことをご説明いたします。
それは、記憶と情動についてです。
次の図を見てください。

海馬と扁桃体の位置関係
服部光男 「全部見える脳・神経疾患」成美堂出版

これは、脳の深部にある大脳辺縁系という部位の解剖です。
赤丸で囲んでいる、扁桃体(へんとうたい)と海馬(かいば)に注目してください。
扁桃体とは、情動を司る部位です。情動とは快・不快の価値判断を行うことです。
海馬は、ご存じの通り、記憶を司る部位ですね。

扁桃体と海馬が近い位置にあるということは、何か意味があるのでしょうか?

それは、非常に大事なポイントです。
扁桃体と海馬が隣接関係にあるのには意味があります。
記憶は情動に強い影響を受けるのです。
これを情動記憶系と言います。

たしかに、情動的に快や不快がはっきりしている事は記憶に残りやすいですね。
そのような意味ですか?

はい、そうです。
思い出してみると、とても怖いことやとても楽しいことは記憶に残りやすいのではないでしょうか?
そのように、記憶障害のリハビリは、情動的な快・不快を意識して行うことが大事なのです。

そして、情動は、我々の五感を形成する感覚情報に左右されます。
その中でも、嗅覚(きゅうかく)は特に大事です。
次の図を見てください。

大脳皮質における嗅覚野の位置
服部光男 「全部見える脳・神経疾患」成美堂出版

嗅覚の特徴は、鼻からダイレクトに感覚情報が大脳皮質に入ってゆくことです。
これは、他の感覚には無いことです。
多くの感覚は、感覚受容器から大脳皮質まで複雑な神経経路をたどります。

そうですよね。
視覚なんて、受容器の眼球は顔の前についているのに、大脳皮質の感覚野は後頭葉になるのですよね。
それに比べたら、嗅覚は鼻から嗅覚野までの経路がとても短いですね。

そして、この2枚の図を見てわかるのは、大脳皮質の嗅覚野の深部に大脳辺縁系の扁桃体や海馬が位置していることです。
嗅覚・・・、つまり匂いは快・不快の情動に直結しやすい感覚と言えます。

そうですね。美味しそうな料理の匂いは情動的に快をもたらします。
一方で、腐敗臭は不快をもたらします。
それらは、行動と直結しますね。

さらに、香りと記憶が結びつきやすいという話を聞いたことがありませんか?
良い香りは、その時のエピソードと共に記憶に残りやすいですね。

なるほど・・・・
つまりは、記憶障害へのリハビリを考える上でも、快・不快の情動を考える必要があり、嗅覚は他の感覚よりも情動に影響をもたらすことを配慮すべきなのですね。

そうです!
具体的なリハビリ内容も重要ですが、前提として情動・記憶・嗅覚などの感覚の関連性を踏まえておく必要があるのです。
学習療法

それでは、記憶障害などの認知症の症状への具体的なリハビリ内容を教えてください。

認知症の中核症状の代表とも言える記憶障害や見当識障害、周辺症状などへも有効とされる方法をご紹介しましょう。

それは、学習療法と呼ばれるものです。
具体的には、計算ドリルやパズル、塗り絵などの学習的課題を用いるものです。

これは、すでに定番となっていますね。

医療機関や介護施設でも頻繁に用いられますね。
以下のリンク先のサイトに詳しく紹介されています。
有酸素運動

運動を用いた方法も認知症に有効と言われています。
その代表が有酸素運動です。

有酸素運動は、軽度から中等度の運動を用いて少し長めの運動を行うことです。
具体的には、ウォーキングやジョギング、自転車などが該当します。
目安としては、楽〜ややきついと感じる程度の運動負荷です。
正確には、年齢や安静時脈拍から算出して目標心拍数を決めることもできます。

ニコニコペースで、やや長めの運動が大事ですね。
コグニサイズ

コグニサイズという言葉も、最近聞かれますね。

コグニサイズとは、有酸素運動と組み合わせて、簡単な頭の体操を行うことです。
計算やしりとりをウォーキングと一緒に行うようなことです。
コグニサイズには、ダンスを取り入れたコグニダンスなどの応用編も確立されているようです。
ゲーム

ゲームも、最近注目されています。
代表的なものは、Nintendo Switchを用いたものです。

例を挙げると・・・・・
「東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 の脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング」
「Nintendo Switch Sports」
「マリオカート」 などが用いられるようです。

川島 隆太 教授と言えば、先ほどの学習療法の生みの親の先生ですね。

以下に、川島教授のHPのリンクを貼りますね。

ゲームで行う脳トレとは、学習療法のような計算やパズルを行うことのようですね。
紙ではなく、ゲーム機器を使う意味はどのようなものなのでしょうか?

正直なところ、私もあまり詳しくはありません。
今後、試してみて検証しようと思います。

ただ、仮に高齢者であっても新しいことに挑戦することは良いことです。
脳は、新しい課題に対しては、大変良く働くことが知られています。
新しいことを、学習しようとすることで、普段は使われないような脳の領域も働くことが知られています。
そのような刺激が、認知症予防に効果的なことは容易に想像できますね。

そうですね。
向き不向きはあるでしょうけど、本人が前向きに取り組めるのなら良い試みとなりますね。

はい。
それに加えて、他にもメリットがあると考えています。
それは、上手く行けば良い趣味活動になることです。
現在の日本の高齢者は、現役時代は仕事や家事に追われていた方が多いと感じます。

良く知られているように、女性の場合は、仕事を引退しても家事や孫の子育てへの協力などを行なっている方は多いようです。

そうですね。
それから、女性は活まって井戸端会議に花を咲かせるのも好きですよね。
仮に、具体的な趣味がなかったとしても、対人交流の機会は比較的維持されやすいようですね。

一方で、男性の場合は仕事を引退した後は、特に趣味が無く困るという話を聞きます。
男性の場合は、仕事一筋が尊いとされた時代も長くありましたし、ゴルフなどの趣味も仕事の付き合いの延長だったりします。
そもそも、高齢になり身体が動かなくなると、運動系の趣味は継続できなくなる場合が多いですね。

そのようなケースの中で、もし、ゲームが上手くハマれば良い趣味活動となりそうですね。

男性の方が、機械には強かったりしますし、紙と鉛筆で学習療法を行うよりも、機械を通じて行う方が励みなるケースは多そうですね。

マリオカートなどは、他者と競いあることもできるでしょうから、競争心が出て脳内物質も活性化しそうです。

はい。
他者との交流の機会が増えますね。
学習療法ができて、趣味が増えて、対人交流の機会が得られれば、一石三鳥といったところでしょう。

デイサービス等でも、女性利用者は交流が活発でレクレーションにも積極的な反面、男性利用者の場合は、機能訓練以外は孤立して新聞などを読んでいるケースも目立ちます。
たしかに、ゲームは認知症予防のメニューとして注目される可能性は高いですね。
脳梗塞後認知症へのリハビリで改善できるか?
歩行障害の改善

脳梗塞による認知症である、血管性認知症では、認知面と同時に運動面へのアプローチが必要ということが分かりました。
その中でも、歩行障害へのアプローチは重要と言えますね。

そうですね。
歩行障害については、次の2枚の図をみてください。
日本の脳卒中治療ガイドラインからの引用です。
下肢機能や歩行に関してエビデンスが高いとされる項目です。
赤のアンダーラインのところに注目してください。

下肢機能へのリハビリテーションのエビデンス
脳卒中治療ガイドライン2015

「下肢機能や日常生活動作に関しては、課題を繰り返す課題反復訓練が勧められる」とされています。

歩行障害へのリハビリテーションのエビデンス
脳卒中治療ガイドライン2015

こちらには、「歩行や歩行に関連する下肢訓練の量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められる」とされています。

歩行や下肢機能については、反復訓練などにより訓練量を多くすることで改善が期待できるということなんですね。

これらは、今日ではにリハビリを行う上での常識とされていますね。
認知症状の改善

次は、認知症状についてですね。
認知症状もリハビリなどで改善するのでしょうか?

これについては、軽度認知障害と呼ばれる段階と、認知症と診断されてからの両方についてお話ししたいと思います。
軽度認知障害(MCI)の改善

軽度認知障害(MCI)とは何でしょうか?

MCIとは、認知症と診断される一歩前の段階のことです。
放っておくと認知症に進行しますが、適切な対応を行うと正常に回復する可能性があります。

MCIでは、軽度の記憶力の低下が見られる場合があります。
つまり、物忘れが目立ってきたと感じたらMCIを疑う必要があります。
この段階で、適切な運動や社会参加、認知機能訓練を行うことで、健常な状態に回復する可能性があります。
次の図をご覧ください。

MCIへの早めの対応と経過について
あたまとからだを元気にするMCIハンドブック

図の真ん中の、MCIの状態での認知症予防が大事なのですね。

はい。
この段階での適切な関わりにより、回復することがあります。
MCIでは、1年間で5〜15%が認知症に以降する一方で、16〜41%は健常な状態へ回復することが分かっています。
全老健の資料に見る認知症の改善

続いて、認知症の改善についてですね。

はい、認知症の改善については、公益社団法人 全国老人保健施設協会(全老健)の資料を元にご説明します。

全老健とは、介護保険施設である老人保健施設の全国レベルの組織ですね。
老人保健施設では、認知症短期集中リハビリテーションという加算項目がありますね。
つまり、認知症へのリハビリを集中的に実施している介護保健施設ということになりますね。

その通りです。
老人保健施設では、身体機能に対するリハビリの「短期集中リハビリ加算」と共に「認知症短期集中リハビリ加算」があり、施設内の理学療法士(PT)作業療法士(OT)が集中的なリハビリを行なっています。
今回の資料は、それらの成果をまとめたものになります。
では、順に見てゆきましょう。

以下のデータは、全国の老人保健施設入所者の中から、対象者207名と対照群63名を比較したものです。
両群の対象については、認知機能が軽度〜中等度(MMSE 15以上)の利用者を選択しています。
両群とも、比較期間は3ヶ月間です。

リハビリによる認知機能の改善
認知症短期集中リハビリテーションの実践と効果に関する検証・研究事業報告書 社団法人全国老人保健施設協会 (平成20年)

先ずは、認知機能の改善についてです。
認知機能の評価は、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を使用しています。
HDS-Rは、MMSEと類似の認知機能評価です。一部異なる評価項目がありますが、両者は相関性と信頼性は高く認められています。

グラフを見ると、対照群(control)が、3ヶ月間で点数が平均で0.5点減少したことに対して、介入群(intervention)では、平均で1点の向上が見られています。

そうです。
つまり、認知症への積極的リハビリを行わない場合は、認知機能は自然経過的に低下する一方で、介入することにより向上することが分かります。

リハビリによる意欲低下の改善
認知症短期集中リハビリテーションの実践と効果に関する検証・研究事業報告書 社団法人全国老人保健施設協会 (平成20年)

次は意欲低下の改善についてです。
こちらでも、介入群の方に改善が見られています。

リハビリによる周辺症状の改善
認知症短期集中リハビリテーションの実践と効果に関する検証・研究事業報告書 社団法人全国老人保健施設協会 (平成20年)

続いて、認知症の周辺症状の改善についてです。
周辺症状とは、認知症による問題行動などのことでしたよね。
介護上とても困るのは、この周辺症状でしたね。

周辺症状については、以下の記事も参考にされて下さい。

周辺症状についても、対照群が次第に悪くなっていることに対して、介入群は改善が見られています。

認知症リハビリの内容と改善項目
認知症短期集中リハビリテーションの実践と効果に関する検証・研究事業報告書 社団法人全国老人保健施設協会 (平成20年)

最後に認知症リハの内容と改善項目の関係についての表です。

学習(訓練)療法が、特に複数の項目の改善と関連しているようですね。
運動療法とは、有酸素運動などのことですね。
こちらも、周辺症状の改善と関連があるようですね。

そうですね。
やはり、今回ご紹介したような学習療法や有酸素運動などは認知症状の改善に貢献するようですね。

なるほど・・・・
軽度認知障害や認知症状の改善について、リハビリが有効なことが分かりました。
脳梗塞後の認知症へのリハビリのポイント!心身両面へのアプローチのまとめ
脳梗塞後の血管性認知症に伴う症状と評価のまとめ
脳梗塞後の血管性認知症に伴う症状には、以下のような代表的症状があります。
各々に評価のポイントがあります。
- 歩行障害
- 意欲低下
- 構音障害
- 記憶障害
- 失禁
脳梗塞後認知症へのリハビリの内容のまとめ
- 歩行障害のリハビリには、歩行器、杖、平行棒などが使われます。また、歩行訓練に加えて、下肢や体幹のストレッチなども有効です。
- 意欲低下への対応では、本人が好きなことや得意なことを取り入れることが大事です。また、楽しい雰囲気作りも重要です。
- 構音障害へのリハビリは、主にはSTが中心となり実施されます。また、理学療法(PT)や作業療法(OT)などのリハビリも間接的に影響を及ぼします。
- 学習療法は、認知症の中核症状の代表とも言える記憶障害や見当識障害だけでなく周辺症状などへも有効です。
- 有酸素運動とは、軽度から中等度の負荷の運動を少し長めに行うことです。具体的には、ウォーキングやジョギング、自転車などが該当します。
- コグニサイズとは、有酸素運動と組み合わせて、簡単な頭の体操を行うことです。
- 近年では、ゲームを使った学習療法が注目されています。
脳梗塞後認知症へのリハビリで改善できるか?のまとめ
歩行障害の改善については、歩行や下肢機能の反復運動などにより訓練量を多くすることが大事です。
認知症状の改善については、軽度認知症(MCI)と認知症の両方において、適切なリハビリを行うことが重要です。