目次
理学療法での有酸素運動が脳卒中後の運動回復を促進
脳卒中リハビリの理学療法の目的は脳と運動の回復
モクモク博士
こんにちわ!
ペン君
理学療法士の仕事、がんばっていますね。
今日は、何を話しましょうか?
最近、海外の論文を読んでいて、日本と違うことが注目されていることに気づきました。
それは、有酸素運動を用いた理学療法が、脳卒中の運動回復に有効だという内容です。
それは、良いことに気づいたね!
実は、10年以上も前から、海外では有酸素運動を使った理学療法と脳卒中の運動回復における脳の可塑性との関係が注目されているのです。
日本では、あまり聞いたことが無いですよね。
そうですね。
では、先ず、日本の現状をお話しましょう。
日本でも、有酸素運動を用いた理学療法は、非常にポピュラーなリハビリメニューの一つです。
リハビリや介護の分野では、適度な有酸素運動が認知機能の維持や改善に役立つということが常識化しつつあります。
有酸素運動自体が、それだけ重要ということは認識されていますよね。
一般的な、有酸素運動の印象とはどのようなものでしょうか?
健康の維持・増進やダイエットに役立つということでしょうか?
たしかに、健康診断で血液検査の数値が気になる時に、必ず医師に言われることは「適度な運動をしなさい」ということでしょう。
血液中の脂質や糖質が高めな時には、先ずはウォーキングやジョギングなどで余分なものを燃焼させようと考えますか?
たしかに、そうだと思います。
それに加えて、最近は、筋トレもかなりブームです。
SNSなどでは、筋トレ風景を掲載している人も多いです。
ただ、手軽に導入できる運動と言えば、やはり有酸素運動ではないでしょうか?
ただ、長年リハビリの現場を見ていると、有酸素運動を意外と活用できていないことに気づきます。
その理由は、いくつかあります。
病院や介護機関でのリハビリでは、日常生活動作の訓練などのように、他に優先的なリハビリ内容が多いからです。
また、保険制度において、20分間1単位という時間の制約も影響するかもしれませんね。
有酸素運動を効果的に実施するには、ある程度の時間の長さが必要です。
そうです!
有酸素運動とは、軽めの運動負荷で時間をやや長めに行うことに意義があります。
一般の筋トレのように、短時間での高負荷訓練のメニューとは異なります。
有酸素運動とは、どのように定義づけられるのかを確認しましょう!
有酸素運動とは?
有酸素運動とは、以下のように定義づけられます。
「有酸素運動とは、ウォーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳など、長時間継続して行う運動を指します。これらの運動は、運動中に筋を収縮させるためのエネルギー「アデノシン三リン酸(ATP)」を、体内の糖や脂肪が酸素とともに作り出すことから、有酸素運動と呼ばれます」
健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/yusanso-undou.html#:~:text=%E6%9C%89%E9%85%B8%E7%B4%A0%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%84%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%82%AE%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%80%81%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%AD%E3%83%93%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%80%81,%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%A8%E5%91%BC%E3%81%B0%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
我々は、エネルギー源として、糖質や脂質を使います。
有酸素運動の特徴は、糖質よりも脂質を多く使うことです。
そのため、ダイエットなどで脂肪燃焼を目的とする際には、有酸素運動を取り入れる場合があります。
ただし、適切な有酸素運動を実施するには、運動強度と運動時間の設定が重要です。
運動強度は、年齢や安静時心拍数などを目安に決定します。
- 健康維持やダイエットに用いられる理想的な有酸素運動の心拍数 = 最大心拍数 の40〜60%
- 最大心拍数 = 220ー年齢で 算出
- 運動時間は、20分間以上程度
(ただし、個人の体力などにより差があります)
有酸素運動の認知症への効果は立証済み
有酸素運動の効果は、健康面やダイエットに限られるものではありません。
広く知られていることとして、認知機能面へ効果があることが報告されています。
はい、聞いたことがあります。
海外論文を含む複数の報告では、軽度認知症、認知症のない高齢者、脳卒中後の高齢者などに対して、有酸素運動が認知症検査などの改善をもたらしたそうです。
日本でも、認知症予防のプログラムとして、軽い負荷の有酸素運動と暗算やしりとりなどの頭を使う課題を組み合わせた「コグニサイズ」という方法が注目を浴びています。
マルチタスクのトレーニングがいいんですね!
頭を使いながらの運動が「認知症」リスクを減らす
コグニサイズ https://healthist.net/medicine/2511/
軽めの有酸素運動をベースとした訓練は、認知機能低下や認知症進行の予防に効果的であることはかなり認識されています。
その背景には、間違いなく有酸素運動と脳機能との間に関連性があることを示唆しています。
海外で注目される有酸素運動と脳の回復の関係
そのように、健康全般や認知機能に有効とされる有酸素運動ですが、近年は海外論文を中心に脳卒中後の片麻痺などの運動回復とも関連があることが示唆されています。
僕も最近読んで、少し驚きました。
より詳しく述べると、脳卒中後の脳の可塑性や運動機能の再編などメリットがあるというものです。
脳卒中後の片麻痺においては、上下肢の運動を改善させることが理学療法などのリハビリテーションの大目標と言えます。
そして、それらの背景には、脳自体の回復とも言えるような変化があることも知られています。
それは、脳の可塑性や脳の機能再編と呼ばれる脳機能自体の変化があります。
しかし、そのような変化は、残念ながら、急性期の一時期を除くと著明ではありません。
近年では、たしかにリハビリにより脳の機能再編が活発になることの報告もあります。
しかし、現状としては、そのようなリハビリの進歩については、現在も発展過程と言わなければなりません。
日本における脳卒中リハビリと理学療法
日本における脳卒中リハビリの主戦場は、主に回復期です。
回復期リハビリテーション病棟では、最大で1日3時間の理学療法などを最長で5〜6ヶ月受けることができます。 ただ、在院日数短縮の波は、回復期にも影響しており、平均的な入院期間はより短い場合が多いです。 さらに、回復期リハビリの最大の目標は在宅復帰です。 そのため、脳卒中片麻痺では、回復の勢いが低下した麻痺側上下肢の運動機能よりも、より効果が期待できる非麻痺側や装具などによる代償を活かしての日常生活動作訓練が主体となります。 そのため、限られた入院期間の中でも、集中して麻痺側上下肢の運動機能回復に取り組める時間は決して長くはないでしょう。
そのような日本の現場の一方で、アメリカを中心とした海外では、脳卒中リハビリにおいて有酸素運動と理学療法などの運動トレーニングを併用した訓練プログラムが注目されています。
前述の認知機能への有酸素運動の効果と同様に、運動麻痺の改善にも有酸素運動が有効というものです。
これは、非常に画期的なものですが、日本では未だあまり取り上げられていません。
一体、何故、有酸素運動が運動麻痺の回復に作用するのでしょうか?
そこには、有酸素運動がもたらす脳神経系に対するある効果が鍵となります。
次には、海外論文を中心とした、いくつかの報告内容から、その理由を考えてみましょう
脳卒中への理学療法と有酸素運動の最新論文
脳卒中後の運動リハビリテーションと神経可塑性の促通
有酸素運動によるBDNFの増加
https://academic.oup.com/ptj/article/93/12/1707/2735425?login=false
2013年にアメリカの理学療法の雑誌に掲載された論文です。
少し前の論文ですが、被引用数が370です。
世界的に注目されていることが分かります。
脳由来神経栄養因子(BDNF)というのですか??
そうです。
BDNFは、他の論文にも多く出てきます。
脳卒中後の身体運動後のBDNF濃度の変化
身体運動後のBDNF濃度の変化
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fneur.2018.00637/full
過去10年以上の論文のデーターベースを検索してまとめたものです。
脳の可塑性とBDNFの関係に関する内容です。
これは、エビデンスが高いですね!
有酸素運動は虚血性脳卒中患者の認知機能と脳由来の神経栄養因子を強化します
カイロ大学の報告
https://content.iospress.com/articles/neurorehabilitation/nre1020
脳卒中患者における有酸素運動の役割とその可能性
脳卒中患者における有酸素運動の役割とその可能性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/47S1/0/47S1_F-9/_article/-char/ja/
これは、たしか学会のシンポジウムの内容ですね。
以上のように、有酸素運動と脳の可塑性については、全世界的に注目されていると言って良いでしょう。
では、次には、各論文で脚光を浴びている、脳由来神経栄養因子(BDNF)について考えてみましょう。
理学療法での有酸素運動が脳を回復させる
有酸素運動で増える脳由来神経栄養因子(BDNF)とは?
BDNFは、中枢神経や末梢神経の一部に作用して、神経の成長をサポートし、新しい神経やシナプス結合の分化を促すものです。 BDNFは、脳の中では、海馬や大脳皮質、大脳基底核などで生成されます。 海馬は記憶に、大脳皮質は運動・感覚・認知などの脳機能全般に、大脳基底核は学習などに関わります。
つまり、BDNFはリハビリテーションでの運動学習において非常に重要な因子と言えます。
海馬や大脳基底核でも増えるのですね!
BDNFが脳の可塑性を促進
そもそも、運動麻痺が回復が脳の神経系の変化を伴うということは、専門家の間ではほぼ常識的と言えます。
つまり、上肢や下肢、指の機能、歩行機能などの、いわゆる運動の回復は、全て脳の変化を伴うものなのです。
運動と脳の関係については、脳梗塞の指先へのリハビリを解説|ストレッチよりも効果的な方法とは という記事も参考にしていただければ幸いです。
古くは、そのような脳レベルでの回復は、急性期以外にはあり得ないとする常識もありました。
しかし、現在では、回復期や慢性期であっても、脳の変化はあり得るという報告もあります。
そのような脳の機能的な変化のことを「脳の可塑性」と呼びます。
可塑性とは、刺激により変化しやすいような柔らかさを持ちながら、その変化を維持できるようなことです。 丁度、粘土細工のようなイメージです。 粘土は簡単に変形しますが、その形を維持するような粘弾性があります。 実は、脳卒中後の脳にもこのような性質があり、刺激に対して容易に変化して、それを学習するような側面が豊富にあるのです。
可塑性は少し抽象的な概念ですが、よく分かりました。
そのような脳の可塑性を追求するようなリハビリ手技は、歴史上にいろいろとあります。
そこに、さらに手技+αの内容があればリハビリはさらに充実するでしょう。
実際に、前述のいくつかの論文においては、有酸素運動+リハビリトレーニングの重要性が書かれています。
決して、有酸素運動のみで十分ではないのです。
大事なポイントです。
BDNFを増やす有酸素運動の方法
次には、実際にBDNFを増やすための有酸素運動の実施を確認してゆきましょう。
「トレーニングと時間的に近接した有酸素運動が、望ましい学習の基礎となる神経可塑性変化のために中枢神経系を刺激するのに役立つ」
運動学習は、脳卒中リハビリにおける運動機能回復の根底にありますが、有酸素運動がリハビリトレーニングへの反応をより促通する可能性が高いということを示しています。
BDFNをより効果的に増やすには、以下のような点が重要です。
- 30分以上の有酸素運動トレーニングを10回を目処に実施する
- 運動の強度は、最大心拍数の70%の強度を目安
- 週4日間実施する
- 有酸素運動+抵抗運動などとの組み合わせを考慮
- ただし、最大心拍数の60%の強度で30分間行うだけでも効果あり
以下に、65歳と70歳における、最大心拍数の目安を表にしてみました。
もちろん、安静時心拍数は、実際に測る必要があります。
年齢 | 65歳 | 70歳 |
安静時心拍数 | 70 | 65 |
最大心拍数の70% | 105 | 108.5 |
最大心拍数の60% | 90 | 93 |
実際の年齢や安静時心拍数にもよりますが、大体100前後ぐらいの脈拍ですね!
比較的、楽に感じる程度が目安ですね。
理学療法における有酸素運動と脳卒中リハの未来
アメリカから数年間遅れる日本
有酸素運動自体は、非常に普及したトレーニング方法です。
実際に、心臓リハビリテーションの分野では日常的に実施されています。
脳卒中治療ガイドラインでは、体力へのリハビリテーションということで有酸素運動が推奨されています。
日本の脳卒中リハビリテーションにおける有酸素運動の位置付け
脳卒中治療ガイドライン2015
しかし、残念ながら、我が国では脳の可塑性を目的とした有酸素運動の実施については、現在のところほぼ皆無と言って良い状況です。
ただ、これまでもアメリカで注目されたことが数年間遅れて日本に輸入されることは珍しくありませんでした。
例えば、CI (Constraint-Induced-Movement Therapy 非麻痺側上肢拘束)療法と呼ばれる脳卒中片麻痺上肢へのアプローチ方法については、アメリカを中心として海外で多くの論文が出された数年後に日本でも導入されました。
その後、国内の学会でも多くの演題がこのテーマで報告されるようになりました。
このCI療法は、今回のテーマでもある脳の可塑性と麻痺側上肢の関連性を追求した手法です。
実は、それ以前は、国内では急性期以外でのリハビリによる脳の可塑性については否定的な意見が大半でした。
たしかに、そうだったみたいですね。
しかし、アメリカでこの方法が脚光を浴びて以来は、後を追って研究する人が増えました。
日本は、海外の影響を強く受ける傾向があるのかもしれません。
そのため、今後も海外の動向には注目する必要がありそうです。
有酸素運動はコロンブスの卵?
有酸素運動は、医療以外以外の分野でも非常に日常的なものです。
一歩街を歩けば、ウォーキングやジョギングやランニングを楽しんでいる人々が日本の至るところ見られます。
一方、有酸素運動による、脳の可塑性促通については、比較的新しく且つ専門的なテーマと見做されるでしょう。
認知機能面への効果については、医療関係者以外にも勉強熱心な一般の方々はご存知かもしれません。
もし、有酸素運動のような日常的な内容が脳の可塑性という専門的なテーマと直結するとしたら、これはまさにコロンブスの卵と言って良いのではないでしょうか?
例えは悪いのですが、昨日まで石ころと思っていたものがダイヤモンドになるという感じでしょうか?
これまで何気なかったことが、実は非常に重要であったという経験は無いでしょうか?
実は、私にはあります。
完全に余談になりますが、お許しください。
実は、私はダイエットのためにジョギングなどの有酸素運動を行なっていた時期があります。
ところが、いくら頑張っても血液検査の結果が改善しなかったのです。
ところが、あるきっかけにより、それまで朝食をパン主体だったものからご飯主体に変えたのです。
そうすると、わずか数ヶ月間で血液検査のデータが全て正常値になりました。
多分、私の場合はご飯が体質に合っているのでしょう。
けっして、他の方々にお勧めするという意図はありません。
ただ、このような何気ないことが、それまでの莫大な運動に費やした時間と努力以上の成果を生むこともあり得ます。
有酸素運動にも、そのような期待を抱かざるを得ないのです。
脳卒中への有酸素運動導入のポイント
実際の導入にはいくつかのポイントがあります。
これは、言うまでも医学的テーマです。
リスク管理が、非常に重要となります。
現実的に、脳卒中を患った方々の中には、同時に心疾患も抱えているケースが多いものです。
また、これまで運動経験がほぼ無かったという方も珍しくありません。
適切な運動負荷量の決定は厳密に行う必要があります。
また、リハビリを取り巻く環境にも問題があります。
仮に、有酸素運動を30分以上実施するとなると、リハビリ提供時間の検討も必要となります。
急性期や回復期では、比較的に十分な時間があるものの、他の日常生活動作訓練なども必要なことを考えると調整が必要です。
介護保険での生活期リハビリにおいては、20分間が標準のリハビリ時間となりますので、いくら導入したくても時間が足りないという可能性もあります。
ただ、医学的なエビデンスが高まれば、状況も好転するかもしれません。
今後も、この分野の発展を関心をもって注目して行きたいと思います。
いち早く取り組んでみるのも良いですね!
理学療法での有酸素運動は脳神経回復を促し脳卒中の運動回復に役立つのまとめ
理学療法と有酸素運動が脳卒中後の運動回復を促進のまとめ
近年、海外論文を中心に、有酸素運動を活用した理学療法が、脳卒中後の運動回復を促進することへのエビデンスが蓄積されつつあります。
日本では、有酸素運動が認知機能の維持改善に効果があることが知られています。
また、脳卒中のリハビリにおいても、体力の向上を目的に有酸素運動が実施されています。
しかし、有酸素運動と脳の可塑性については、未だ取り組まれていない状況です。
脳卒中への理学療法と有酸素運動の最新論文のまとめ
海外の複数の論文において、有酸素運動を活用した理学療法などのリハビリが、脳の可塑性に効果があると結論づけています。
その主な要因は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加によるものです。
BDNFは、海馬や大脳皮質、大脳基底核などの記憶や運動学習と密接な部位で増加します。
その結果、脳の神経系におけるシナプス結合や神経の成長が起こりやすくなります。
理学療法での有酸素運動が脳を回復させるのまとめ
理学療法などでの有酸素運動は、BDNFを増加させます。
そして、脳の可塑性を促通します。
有酸素運動は、最大脈拍数の60〜70%を目処にして行うなどの注意点が複数あります。
理学療法における有酸素運動と脳卒中リハの未来のまとめ
海外と比較して、日本では有酸素運動による脳可塑性の促通についての研究は不十分です。
しかし、今後、さらにエビデンスが蓄積されることが望まれます。
当面は、海外の動向を注視したいと思います。