今日の講義は高次脳機能障害についてです。
ミキ君、予習してきたかね?
はい!
しっかりと本を読んできました。
博士、よろしくお願いします!
うん、うん!
さすが、優秀な学生のミキ君ですね。
それでは、早速始めましょう。
脳梗塞による高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは
そもそも、私の講義では脳梗塞のリハビリテーションについて解説しています。
本日は、その中でも非常に難しい高次脳機能障害についてです。
モクモク博士!
確かに難しい内容です。
しかし、最近では、現場の介護関係者やご家族からも高次脳機能障害という言葉を聞くことがあるそうですね。
そうなんですよ。
それでは、次の図を見てみましょう。
高次脳機能障害の症状
千葉県千葉リハビリテーションセンターより https://www.chiba-reha.jp/koujinou-center/whatis/
大脳の各部位といろいろな高次脳機能障害について示されていますね。
一言で高次脳機能障害と言っても、実は様々な症状があるんです。
高次脳機能障害とは、大まかには図で示すように脳の様々な部位の損傷に伴う認知障害全般のことなんです。
図のように、脳は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉などからなります。そして、それぞれの部位が損傷を受けた時には、その部位の機能を反映した高次脳機能障害が現れることになるのです。
脳の機能には、局在性がある事が知られていますが、様々な高次脳機能障害は、それらの機能不全という形で生じます。
例えば、左半球の側頭葉には言語中枢があります。そのため、脳梗塞などにより損傷を受けると失語症という言語面の高次脳機能障害が出現するのです。
側頭葉と失語症
側頭葉と言えば、失語症なんですね!
そうそう!
側頭葉には、耳から聞いた情報が入ってくる聴覚野の他に、言語の理解に関係する感覚性の言語中枢もあります。
そして、すぐ側には運動性の言語中枢もあります。
それにより、感覚性失語症や運動性失語症などをはじめとした様々な失語症を生じやすくなります。
感覚性失語症はウェルニッケ失語症とも呼ばれます。
主に理解が悪くなる失語症です。
一見、話し方は滑らかで、イントネーションなども正しいことが多いです。
しかし、理解が悪いため、会話が成立しなくなります。
言葉の理解が悪いと言っても、認知症ではないんですよね?
認知症とは違います。
しかし、良く誤解されることがあります。
認知症は、記憶や見当識など様々な知能に影響があります。
しかし、感覚性失語症は、言語面を中心に理解が低下します。
この点を間違えないことが大切です。
運動性失語症はブローカ失語症とも呼ばれます。
感覚性失語症とは反対に、言語面の理解は良好ながらも、言葉が上手く表出できないものです。
言いたい事が、伝えられなく、とても大きなストレスとなります。
ただ、多くのケースでは、ジェスチャーなどで表現できることがあります。
こちらの質問の仕方を工夫して、「はい」「いいえ」などの簡単な表出ですむようにしてあげるとストレスが軽減すると思います。
もくもく博士!
他にもいろいろな言語障害があるのですか?
そうですね。
失語症にも、他に様々なタイプがあります。
感覚性失語症と運動性失語症の両方も症状を併せ持つ、全失語症と呼ばれるものもあります。
他にも、いくつかの失語症のタイプがあります。
それらも大事なのですが、しばしば、運動麻痺性の構音障害と運動性失語症が混同される場合があり、注意が必要です。
構音障害ですね?
構音障害は、失語症とは異なり高次脳機能障害ではありません。
口や喉などの発声発語器官の運動麻痺による言語障害です。
片麻痺で手脚に麻痺が生じるように、口腔周辺にも麻痺を生じる場合があります。
片麻痺に伴うことも多く、麻痺側の口角が下制してよだれなどが出やすくなります。
食物を食べる機能にも影響を伴うことがあります。
失語症は脳の高次脳機能の障害ですが、構音障害は運動の障害なんですね!
そうです。
しかし、現実的には判別が難しい場合もあり、専門家による評価が大事です。
また、両方を併せ持つことも十分あり得ます。
やはり、患者さん一人一人の個別性の把握が大事なんですね。
後頭葉と視覚失認
他の脳の局在性と高次脳機能障害についても教えていただけますか?
では、次は後頭葉です。
後頭葉には視覚中枢があります。
そのため、後頭葉の損傷では、視覚失認と呼ばれる高次脳機能障害が現れる場合があります。
視覚失認とは、見た物を正しく認知できなくなる症状です。
代表的なものには、相貌(そうぼう)失認があります。
相貌失認とは、人の顔を見ても誰だか分からなくなることです。
頭頂葉と失行失認
頭頂葉は、全身からの感覚が脳へインプットされる場所です。
そのため、頭頂葉の損傷では、感覚が関係した様々な高次脳機能障害が現れます。
実は、脳梗塞による片麻痺では、病巣との関係もあり、この頭頂葉由来の高次脳機能障害である失行や失認を合併することが多いのです。
失行や失認にも様々なものがありますよね。
先ほどの視覚失認以外の失認もあるんですよね?
有名なのは、半側空間無視でしょう。
これは、主に右脳の損傷により生じます。
左空間への認知が低下して、本来は見えているはずのものが認識できなくなるのです。
この半側空間無視は、視覚をはじめとして聴覚や触覚にも生じますが、視空間の無視が目立ちやすいので半側視空間無視と呼ばれることもあります。
視覚的な失認という意味では、後頭葉の視覚失認とも関係する部分があるのでしょうか?
視覚失認と半側空間無視は、違う症状です。
しかし、たしかにミキ君が言うように関連する要素もあります。
それについては、後で解説しますね。
前頭葉と高次脳機能障害
前頭葉は、霊長類の中でもヒトにおいて大きく発達した部分です。
前頭葉は、別名を行動の中枢と呼ばれることがあるぐらいに、ヒトの行動や行為と深く関係しています。
前頭葉については、とても有名は話がありますよね。
だしか、ゲージという人の話です。
流石、ミキ君!
フィネアス・ゲージの話ですね。
1948年のアメリカのでの話です。
鉄道工事の現場監督だったゲージという人が、仕事中に事故にあいました。
その時に前頭葉を損傷されたんですよね。
長さ109cm、太さ3cm、重さ6kgの鉄の棒が、下顎から頭にかけて貫通したというから驚きです。
ゲージは、驚異的に回復したものの、人格がまるで変わってしまったんですよね。
元々は、知的で温厚な人物だったのが、その後は、下品で怒りっぽくなり、根気がなくなり計画性が全く無い人になったそうです。
家族や古くからの友人達は、全くの別人になったと言ったそうですね。
このエピソードに前頭葉の機能が凝縮していると言って良いでしょう。
1948年9月13日、鉄道建設作業の現場監督フィネアス・ゲージ(25歳)は、アメリカのバーモント州にて岩盤を爆破する仕事をしていた。この日、仕掛けたダイナマイトが爆発しないため鉄棒でつついたが、その瞬間にダイナマイトは爆発し、長さ109cm、太さ3cm、重さ6kgの鉄棒が彼の下顎から頭を貫通し、彼の後方30m先に飛んだ。事故後も彼は意識があり、仲間に支えられて歩くことができた。彼は、10週間の入院後に7ヶ月間の自宅静養を行なった後に職場に復帰したが、以前のような指導的役割をこなすことは出来なくなっていた。事故以前の彼は有能で精神的にもバランスがとれていた。しかし、事故後の彼は、気まぐれで、非礼で、下品になり、仲間にも敬意を示さなくなった。そして、辛抱強さを失い、頑固になり、移り気で優柔不断で行動のプランを決める事ができなくなった。周囲の人々は、「彼は、最早以前のゲージではない」と評した。
ヒトの前頭連合野損傷の症例(フィネアス・ゲージ)
脳の世界 http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/41/index-41.html
後に述べますが、近年、我が国においても、この高次脳機能障害が注目を集めるようになったのは、このような前頭葉障害の患者さんの問題がクローズアップされたことに起因します。
それは、交通外傷や脳卒中などで前頭葉にダメージを受けた患者さんの中で、身体機能障害が無かったり、ごく軽度であるにも関わらず、記憶や注意障害などにより社会適応が出来なくなったケースの存在が社会的問題になったからです。
これに対して、従来からの失語・失行・失認などの高次脳機能障害に加えて、行政的対応を目的として診断基準が新たに定められたのです。
大脳皮質連合野の情報処理と高次脳機能障害
ここまで、側頭葉や前頭葉などの各部位において生じやすい高次脳機能障害について簡単に触れました。
はい、だんだん分かってきました。
実は、これまでの図の様に脳を外側から見た場合、見えている大部分は大脳皮質連合野と呼ばれる場所です。
大脳皮質連合野では、神経ネットワークの連合繊維により、各部位と他の部位が繋がっています。
それにより、大脳皮質では、様々な情報処理が行われています。
なるほど、高次脳機能障害とも関係がありそうですね。
二つの視覚系
坂田英夫 他「脳とニューラルネットワーク」朝倉書店 1994年
有名なのは、後頭葉から入った視覚情報の流れについてです。
上の図のように、後頭葉から入った視覚情報は、側頭葉経路と頭頂葉経路に分かれて最終的には前頭葉に到達することが知られています。
側頭葉経路では、視覚情報と色や形を識別する情報処理が行われます。
そして、この経路によるものを、色彩視、形態視などと呼びます。
一方で、頭頂葉経由では、動きや空間認識に関係した情報処理が行われます。
この経路によるものを、運動視、空間視などと呼びます。
同じ視覚情報でも、側頭葉と頭頂葉では情報の処理の仕方が違うのですね。
側頭葉経路では、耳から聴覚情報や言語と関連させているのですね。
側頭葉の皮質下には記憶の中枢である海馬もあるので、記憶との関連性もありますね。
一方で、頭頂葉は、たしか身体からの様々な感覚の入り口ですよね。
そうです。
さらには、複数の感覚が統合されてゆく場所でもあります。
また、身体のイメージの形成の場ともされています。
そのため、頭頂葉経路では、側頭葉経路と全く異なる情報処理がされるのです。
頭頂葉の病変で、半側空間無視という視覚が関係した高次脳機能障害が生じるのは、後頭葉からの視覚情報が頭頂葉経路で流れることと関係しています。
このように、多くの高次脳機能障害は、大脳皮質連合野の情報処理と大きな関連があるのです。
高次脳機能障害の2つの概念
以上のように、脳の様々な部位の損傷により高次脳機能障害は現れます。
高次脳機能障害には、古くから学術用語として知られているものと、比較的近年に定義づけられたものがあります。
ここでは、その2つの違いについて触れたいと思います。
よろしくお願いします。
古くからある学術用語としての高次脳機能障害の概念
高次脳機能障害という言葉は、近年になって良く知られるようになったという印象があるかもしれません。
しかし、実は学術用語としては、古くからありました。
その代表的なものは、失語・失行・失認などです。
これらの、失語・失行・失認などに対して、長らく取り組んでいる学会があります。
日本高次脳機能障害学会と日本神経心理学会です。
1981年に、第1回目の学会を開催した日本高次脳機能障害学会は、以前は日本失語症学会という名称で知られていました。
脳神経系の医師をはじめ、言語聴覚士、臨床心理士などの多くの職種より構成さています。
日本高次脳機能障害学会について
日本高次脳機能障害学会のHP https://www.higherbrain.or.jp/
また、日本神経心理学会は1985年に第1回目の学会を開催しています。
日本高次脳機能学会と同様に、数多くの職種より熱心に学術活動を広げてきました。
日本神経心理学会について
日本神経心理学会のHP http://www.neuropsychology.gr.jp/
このように、脳神経系の医師やリハビリテーション関係者の間では、高次脳機能障害という言葉は、非常に日常的な用語でした。
そして、先の二つの学会の活動と共に、高次脳機能障害という用語は、現在も当たり前のように用いられています。
これらの学会やリハビリテーション関係者から日常的に研究されている高次脳機能障害の代表が、失語・失行・失認です。
失語とは、側頭葉を中心とした病変による言語の高次脳機能障害でしたよね?
失行とはどんな症状なんでしょうか?
失行とは、麻痺などの運動機能障害が無いにも関わらず、目的に沿った運動遂行ができない状態を指します。
麻痺が無いのにですか?
腕や身体が動揺する失調症なども無いのですか?
そうです。
麻痺や失調が無いので、単独で動かすことは出来るのに、目的に応じて対象物を操作することが困難なのが失行です。
失認については、後頭葉の損傷による視覚失認や頭頂葉の損傷による半側空間無視などですね?
その通りです。
これらは、脳梗塞の後遺症による片麻痺と合併して見られる場合が多くあります。
後で、さらに詳しくお話ししましょう。
行政的支援を明確にするための診断基準が定められた高次脳機能障害
平成13年度に、厚生労働省が高次脳機能障害支援モデル事業を開始して以来、行政的高次脳機能診断基準が明らかにされました。
このモデル事業の主旨は、以下の通りです。
従来は、脳の外傷や脳梗塞後などで、身体障害があまり問題にならないにも関わらず、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などから社会適応できないようなケースにおいては、周囲の認識が不足し支援が不十分であった現状がありました。
身体機能に問題が無いことから、比較的円滑に退院できたにもかかわらず、退院後に家族から「人が変わってしまった」「寝てばかりいる」「怒りっぽくなって困る」なども問題が寄せられたとしても、従来の医療・介護・福祉の枠組みの中では対応することができないという状況がありました。
まさに、先ほどのゲージの話そのものですね!
ここでの高次脳機能障害の具体的症状とは、以下の通りです。
物の置き場所を忘れたり、新しいできごとを覚えていられなくなること。そのために何度も同じことを繰り返し質問したりする。
ぼんやりしていて、何かをするとミスばかりする。二つのことを同時にしようとすると混乱する。
自分で計画を立ててものごとを実行することができない。人に指示してもらわないと何もできない。いきあたりばったりの行動をする。
自分が障害をもっていることに対する認識がうまくできない。障害がないかのようにふるまったり、言ったりする。
すぐ他人を頼る、子どもっぽくなる(依存、退行)、無制限に食べたり、お金を使ったりする(欲求コントロール低下)、すぐ怒ったり笑ったりする、感情を爆発させる(感情コントロール低下)、相手の立場や気持ちを思いやることができず、良い人間関係が作れない(対人技能拙劣)、一つのことにこだわって他のことができない(固執性)、意欲の低下、抑うつ、など。
そのような困難事例への対応策を検討する為に、モデル事業の中で様々な検討が行われたのです。
このモデル事業の大きな成果としては、高次脳機能障害としての具体的な症状を明らかにしたことに加えて以下のような診断基準を設けたことです。
診断基準
1.主要症状等
- 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
- 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。
2.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。
3.除外項目
- 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
- 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
- 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。
4.診断
- 1~3をすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
- 高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
- 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
なお、診断基準の1と3を満たす一方で、2の検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがあり得る。
また、この診断基準については、今後の医学・医療の発展を踏まえ、適時、見直しを行うことが適当である。
行政的高次脳機能障害診断基準
障害保健福祉研究情報システム https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n285/n285002.html
このように診断基準を明確にしなければいけない理由としては、上記の症状が認知症等とも非常に類似しているからです。
実際に、記憶障害は認知症の中核的な症状です。
また、社会的行動障害の中の多くは、認知症の周辺症状と重複しています。
そうですね・・・・
実際には、見た目的には同じように見える場合もあるかもしれませんね。
高次脳機能障害の診断で重要なのは、交通事故などによる外傷や脳梗塞などの脳卒中や外傷などによる脳の器質的障害があることです。
実際に上記の診断基準に合致するケースの大半は、外傷性脳損傷というデータもあります。
交通事故などによるものですね。
このような行政的診断基準による高次脳機能障害が明確化されたことにより、これまで、支援の網から漏れていたようなケースにも光が当たるようになったことは事実です。
しかし、一方で、従来からある学術用語としての高次脳機能障害の概念が無くなったわけではありません。
特に、リハビリテーションの関係者においては、これらの二つの高次脳機能障害の概念の両方に留意しておく必要性があるでしょう。
そうですね。
医療や介護の現場では、両方の概念が必要ですね。
この行政的診断基準が定められた高次脳機能障害については、作業療法や言語聴覚療法、理学療法などの専門的リハビリも勿論重要です。
しかし、リハビリの内容は、機能障害や生活機能などに対するものよりも社会への適応訓練がより重要な場合があります。
そのため、支援体制、社会復帰・生活介護の進め方、支援計画の策定方法などをまとめた「標準支援プログラム」が作られました。
この内容は、以下の8項目にまとめられています。
これらは、機能訓練的なリハビリではなく、就労や就学などを含む生活全般への支援プログラムと言えそうですね。
脳梗塞片麻痺に多い高次脳機能障害の失行失認
片麻痺に伴いやすい失行失認
ここからは、脳梗塞などの脳卒中片麻痺に伴いやすい失行や失認についてお話ししましょう。
片麻痺については、是非こちらの記事も参考にされてください。
リハビリ現場では、実際に片麻痺に伴う失行や失認も多いですよね。
右片麻痺に伴いやすい | 肢節運動失行 |
観念運動失行 | |
観念失行 | |
構成失行 | |
ゲルストマン症候群 | |
左片麻痺に伴いやすい | 半側空間無視 |
地誌的見当識障害 | |
着衣失行 | |
構成失行 |
右片麻痺に伴いやすい失行・失認
まず、右片麻痺に伴いやすいのは、いくつかの種類の失行でしょう。
右片麻痺は、左の脳半球の損傷によっておきますよね。
それと関係があるのでしょうか?
左脳半球のことを、別名で優位半球と呼ぶこともあります。
それは、主に言語中枢が左半球にあることから、言語優位半球ということでそのように呼ばれる事が多いと思います。
実際に、必ずしもそうではありませんが、失行と失語は合併することも少なくありません。
以下に、右片麻痺に伴いやすい失行などの主な症状をまとめます。
失行とは、麻痺などの運動機能障害が無いにも関わらず、目的に沿った運動遂行ができない状態を指します。その中でも、肢節運動失行は習熟した運動行為が拙劣になることが特徴です。古くから研究されており、我が国でもルリアや山鳥による文献は有名です。臨床的には、単純な触覚などが保たれ似ているにもかかわらず、複合的な感覚が低下しているため、ポケットに手が入れられない、紙を丸められないなどの困難さがあったり、運動メロディの障害と呼ばれるような運動の切り替えが下手になるなどの所見が見られます。
観念運動失行は、しばしばパントマイムの障害と呼ばれることがあります。習慣化している動作を意図的に行おうとすると出来ないような状況です。例えば、何気なくバイバイの動作ができている場合でも、あえて指示をして意図的にさせようとするとどうして良いかが分からなくります。動作模倣なども難しくなるので、動作の再学習にも支障をきたします。
観念失行は、明らかな物品の使用障害として見られます。例えば、歯ブラシの使い方が口頭では正しく説明できるのに、使おうとすると誤った形となります。例えば、ブラシの部分を手に持って柄の部分を口に入れるなどの明らかな誤りです。肢節運動失行では、拙劣性はあるものの明確な使用方法の誤りまでは見られないことに比較して、観念失行では明確な誤りが特徴です。歯ブラシなどの単一物品のみではく、急須と湯呑み、ポットなどを使って お茶をいれるような、複数物品による系列動作にも障害が見られるケースもいます。
構成失行は、様々な構成的課題の困難さを指します。単純なものはピースなどの指模倣から、複雑なものは立方体を組み合わせて図形を作るような課題までもが対象となります。立方体を模写したりマッチ棒で図形を作るなども検査として用いられます。
ゲルストマン症候群は複数の失行失認を合併した一連の症状として捉えられています。失算・失書・左右障害・手指失認の4症状を併せ持つことが多いとされています。
いろいろありますね。
それぞれが難しいので、後でしっかりと復習します。
左片麻痺に伴いやすい失行失認
次は、左片麻痺に伴いやすい失行・失認をご説明します。
左片麻痺に伴いやすいものとしては、半側空間無視が多いでしょう。片麻痺を伴わない場合もありますが、医療や介護現場では、左片麻痺+左半側空間無視の組み合わせは比較的多いといえます。患者さんは、あたかも左空間が見えていないように振る舞います。左の物を見落とすため、食事では左半分を食べ残したり、左角を曲がれずに、いつまでも自分の部屋に戻れないことがあります。検査では、絵や図形の模写をしますが、明確に左半分が欠けることが特徴です。ここで大事なのは、決して視覚的に見えていない訳でなく、見えている範囲においても左を無視するということです。よって、食事において全部の食器を右空間に並べたとしても、結局は左側に食べ残しが見られます。同名半盲という視野の障害を伴う場合も伴わない場合もありますが、いずれも半側空間における見落としがあります。視空間における無視が目立ちますが、実は他の感覚においても半側無視が存在しています。自分の身体の半分が無視されているため、手や脚の存在を認識できないこともあります。
半側空間無視は、右頭頂葉の病変で見られやすいのでしたね?
地誌的見当識障害とは、熟知しているはずの道に迷うような症状です。本来は、道順障害や街並み失認と呼ばれるような視覚的な失認のカテゴリーにあります。ただ、左片麻痺に伴う地誌的見当識障害は、主に左半側空間無視に伴うものです。左空間を見落とすために、道に迷うというような状況です。リハビリ病棟などでは、すでに車椅子移動や歩行が可能になっているにもかかわらず、左方向に曲がることができずに迷っている姿がしばしば観察されます。半側空間無視の改善に伴い、症状が軽減することもあります。
着衣失行も左片麻痺+左半側空間無視の患者さんに多く見られます。左袖などの着衣が困難となる状況です。半側空間無視が単に視覚的な無視症状だけでなく、身体の半分のボディイメージが低下している現れとも言えるでしょう。実は、着衣失行は、片麻痺や半側空間無視を伴わない状況でも見られることがあります。それらは、半側空間無視の影響によるものではなく、物品使用の障害として捉えるべきなのかもしれません。実際に文献的には着衣失行を観念失行の一つの症状とする見方もあるようです。
構成失行は、右片麻痺に伴う場合がありますが、左片麻痺にも伴うことがあります。しかし、左右の片麻痺により、内容が少々異なります。右片麻痺に伴う場合は、構成の障害が全般的にも詳細にも見られます。しかし、左片麻痺に伴う場合は、半側空間無視の影響によるものが多いでしょう。例えば、立方体を模写する場合、右片麻痺では、線の向きが斜めになったり、線そのものがきちんと描けない場合があります。そのため、立方体としての全体像の構成が歪んだり拙劣に見えてしまうような状況が多いと思われます。それに対して、左片麻痺では、右半分は正確に描けているにもかかわらず、左半分が全く描けていないようなことがあります。左片麻痺の場合は、失行的な拙劣さよりも、明らかな空間認知の問題が強調されることが多いでしょう。
こちらもいろいろあります。
大変勉強になりました。
同じ構成失行でも、右片麻痺と左片麻痺では特徴が異なるのですね。
とても、興味深いです。
なんだか、早く臨床現場に行って患者さんを見たくなりました。
それは、何よりです。
まだまだ、お話ししたいことが沢山あります。
例えば、リハビリによる効果についてなど・・・
それについては、また次の機会ですね!
次回の講義も楽しみにしています!
脳梗塞による高次脳機能障害 失行失認へのリハビリテーションとは?のまとめ
脳梗塞による高次脳機能障害とはのまとめ
高次脳機能障害とは、大まかには脳の様々な部位の損傷に伴う認知障害全般のことです。脳は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉などからなりますが、それぞれの部位が損傷を受けた時には、その部位の機能を反映した高次脳機能障害が現れます。
高次脳機能障害の2つの概念のまとめ
高次脳機能障害には、古くから学術用語として知られているものと、比較的近年に定義づけられたものがあります。
前者は、失語・失行・失認などで、後者は記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの患者さんに対して、行政的な対応を明確にするために診断基準が定められた高次脳機能障害です。
脳梗塞片麻痺に多い高次脳機能障害の失行失認のまとめ
脳梗塞などの脳卒中では、左右の片麻痺において伴いやすい失行失認が異なります。
また、構成失行では、右片麻痺と左片麻痺では、特徴が異なります。