目次
脳梗塞リハビリのファシリテーション技術とは
脳梗塞リハビリの種類(主に運動面)
さくら先生!
今日は、脳梗塞リハビリにおける、ファシリテーション技術や運動促通について教えて下さい。
わかりました。
しっかりと勉強しましょうね。
その前に、先ずは脳梗塞のリハビリには、どのような種類があるのかを確認しましょう。
関節可動域訓練
先ずは、関節可動域訓練です。
関節可動域とは、英語でRange Of Motionで、略してROMと呼びます。
ROM訓練と呼ぶことが多いです。
多くの身体的疾患に用いられる訓練方法です。
脳卒中治療ガイドラインでも、いくつかの項目で推奨されています。
次の図をご覧ください。
可動域制限や疼痛に対して関節可動域訓練が推奨されている
脳卒中治療ガイドライン2015
片麻痺の肩に対するリハビリテーションについてですね。
ここでは、「麻痺側肩の可動域制限および疼痛に対して、関節可動域訓練が勧められる」がグレードBの推奨度となっています。
麻痺側肩の可動域制限や疼痛は、とてもしばしば見られますね。
実際にアプローチにより改善が見られます。
たしかに、そうです。
ただ、関節可動域訓練も、やり方が重要ですね。
新人のリハビリ担当者が行うような、単なるストレッチでは、むしろ痛みを増強する場合もあります。
肩関節は、非常にデリケートです。
本当に改善できるには、技術が重要となります。
はい、同感です。
評価と同じように単に動かすだけだと、改善しないばかりか、むしろ逆効果にもなり得ます。
肩関節の解剖や生理的な正常運動を正しく把握することが重要ですね。
次は、痙縮に対するリハビリテーションについてです。
脳卒中治療ガイドライン2015
痙縮に対してストレッチや関節可動域訓練が推奨されている
痙縮に対するリハビリテーションにおいても、関節可動域訓練は推奨度が高いようです。
脳卒中治療ガイドラインでも「慢性期片麻痺患者の痙縮に対するストレッチ、関節可動域訓練が勧められる」とされています。
たしかに痙縮で固まった筋肉には、持続的なストレッチや関節可動域訓練が用いられますね。
痙縮については、是非、以下の記事をご参照ください。
脳卒中片麻痺に多い痙性麻痺とは|症状と治療やリハビリ方法について
痙縮とは痙性とも呼びますよね。
痙性は、脳卒中片麻痺の典型的な症状と言っても良いです。
筋肉の緊張が亢進して、腱反射も強く現れます。
安静時も見られますが、活動時にはさらに強まることがあります。
それから、非麻痺側の活動によりさらに強まることもあります。
これを連合反応と呼びます。
先ほど、肩へのアプローチにおいて、関節可動域訓練はそれなりの技術が必要だと言われましたね。
痙性に対しては、どう思いますか?
痙性についても難しい面を感じます。
単に、持続的にストレッチするだけなら、そんなに大変ではありません。
でも、筋肉の構造をよく理解して行わないと効果は低いかもしれませんね。
例えば、筋肉と筋膜の関係などについてです。
そうですね。
単にストレッチしている場合は、その抵抗が筋肉によるものなのか、筋膜によるものなのかがわからないケースがあります。
筋膜に対しては、筋膜リリースと呼ばれる方法も考慮すべきですね。
筋膜リリースについて
それから、他にも重要だと思う点があります。
痙性のある筋肉へは、単に他動的なストレッチや関節可動域訓練では効果が少ないことがあります。
やはり、痙性の緊張を緩和しつつも、随意運動を再学習するようなことが大事です。
その通りです。
それが、今回のメインテーマで、この後お話しするファシリテーション技術や運動促通ということになります。
後ほど、詳しく説明しますね。
筋力訓練
次は、筋力訓練についてです。
筋力訓練は、関節可動域訓練と並んで定番メニューと言えますね。
そうですね。
筋力増強訓練や筋力強化訓練という表現の場合もありますね。
以下をご覧ください。
下肢の筋力トレーニングは様々な効果がある
脳卒中治療ガイドライン2015
脳卒中治療ガイドラインでも、「麻痺側下肢の筋力トレーニングは、下肢筋力を増加させるので強く勧められ、また、身体機能を改善させるので勧められる」とされています。
これには、全く異論はありません。
ただ、筋力訓練といってもいろいろな身体部位への様々な方法があります。
ここでは、主に麻痺側下肢の筋力訓練の重要さが述べられていますが、他にも体幹や非麻痺側上下肢にも必要な場合は多いと思います。
流石、臨床のセラピストの意見ですね。
非麻痺側の筋力訓練の重要性は、以前からリハビリ医学の大御所の先生も説かれていました。
その先生は、主には立ち上がり訓練による下肢の筋力強化の意義を主張されています。
それ以外にも、体幹に対してなど様々な方法が提案されていると思います。
ADL訓練
次は、ADL訓練についてです。
ADLとは、日常生活動作のことです。
次の図をご覧ください。
日常生活動作(ADL)には課題反復訓練が勧められる
脳卒中治療ガイドライン2015
食事・更衣・清容・入浴・歩行などの様々な生活動作ですね。
脳卒中治療ガイドラインには、「課題を繰り返す課題反復訓練が有効」とされています。
回復期リハビリ病棟などでは、リハビリスタッフも早出や遅出をして、徹底して行う場合もあります。
歩行訓練
次は、歩行障害に対するリハビリテーションについてです。
脳卒中治療ガイドラインでは、歩行¡障害に関して様々なアプローチが推奨されています。
歩行障害には様々なアプローチが推奨される
脳卒中治療ガイドライン2015
本当ですね。
2の短下肢装具は定番といえます。
3のボツリヌス療法も、最近は知られていますね。
6の機能的電気刺激(FES)も注目されています。
7のトレッドミル訓練や、8のロボットを用いたリハビリも有名になりましたね。
上肢機能訓練
続いては、上肢機能訓練に対するリハビリテーションについてです。
脳卒中治療ガイドラインでは、軽度〜中等度の麻痺に対するアプローチについて推奨されています。
上肢機能障害への推奨されるリハビリ
脳卒中治療ガイドライン2015
1はConstraint-induced movement therapy(CI療法)のことですね。非麻痺側手をミトンをつけるなどして使えないようにすることで、麻痺側手を強制使用させようというものですね。
他にも、いくつか紹介されていますね。
3の中の、促通反復療法というのは、別名川平法と呼ばれるものです。
今回のテーマの、ファシリテーション技術とも関連する運動促通法です。
ファシリテーション・運動促通
そして、今回のテーマであるファシリテーション技術や運動促通法についてです。
これらは、ファシリテーション技術やファシリテーションテクニックというように呼ばれますね。
ファシリテーション技術については、明確な定義と言えるものがありません。
先ずは、大枠で説明しましょう。
ファシリテーションとは、促通という意味です。
これは、神経生理学の中の促通や加重という用語に由来しています。
複数の閾下のEPSP(興奮性シナプス後電位)が加重されて閾上の興奮に達すると個々の刺激の効果の和より大きな効果が得られる。この現象を促通と呼ぶ。
生理学の授業で習いました。
次の図を見てください。
神経系における時間的および空間的促通
R.F.シュミット著 コンパクト生理学
促通には2種類あると言われています。
神経同士の結合部であるシナプスに電位が伝わる時には、このような促通のメカニズムが作用しないと活動電位は起こらないものです。
図では、A時間的促通とB空間的促通が示されています。
Aの時間的促通では、刺激の頻度の増加により活動電位が生じること表されています。
Bの空間的促通では、刺激に関わるニューロンの数の増加により活動電位が生じることが表されています。
この理解には、活動電位発生のメカニズムなどを復習する必要がありますね。
たしか、全か無かの法則でした・・・・・
たしかにそうですが、今回は時間の関係もありますので、そこは省略します。
機会があれば、また一緒に勉強しましょう。
大事なことは、脳梗塞へのリハビリにおけるファシリテーション技術は、このような生理学的な機構を参考にしているということです。
実際のリハビリ場面でも、刺激の頻度や刺激の量などを考えて実施する必要があるといえます。
リハビリのファシリテーション技術と神経生理学治療
神経生理学的治療
なるほど。
脳梗塞へのリハビリにおけるファシリテーション技術は、神経生理学の促通や加重という機構を背景にしているのですね。
そうです。
そのため、ファシリテーション技術のことを、別名で神経生理学的治療と呼ぶ場合もあります。
これらの、神経生理学的治療は、脳梗塞などの脳卒中後遺症以外にも、脳性麻痺の後遺症に対しても用いられてきました。
脳卒中と脳性麻痺では、いろいろと異なる点があります。
しかし、同じ脳の病変に起因した障害であることは共通です。
両者の共通性は、脳などの中枢神経系の障害であることです。
中枢神経の障害では、運動麻痺が生じた場合に、筋肉の緊張が強くなる痙性麻痺と呼ばれる状態になりやすいです。
繰り返しになりますが、痙性麻痺については、是非、以下の記事を参考にされてください。
脳卒中片麻痺に多い痙性麻痺とは|症状と治療やリハビリ方法について
これらの、神経生理学的治療は、ほぼファシリテーション技術と同じ意味で使われることが多いです。
ここでは、神経生理学的治療やファシリテーション技術と呼ばれるものを取り上げてみましょう。
ボバースアプローチ
日本では、一時期ファシリテーション技術や神経生理学的治療の代表のように扱われたのが、ボバースアプローチです。
ボバースアプローチとは、イギリスの医師であるカレル・ボバース博士と理学療法士のベルタ・ボバースの夫妻によって開発されたリハビリテーションのアプローチ方法です。脳梗塞などの脳卒中や脳性麻痺などの中枢神経疾患に対するアプローチ概念です。1940年代から今日に至るまで、世界25カ国に普及しています。
ボバースは、知り合いのリハビリ関係者でも有名です。
ただ、関心を持つ人がいる反面、一方では批判も多いことで有名です。
その通りです。
脳卒中治療ガイドラインの創設にあたって、名指しで批判されたことは記憶に新しいです。
たしかに、賛否両論があることはたしかです。
これについては、興味深い点もありますので、いずれ記事にまとめてみたいと思います。
ボバースアプローチについては、概念がわかりにくいという意見があります。
以下に、箇条書きにしてみたいと思います。
- 中枢神経の可塑性を活用して機能改善を目指す
- 運動制御だけでなく姿勢制御にも注目
- 運動の促通だけでなく、神経学的な異常性の抑制も考慮
- 神経系と共に筋肉の可塑性や生体力学的な視点も重視
- 最新の神経生理学に合わせてアップデート
- 概念は重視するが、方法論には自由度が高い
- リハビリセラピスト個々の個性が反映
以上は、公式的な定義というよりも、個人的な私見を含んでいます。
詳しくは、以下のサイトを参考にされてください。
ブルンストローム法
次は、ブルンストロームですね。
ブルンストロームは評価方法で有名ですが、アプローチ方法があったとは知りませんでした。
仰る通りですね。
ブルンストロームについては、評価方法としてのブルンストローム・ステージは完全に定着しています。
しかし、残念ながら、アプローチ方法としては、現在はほぼ使われていないと言って良いでしょう。
少し古い文献ですが、以下の論文が参考になります。
ブルンストロームの評価法であるブルンストロームステージについては、リハビリ関係者であれば既にご存知のことと思います。
以下にブルンストロームの回復の考え方を示したいと思います。
ブルンストロームによる回復の考え方
医療情報科学研究所 「フィジカルアセスメントがみえる」 メディックメディア
図では、ピンク色で中枢神経疾患による麻痺(中枢性麻痺)の回復の流れを示しています。
緑では、同じように末梢神経による麻痺(末梢性麻痺)の回復の流れを示しています。
緑の末梢性麻痺では、筋力の回復=麻痺の回復と言えますね。
その通りです。
言わば、量的な変化であるともいえますね。
一方で、中枢性麻痺では、完全弛緩から共同運動の完成を通じて、最終的に正常に近い運動パターンの再獲得という流れになっています。
そして、重要なのは、共同運動の完成から正常に近い運動パターンへの回復の過程で共同運動から個々の運動の分離独立という過程があることです。
また、完全弛緩から共同運動の完成に向かう間には、連合反応の出現という段階も存在します。
連合反応とは、非麻痺側の上下肢に力を入れると、麻痺側の上下肢に不随意的に筋肉の緊張が強まることです。
つまり、
完全弛緩→連合反応の出現→共同運動の完成→分離運動の回復→正常に近い運動
というような流れですね。
そうです。
これに、いわゆるブルンストロームステージを重ねると、
ステージI 弛緩状態
ステージII 連合反応の出現
ステージIII 共同運動の完成
ステージIV 共同運動から分離運動へ
ステージV さらなる分離運動の回復
ステージVI ほぼ正常
というような感じです。
これは、脳梗塞などの脳卒中リハビリの関係者では、常識と言えるものですね。
たしか、上田の12段階グレードや、Fugl-Meyer-Assessmentなども同じように、共同運動からの分離という点を重視していますね。
そうですね。
Fugle-Meyer-Assessment(FMA)は、私のサイトでも、効果判定に使用しています。
また、海外の論文検索サイトでも頻繁に出現しますね。
以下にリンクを貼りますので、どうぞご参考にされてください。
脳卒中患者の運動能力を検査するためのFugl-Meyer評価の信頼性
国内では、ブルンストロームステージが、海外ではFugle-Meyer-Assessmentなどが用いられている印象ですね。
先ほど、文献をお示しした、アプローチ方法としてのブルンストローム法は、このステージの流れをアプローチに当てはめるというようなものです。
PNF
PNFについては、脳梗塞リハビリに限らず、幅広い分野で活用されている技術といえます。
Proprioceptive Neuro-muscular-Facilitationの頭文字をとって、PNFです。
日本語では、固有受容器性神経筋促通法といいます。
1940年代に医師のKabatと理学療法士のKnott、Vossらが開発したもので、当初はポリオ後遺症に対して、その後は脳梗塞などの中枢神経疾患、末梢神経疾患、スポーツ傷害などに広がっています。また、スポーツトレーニングや一般向けのコンディショニングなどにも活用されつつあります。
PNFの定義としては、以下のようなものです。
- 固有受容器性の刺激によって神経筋機能の反応を促通
- 刺激方法として、関節への圧縮や牽引、筋の伸長、運動抵抗、運動パターンなどが重視される
- 中でも、運動全範囲における最大抵抗運動が強調される
- 最大抵抗運動により、弱化した筋への効果を最大にさせると考えられている
PNFについては、私も講習を受けました。
手技が確立しているので、勉強しやすかったと思います。
たしかに、そうかもしれません。
ボバースアプローチが、手技的にはあまり固定的でないことと対照的かもしれません。
ただ、PNFもボバースアプローチも、1940年代が発祥時期というのは興味深いです。
はい。
実は、ファシリテーションや神経生理学的治療と呼ばれるものには、他にも多くのものがあります。
例を挙げると、ボイタ法やルード法などです。
これらは、やはり1940年代を中心に発展したとされていますが、それぞれの創始者同士の相互交流もあったものと思われます。
それで、理論的背景を共有することも多かったと聞いています。
なるほど、そうなんですね。
そうだとすると、やはり普遍性のある基礎的な生理学の知識は、今も昔も重要なんですね。
リハビリのファシリテーション技術と川平法
川平法について
続いては、近年注目されている日本発のリハビリテーション技術です。
鹿児島大学名誉教授の川平和美 先生により開発されました。
川平先生は、鹿児島大学在職中の2005〜2013年の間に川平法に関する多くの論文を発表されています。
さきほど、脳卒中治療ガイドライン2015の上肢機能障害に中で、川平法が推奨されていました。
さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では、上肢機能障害に続いて、上肢の痙縮抑制についても推奨されているとのことですね。
そうです。
川平法の定義については、以下のように示されています。
- 川平法は、脳卒中や神経疾患、脊髄損傷などの麻痺症状を改善するもの
- 麻痺した手足などを操作して促通し、随意運動を反復させます。
- この反復により、脳から脊髄に至る神経機構を再建強化し、運動回復を促通します。
- 反復の回数は100回や50回×2セットなど。
川平法は、最近注目されている手法です。
川平先生は、鹿児島大学を退職後は、川平先端ラボを設立されて、普及に力を入れられています。
川平先端ラボについては、以下にリンクを記します。
どうぞ、ご参考にされていください。
福岡で川平法が受けられる自費リハビリ施設
では、福岡で川平法が受けられる施設をご紹介したいと思います。
全国的にみても、やはり病院などの医療機関での実施が主ですが、自費リハビリとして提供されている施設も増えつつあります。
そのような中で、福岡で頑張っておられる施設をご紹介します。
よろしくお願いします。
こちらは、リハシード福岡です。
代表の樋口典子 さんは作業療法士の国家資格者で、福岡市内の病院勤務を経て、現在はリハシードの代表をされています。
川平法に関する研究成果を多数発表されています。
女性ということもあり、きめ細かい施術や指導が好評とのことです。
講習会も開催されているのですね。
脳梗塞リハビリとファシリテーション|神経生理学的治療と運動促通のまとめ
脳梗塞リハビリのファシリテーション技術とはのまとめ
脳梗塞リハビリの種類には、関節可動域訓練や筋力訓練などに加えて、ファシリテーション技術や運動促通法などがあります。
リハビリのファシリテーション技術と神経生理学治療のまとめ
リハビリのファシリテーション技術は、別名神経生理学的治療と呼ばれることがあります。
ボバースアプローチやPNFなどが有名です。
リハビリのファシリテーション技術と川平法のまとめ
近年、注目されているのは川平法です。
川平法は、鹿児島大学名誉教授の川平和美 先生により開発されました。