福岡県脳梗塞リハビリをめぐる二つの考え方|麻痺側か?非麻痺側か?

福岡の脳梗塞リハビリをめぐる二つの考え方

リハビリは非麻痺側中心?麻痺側中心?

今回は、福岡の脳梗塞リハビリをめぐる二つの考え方について解説してみたいと思います。

「福岡で」と敢えて言いましたが、基本的には全国的に共通するものだと思います。

ただ、過去に、この二つの考え方をめぐる論争が主に福岡を中心に繰り広げられたことがありますので、ここでは「福岡」という地名を強調したいと思います。

非麻痺側を中心にアプローチする考え

脳梗塞へのリハビリの伝統的な考え方に、非麻痺側半身を中心にトレーニングするというものがあります。

日本でリハビリテーションが盛んになり始めた1960年代より、脳梗塞などの脳卒中片麻痺へのリハビリでは杖や装具を装着した非麻痺側中心での起立訓練などが主に行われてきました。

図は片麻痺のイラストです。

このような、杖や装具を用いたリハビリは現在でも多く用いられます。

しかし、かつては急性期においては安静を基本としていた時代もありました。

これは、主に全身管理的な問題によるものでした。

急性期では、急な血圧変化が再発の原因になると考えられるからです。

しかし、近年では、医学管理の下での急性期からの積極的リハビリが標準となりつつあります。

このような、非麻痺側を中心にした早期からの積極的なリハビリが急性期では主流となりつつあります。

麻痺側の運動麻痺を促通する考え

非麻痺側を中心とした離床や起立訓練などと共に、1980年代以降は麻痺側の運動麻痺の回復を促通するというアプローチも行われるようになりました。それらは、ファシリテーションテクニックと呼ばれる、ブルンストローム法やボバース法などです。

しかし、これらには当時より学会では様々な意見が寄せられました。

それは、主に批判的な内容が目立ちました。

ファシリテーション派は、脳の可塑性の存在を主張して、リハビリアプローチによって運動麻痺が改善することを唱えました。

脳の可塑性とは、ダメージを受けた脳細胞に対して、新たな神経ネットワークを再編するような作用です。

脳梗塞などにより一度ダメージを受けた脳細胞自体は、それ自体は甦らないものの、その周囲の脳細胞を利用して神経伝達のバイパスを作ることがあります。

それを、上手に利用して機能の再獲得に結びつけることが、脳の可塑性を活かしたリハビリであり、神経リハビリテーションなどとも呼ばれます。

ファシリテーション派は、この脳の可塑性を利用することで、リハビリにより運動麻痺が改善することを考えました。

しかし、その当時は、未だ脳の変化を機能と合わせて観察する方法が十分広まっていませんでした。

それについては、現在では、機能的MRIや近赤外分光法(NIRS)などが用いられています。

脳の可塑性や機能的な脳画像については、以下の記事が参考になります。

片麻痺のリハビリによる回復は本当に慢性期では難しいのか?

どうぞ、ご参照ください。

ファシリテーション派の主張は、当時の医学会では科学性が乏しいものと見做されました。

ボバース法などの、リハビリ専門職には注目された方法も、医師からは批判の対象になりました。

このような、ファシリテーション派に対する批判は、一時期は脳卒中治療ガイドラインにまで記載されたほどです。

このような、神経リハビリテーションの流れには続きがあります。

その後、2000年以降には、今度は医師主導による様々な方法が提案されるようになりました。

これについては、後でご説明いたしましょう。

福岡の脳梗塞リハビリの大家の主張

これまで述べたように、福岡を含めた全国の脳梗塞リハビリにおいては、麻痺側中心か?非麻痺側中心か?というような議論が常に繰り広げられてきたように思います。

非麻痺側中心派の急先鋒とも言えるのが、福岡県の医師の三好正堂 先生です。

三好先生は、以下のように主張しています。

脳卒中リハビリテーションで、早期リハと健側強化の重要性は、1970年頃に事実だと直感し、その後の追試で確かめることができた。しかし、現在でも、早期リハや健側強化が実行されず、十分回復していない脳卒中患者は非常に多い。

三好正堂 経験則を見直そうー臨床に役立つ予後予測の基本知識 

クリニカルリハビリテーション Vol.10 No.4 2001.4
脳卒中急性期リハの原理は、1)健側を優先して訓練すること 2)発症後3〜5日から起立と着座を繰り返す「起立訓練」を始めること 3)麻痺側上肢の関節可動域訓練を患者自身の健側手でさせること の3点に要約できる。

三好正堂 臨床医に必要な脳卒中早期リハビリテーション

以上のように、三好先生は、特に急性期において非麻痺側である健側強化と起立訓練の重要性を訴えてこられました。

たしかに、これらの論文が発表された2000年代前半では、未だ急性期では安静を重視する考え方も強かったと思います。

そのような時期に、医学管理の下、しっかりとした健側強化や起立訓練による筋力増強の重要性を主張されてたことは非常に大きなことだと考えます。

また、三好先生は、以上のような考えかたを前提にして、麻痺側の運動機能の回復を図るファシリテーション派への強い批判を展開されました。

ファシリテーション派が批判された背景には、このような非麻痺側中心派の強い信念があったとも言えるでしょう。

神経リハビリテーションとして麻痺回復を目指す立場

神経科学が十分に解明されていなかった時代に、いわゆるファシリテーション派は、臨床的経験に基づき麻痺側中心的なアプローチを考案してきました。

たしかに、その後に強い批判に晒されたとは言え、脳や運動麻痺の回復を目指すという視点においては高い志があったものと思います。

その後、時代が流れて2000年代後半に入ると、日本でも徐々に医師レベルでも脳の可塑性を追求する機運が高まりました。

それらは、機能的MRIやPETなどの検査方法を用いて脳の状態を評価しつつ、先進的な手法によりリハビリを展開するというものです。

それらの一部について、以下に紹介します。

片麻痺の回復に同側性運動路(健側脳半球からの運動神経路)が関与している。 経頭蓋磁気刺激法(TMS)やポジトロン断層法(PET)、機能的磁気共鳴画像法(機能的MRI)などにより解明されつつある。

山田深 片麻痺の回復パターンと同側性運動路の関与

クリニカルリハビリテーション Vol.16 No.10 2007
パワーアシストタイプの電気刺激では、対側(患側)脳の感覚運動領野に著しい血流増加を認めた。 様々な検査により麻痺側上肢運動の改善が見られた。

原 行弘 新しい治療的電気刺激法ーbiofeedback技術の応用も含めて

クリニカルリハビリテーション Vol.16 No.10 2007

電気刺激法については、以下の記事が参考になります。

片麻痺への低周波を用いたリハビリの効果|機能的電気刺激法とは?

どうぞ、ご参照ください。

障害側半球の運動野を高頻度の反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)にて直接刺激することにより、麻痺側機能が改善すると考えられる。

竹内直行 反復経頭蓋磁気刺激による麻痺改善効果

クリニカルリハビリテーション Vol.16 No.10 2007

以上は、ほんの一例です。

現在では、より多くの研究や報告が行われています。

福岡脳梗塞リハビリの現在

ここまで述べたように、我が国では脳梗塞リハビリの黎明期より、非麻痺側中心派や麻痺側中心派がそれぞれの主張を展開してきました。

学会などでの論争においては、論点がクリアなこともあり、非常に関心を持たれたことも事実でしょう。

しかし、そうは言っても、現実の臨床現場ではそこまで極端な違いは無かったのではないでしょうか?

初めて片麻痺になった患者さんとしては、半身麻痺になったことで動けなくなったと考えることは普通のことです。

その状況で、非麻痺側中心のアプローチが行われることは、患者さんとしても納得しにくいことは多いと思います。

よって、非麻痺側中心を主張する立場でも、ある程度は麻痺側へのアプローチを行いつつ非麻痺側へ訓練を行うことが大半でしょう。

また、麻痺側中心派においても、非麻痺側を軽視していた訳ではありません。

むしろ、前述の三好先生とは別の視点で非麻痺側を重視していたとも言えます。

どちらの立場においても、最終的には患者さんに社会復帰をしてもらうことが目的です。

重心の置き方はやや異なったとしても、両派とも患者さんのことを第一に考えていることには違いは無いでしょう。

そのような経緯の末、福岡の脳梗塞リハビリの現在は、いろいろなバリエーションが広がっているように見えます。

また、時代の流れとして、医療機関では早期退院、早期社会復帰が求められます。

限られた入院期間の中で、効率よくアプローチすることが不可欠です。

現在の典型的な急性期や回復期のリハビリでは、早期の歩行の獲得と日常生活活動(ADL)の自立が最優先とされます。

そのため、365日体制、24時間管理で他職種によるリハビリが実施されます。

回復期リハビリテーション病棟では、1日の生活の全てをリハビリと考えるような発想もあります。

このような現状においては、現在は非麻痺側中心派的なアプローチが主流なのかもしれません。

しかし、それと同時に、神経内科やリハビリ科の医師の主導により、科学的なアプローチを脳や麻痺側に実施する傾向もあります。

また、麻痺側の運動を促通するという観点においては、かつてのファシリテーション派的な手法も複数存在していると言えるでしょう。

以上のような意味において、現在ではアプローチの手法は理想的に広がりつつあると言えます。

しかし、一方では、リハビリ難民問題に象徴されるような、年齢や重症度と無関係に一律でリハビリ日数制限が適応される法制度の問題がクローズアップされています。

現在、福岡や全国では、自費リハビリや保険外リハビリと呼ばれる、医療や介護の制度と無関係なリハビリサービスが急増しています。

それらの殆どは、このようなリハビリ難民問題の解決を謳っています。

つまり、医療制度と介護制度の間で抜け落ちて、十分なリハビリサービスが受けられないようなケースについて、新たな保険外の自費リハビリを提案するという立場なのです。

リハビリ難民問題については、以下の記事も参考になります。

リハビリ難民の現状が現在も無視されつづける本当の理由|脳卒中編

リハビリ難民200万人時代|リハビリ難民の定義・実態・解決策は?

どうぞ、ご参照ください。

そのような意味において、現在から今後の問題は、単に非麻痺側中心か?麻痺側中心か?というような限局したテーマではなく、限られた制度内の資源をフル活用しつつ、そこでカバーしきれない面を自費や保険外のリハビリも動員して如何にして解決するかという事でしょう。

そこで、今後は、普及途上とも言える自費・保険外リハビリの質と量の充実が望まれるところだと言えます。

自費リハビリや保険外リハビリの必要性については、以下の記事が参考んなります。

脳梗塞の保険外 リハビリが必要な理由とは|ベテラン作業療法士が解説します

どうぞ、ご参照ください。

福岡県脳梗塞リハビリをめぐる二つの考え方|麻痺側か?非麻痺側か?のまとめ

福岡の脳梗塞リハビリをめぐる二つの考え方のまとめ

かつて、福岡を中心にして、脳梗塞リハビリには二つの考え方による論争が繰り広げれました。

それは、非麻痺側中心か?麻痺側中心か?というようなものです。

福岡の脳梗塞リハビリの大家の主張のまとめ

非麻痺側中心派として有名なのは、福岡県の医師の三好正堂 先生です。

三好先生は、1970年代より、早期リハビリと健側強化の重要性を説かれています。

神経リハビリテーションとして麻痺回復を目指す立場のまとめ

1980年代頃、麻痺側中心派としてファシリテーション派が目立っていました。

その後、変遷を経て、2000年代後半移行は、医師主導による脳の可塑性を追求する流れが見られるようになりました。

福岡脳梗塞リハビリの現在のまとめ

現在では、非麻痺側中心か?麻痺側中心か?というような限局的なテーマよりも、リハビリ難民問題に象徴されるような、年齢や重症度と無関係に一律でリハビリ日数制限が適応される法制度の問題がクローズアップされています。

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