片麻痺の歩行の特徴とは?分回し歩行を解決するリハビリ方法について

歩行訓練を行う女性と介護士

片麻痺歩行の特徴と自立について

片麻痺歩行の課題

片麻痺へのリハビリでは、歩行訓練はとても重要な課題となります。

実際に、片麻痺の後遺症により何らかの歩行障害が残るケースは多く存在します。

近年の論文では、片麻痺患者の7割程度が歩行自立可能との報告があります。

ランダム化された対照試験の結果、脳卒中後6ヶ月で7割以上のケースが歩行自立していた。

MK Aaslundら「脳卒中後1週間の脳卒中の重症度、障害、身体機能が、脳卒中6か月後の歩行速度とどのように関連しているかを調査した縦断的研究」

A longitudinal study investigating how stroke severity, disability and physical function the first week post-stroke are associated with walking speed six months post-stroke

このような報告は、日本の論文にもあります。

しかし、一方で注意も必要です。

それは、歩行自立ということが、必ずしも何の補助具も必要ないという意味ではないことです。

例えば、や装具などを用いての自立という事も非常に多いということです。

また、個人的には、昨今の高齢化により、脳卒中後の片麻痺の歩行の自立度はやや低下しつつあるという印象もあります。

何にせよ、片麻痺の歩行へのリハビリについては、取り組むべき問題が多いと言えます。

特徴的な片麻痺歩行の姿勢

片麻痺の歩行の問題については、数々の課題があると言えます。

有名なのは、足首に生じる尖足(せんそく)などです。

しかし、片麻痺の歩行障害の根本的な問題は他にあると考えます。

それは、特徴的な歩行姿勢にあります。

典型的片麻痺の姿勢

図は、典型的な片麻痺の姿勢を示しています。

たしかに、尖足などの分かりやすい所見は目立ちます。

しかし、より根本的な問題は何でしょうか?

勿論、尖足があると、歩きにくいことはたしかです。

しかし、健常人であれば、仮に尖足があったとしても、全く歩けないということはないでしょう。

それは、片麻痺の無い非麻痺側半身や体幹などでバランスがとれるからです。

写真を見て分かることは、姿勢に問題があることです。

姿勢はバランス能力とも関連します。

そのため、単に姿勢が悪いというよりは、姿勢制御(バランス)能力に問題があるといった方が良いでしょう。

姿勢については、以下の記事も参考になります。

片麻痺の正しい姿勢と車椅子への応用|ポジショニングとは?

よろしければ、是非、ご一読ください。

片麻痺になると、姿勢やバランス能力に影響が及びます。

片麻痺は別の言い方では半身麻痺というように、上肢下肢だけでなく体幹も含めた広範な運動障害を伴います。

それが、写真のような姿勢になる原因といえるでしょう。

実は、姿勢の分析は非常に難しいものです。

詳細すぎる説明は、専門家以外には分かりにくものになりますので、ここでは割愛します。

ただ、片麻痺の歩行の特徴には、このような姿勢の問題があることを少し分かっていただければ幸いです。

下肢の尖足

ここから、比較的に目立ちやすい片麻痺歩行の症状を挙げてゆきたいと思います。

これらの背景には、前述の姿勢やバランス能力の問題も存在することが多いと考えます。

尖足

片麻痺の症状の中で、非常に有名なのがこの尖足です。

尖足については、

片麻痺の尖足の原因はなにか?|足首ストレッチではダメな理由

という記事が参考になります。

どうぞ、ご一読ください。

尖足は、写真のように足首が下向きに固定される症状です。

背景には、脳梗塞などによる運動麻痺の影響があります。

尖足になると、歩行に大きな障害が生じます。

歩行を大きく分けると、体重を支える立脚相脚を降り出す遊脚相に分類されます。

尖足は、この両方において問題となります。

立脚相においては、つま先立ちのようになり体重が十分支えられません。

また、遊脚相においては、つま先が引っ掛かりやすくなり、つまずく危険性があります。

そのため、尖足に対しては、しばしば装具が適用されます。

反張膝(はんちょうひざ)

尖足に伴いやすい症状として、反張膝(はんちょうひざ)があります。

はんちょうしつと呼ぶ場合もあります。

反張膝

写真は、尖足に伴う反張膝を示しています。

反張膝とは、白い線で示しているように、膝がそり返った状態です。

膝関節は、通常は大腿骨と下腿が真っ直ぐな位置までしか伸びません。

写真のように反り返った状態にはならないことが通常です。

反張膝の背景には、尖足や姿勢・バランスの影響があります。

立脚相における骨盤の側方偏位

こちらは、少し分かりにくい片麻痺歩行の特徴かもしれません。

立脚相における骨盤の側方偏位

こちらは、杖も装具も使わずに比較的に自由に歩いておられる方です。

回復としては良好な方ですが、体重を支える立脚相に少し問題があります。

後ろから見た写真に、赤い線でおおよその重心線を描いています。

重心線は、正常な片脚立位では、頭から股関節、足底が一直線になります。

しかし、こちらの写真では、股関節が外側に突き出たような状態が目立ちます。

これは、体重支持に必要なお尻の筋肉である大殿筋(だいでんきん)や中殿筋(ちゅうでんきん)などの筋活動が低下している時に生じます

比較的に似ているのが、筋力が弱い女性が歩く時に骨盤が体重支持側に動揺するような場面です。

このような歩行を中殿筋歩行と呼びます。

少し意外なことかもしれませんが、正常な歩行周期では立脚相と遊脚相では、立脚相の方がより重要となります。

立脚相が全体の60%を占めることが知られています。

ところが、この写真のように立脚相で骨盤が動揺することは、十分な体重支持力が不足していると言えるのです。

人の意識の上では、脚が動かなかったり重かったりすると、どうしても振り出しである遊脚相に問題があると思いがちです。

しかし、実は多くのケースにおいて、このような立脚相の問題が存在しているのです。

分回し歩行

片麻痺の歩行の特徴として、尖足と同じように知られているのが分回し(ぶんまわし)歩行です。

これは、麻痺側下肢を振り回すようにスイングすることから名付けられたものです。

分回し歩行

こちらは、先ほどと同じ方の遊脚相です。

この方は、立脚相にも問題がありましたが、遊脚相でも軽度の分回し歩行が見られます。

片麻痺の歩行では、今ご説明しているような特徴が単独で存在するというよりは、複数が同時に存在していることが多いものです

分回し歩行は有名な現象なので、ネット上にも様々な解説があると思います。

例えば、足首に尖足があるため、それを代償する意味で分回しが行われるという解説もあります。

また、過剰なバランス反応の一部として見られるという解説もあります。

どれも、基本的には正しいものです。

しかし、個々のケースの問題は、そのケースのさまざまな運動障害の結果生じます。

仮に、同じように分回し歩行が観察されたとしても、その原因は個々の障害をよく分析してみないことには明確にはなりません。

こちらのケースは、上下肢の強い麻痺はないものの、麻痺側下肢の中枢部や体幹の筋緊張がやや低下傾向にあります。

そのため、前述の通り、立脚相では十分な体重支持ができていないこととともに、遊脚相では下肢を空間に支えることが困難なため、体幹を左に倒して右下肢を振り出しています。

その結果が、写真のような分回し歩行になっているのです。

そのため、分回し歩行改善へのアプローチは、下肢の中枢部や体幹の筋活動を高めることを基本に進めます。

沈み込み歩行

沈み込み歩行も、しばしば見られる現象です。

沈み込み歩行

図は、あるケースの歩行状態を横から見たものです。

股関節と膝関節が曲がり、体幹が前傾姿勢となっています。

このような状態だと、どのような歩行障害が予想されるでしょうか?

股関節や膝関節が曲がり、全体的に重心が沈み込んでいる印象を受けます。

このような姿勢では、立脚相の効率が悪くなり小刻み歩行となります。

人間の重心は骨盤の付近にありますが、このような沈み込み歩行では重心の位置が下がります。

実は、立脚相では、体重を支えるだけでなく重心を上に持ち上げることも大事な機能です。

正常な歩行では、立脚相で持ちあげた重心を遊脚相で運動エネルギーに変えて、振り出しを効果的に行うという側面があります。

つまり、このような沈み込み歩行では、立脚相で重心を持ち上げることができないため、小刻み歩行となったり、足を床に引きずるような状況を招きやすいと言えるのです。

小刻み歩行と言えば、パーキンソン病で有名な症状です。

パーキンソン病も、沈み込み歩行と同様に、体幹が前傾して下肢が曲がっています。

このように、歩行の障害には下肢だけではなく、体幹などの全身の状態を分析して対応する必要があります。

すり足歩行

沈み込み歩行では、遊脚相においてつま先を床に引きずるような、すり足歩行の傾向もあります。

つま先の引きずりは、尖足の場合もあり得ます。

尖足の場合は、下肢装具を装着して引きずりを防ぐように対策します。

装具で足首の向きを矯正します。

しかし、沈み込み歩行によるすり足歩行では、必ずしも装具は効果的ではありません。

沈み込み歩行に伴うすり足歩行では、先ずは沈み込みを改善して立脚相で重心が下がり過ぎないようにすることが大事です。

そして、そのためのリハビリが大変重要となります。

屈曲パターン振り出し歩行

典型的な片麻痺の運動には、共同伸展運動や共同屈曲運動と呼ばれるものがあります。

これは、上下肢に見られます。

下肢を例に挙げて説明します。

共同伸展運動は、下肢を伸ばす時に、膝関節や股関節と共に足首も下向きになるような運動です。

共同伸展運動は、尖足や分回し歩行の背景に存在する場合があります。

一方、共同屈曲運動は、下肢を曲げる場合に、股関節や膝関節と共に足首もやや過剰に上向きになるような運動です。

歩行の場合では、振り出しの際に下肢全体が過剰に曲がりすぎて、バランスを崩すようなことがあります。

屈曲パターン振り出し歩行

写真は、そのような下肢の屈曲パターンによる振り出しの場面です。

この場合の問題は、下肢が曲がって引き上がるようなパターンになることですが、これを上手く調節できないことで容易にバランスを崩して転倒しやすくなる問題も加わります。

尖足や分回し歩行に比べると少数派かもしれませんが、こちらも下肢や歩行のリハビリが重要なケースとなります。

片麻痺歩行の特徴と背景問題

神経生理学的な説明

リハビリ施術では、ここまで述べた片麻痺の歩行の特徴に対して、様々なアプローチを実施して改善を計ります。

しかし、それは単に歩行訓練を繰り返すというものではありません。

歩行の障害となっている問題を追及して、その問題を解決するような視点が重要です。

そのためには、片麻痺の歩行の特徴にある本質的な問題を理解することが必要です。

内側運動制御と外側運動制御

高草木薫 脊髄外科(2013.12)27号3巻208-215

図は、人間の運動制御について解説したものです。

非常に専門的なので、簡単にご説明したいと思います。

図の人間の絵を見てください。

左のAは青、右のBでは赤で示されている箇所があります。

これは、右の大脳皮質からの運動神経がどのように身体に伝達されるかを示したものです。

Bの赤で示されているものは、外側運動制御系と呼びます。

外側運動制御系では、右の大脳皮質からの情報は左半身に伝達されます。

そして、特に赤色が濃い手足などの上下肢の末梢部との関係が強くなります。

しばしば、片麻痺では上肢が筋肉の緊張により曲がって手指が握り込んだり下肢に筋緊張を伴う尖足が見られます。

手指の握り込みについては、以下の記事も参考になります。

片麻痺の握り込みはリハビリで改善するか?手指の緊張緩和法 

是非、ご一読ください。

それらは、この経路の障害により生じた結果です。

この経路の障害による麻痺は、筋肉の緊張を伴う硬い麻痺であることが多いものです。

一方で、Aの青で示されているものは、内側運動制御系と呼びます。

内側運動制御系では、右の大脳皮質からの情報は、同側であったり両側に伝達されます。

そして、体幹や上下肢の近位部との関係が強いものです。

この内側運動制御系の障害によって、片麻痺では体幹や上下肢の近位部の筋肉の緊張は低下したり、働きにくくなることがあります。

昔から、片麻痺の体幹の問題については様々な議論がなされてきました。

今日的には、このような神経生理学的な観点からも片麻痺の運動障害が説明できるようになっています。

では、前述の片麻痺の歩行の特徴において、これらの運動制御系はどのように関連するのでしょうか?

これについては、本当にケースバイケースの面が大きいので明確には説明できません。

よって、比較的に可能性が高いと思われる点のみをお話ししたいと思います。

尖足の背景問題

尖足の背景問題は、大半において外側運動制御系の障害があると言えます。

そのため、尖足では下腿三頭筋と呼ばれるふくらはぎの筋肉の緊張が亢進した状態となります。

筋肉の緊張の亢進とは、脳の障害により病的に筋緊張が強まった状況です。

このような状態のことを、痙性(けいせい)麻痺や痙縮(けいしゅく)と呼ぶこともあります。

痙性麻痺については、以下の記事が参考になります。

脳卒中片麻痺に多い痙性麻痺とは|症状と治療やリハビリ方法について

どうぞ、ご参照ください。

尖足などの痙性麻痺の状態では、常に筋緊張が高いものです。

それに、足首の運動が制限されて歩行に支障をきたすことになります。

立脚相における骨盤の側方偏位の背景問題

尖足は、外側運動制御系の障害で、筋肉の緊張の高さによる運動の硬さが問題となります。

一方で、内側運動制御系の障害では、筋肉の緊張はむしろ低下する傾向にあります。

そのため、主に姿勢を保持したり、体重支持の際の支持性の低下が生じやすくなります。

筋肉の緊張の低さは、軽度な障害から重度の障害まで、様々な程度で認められます。

例えば、歩行は可能ながらもバランスに低下がある場合から、座位などの姿勢保持自体が全く困難なケースまでいろいろです。

前述の、「立脚相における骨盤側方偏位」のケースでは、歩行の立脚相、即ち体重を支持する際に大殿筋や中殿筋などの筋活動が低下しているため歩行が不完全となります。

立脚相は歩行の60%を占める相です。

立脚相の不十分さは、バランスや歩行速度などに直接的に影響を及ぼします。

分回し歩行の背景問題

分回し歩行も、様々な背景問題が想定できます。

先ず、尖足を伴うようなケースについては、下腿三頭筋の痙性麻痺が問題となります。

尖足とは、足首が下向きに固定された状態です。

つまり、歩行の遊脚相である振り出しにおいて、つま先が引っ掛かりやすい状況になります。

そのため、先ほどの写真のように、体幹を反対側の非麻痺側に倒して麻痺側下肢を振り回すようにスイングするということがあります。

これは、主に、外側運動制御系の障害による影響と言えます。

しかし、分回し歩行の原因はそれだけではありません。

私たちは、遊脚相では自然に大腿が持ち上がり膝が緩むことによって膝から下を振り子のようにスイングします。

しかし、分回し歩行の際には、大腿を空間に持ち上げて維持することが出来ずに、結果として下肢を一つの棒のように振り回すことになります。

この背景にあるのは、内側運動制御系の障害による下部体幹や下肢近位部の筋活動の低下です。

そのため、分回し歩行が見られるケースでは、同時に立脚相でも骨盤の側方偏位が見られるなどの不安定性を併せ持っています。

多くの分回し歩行が見られるケースにおいては、これらの両方の問題に対処する必要があると考えます。

片麻痺の歩行特徴へのアプローチ

それでは、これらの片麻痺の歩行の特徴に対してのアプローチを考えて見たいと思います。

運動促通

足関節の背屈運動促通

麻痺に対して、随意運動の回復を促すことを運動促通といいます。

また、足首を上に向ける運動を背屈(はいくつ)と呼びます。

ここでは、背屈の運動促通を行います。

足関節の背屈運動促通

図は、足関節の背屈を促通している場面です。

ここでは、単なるストレッチに止まらず、実際に背屈の随意運動を促します。

クローズドエクササイズ

クローズドエクササイズとは、Closed Kinetic Chain(CKC)エクササイズとも言います。

クローズドエクササイズ

写真のように、足底を固定した状態で下肢の運動促通を行います。

このような状態での訓練を、クローズドエクササイズと呼びます。

一般的には、マシントレーニングによる筋トレでも、この方法が多く用いられています。

しかし、このような麻痺側への運動促通という意味においては、筋トレとは少し違う観点が必要となります。

この場合は、足底から感覚情報を頼りにしつつ膝関節の分離した動きを学ぶことに役立ちます。

これは、立位や歩行においては、床反力(ゆかはんりょく)を受け止めることにもつながります。

我々は、無意識のうちに自分の重心を感じることができて、それにより支持面において適切な位置に重心を保つことが可能となります。

私たちが、重力の中で姿勢を保持したり歩いたりするには、筋力などの運動面と共に感覚的なフィードバックが重要となります。

クローズドエクササイズでは、そのような運動と感覚の両面へのアプローチが可能となります。

立脚相の練習

運動促通の場面に続いて、歩行に必要な立脚相の練習を行います。

立脚相の練習

図のように、片脚立ちのような場面を作ります。

この中で、立脚相に必要な体重支持性を高めます。

遊脚相の練習

立脚相と共に、遊脚相の練習も行います。

遊脚相の練習

図のように、膝関節に緩みを出して、正常に近いスイング運動の練習を実施します。

片麻痺の歩行の特徴とは?分回し歩行を解決するリハビリ方法についてのまとめ

片麻痺歩行の特徴と自立についてのまとめ

片麻痺の歩行には、姿勢やバランスなどの課題があります。

それに加えて、尖足や分回し歩行など、様々な特徴があります。

片麻痺歩行の特徴と背景問題のまとめ

片麻痺歩行の特徴の背景には、神経生理学的な問題があります。

それは、外側運動制御系や内側運動制御系の障害などです。

片麻痺の歩行特徴へのアプローチのまとめ

片麻痺の歩行特徴へのアプローチは、大変重要です。

具体的には、運動促通や立脚相・遊脚相の練習を行います。

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