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目次
片麻痺の姿勢と車椅子
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モヤイ教授、こんにちわ!
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福祉用具の仕事をしていると、正しい姿勢とは何か?といつも悩みます。
特に、片麻痺がある利用者の場合はどのように考えれば良いでしょうか?
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たしかにそうですね。
車椅子を選定する場合でも、姿勢についての知識は必要です。
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今日は、片麻痺の姿勢について解説してゆきましょう。
本来の正常な姿勢とは
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片麻痺姿勢の前に、そもそも正常な姿勢について確認しましょう。
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モヤイ教授
よろしくお願いします。
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以下に、健常者の正常な姿勢の特徴を挙げてみます。
- 基本的に左右対称
- 正しいアライメントを保つ
- 重心と床反力の関係
- 静的姿勢と動的姿勢
- 正しい姿勢は正しい運動の始まり
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一つづつ、解説してみましょう!
片麻痺と比べて、我々健者の姿勢は基本的に左右対称的です。もちろん、厳密にみれば完全に対称的な人はいません。どんな人の姿勢にも、多少の左右差はあります。しかし、片麻痺に比べれば明らかに対称的と言えます。
姿勢における、身体の各部位の関係性のことをアライメントと言います。 健常者は、身体各部位のアライメントを正しく保っています。 勿論、姿勢の特徴は人それぞれです。 中には、猫背の人もいれば、O脚の人もいます。 しかし、体型に多少の個性があっても、それが理由で身体機能に影響があることはありません。 一方で、片麻痺などの身体障害においては、アライメントの不良が運動機能に大きく影響します。
私たちは、常に姿勢を安定させることが可能です。 そして、実際に安定感を感じることができます。 安定性とはどのようにして成立するのでしょうか? 筋力でしょうか?関節の可動域でしょうか? もちろん、それらも関係はするでしょう。 しかし、静的な姿勢においてはそんなに筋力が必要でしょうか? 例えば、椅子にじっと座っているような状態を想像してみます。 そんな時には、ほとんど意識して力をいれることはないでしょう。 では、安定感はどこで感じるのでしょうか? それは、我々の重心の位置と床反力の向きが関係します。 人間の重心は、概ね骨盤付近にあります。 床反力とは、重力の反作用として床から返ってくる力です。 じっとしていて静的に姿勢が安定している時には、床反力は我々の重心の下へ真っすぐ戻ってきます。 つまり、姿勢が安定していると感じる背景には、重心と床反力の関係があるのです。
先ほど、静的な姿勢という表現をしました。 じっと座っている時、じっと立っている時などは静的な姿勢と言えるでしょう。 しかし、実は、そのような静的に見える状態においても、実は、常に動的なバランスが働いています。 有名な話ですが、めまいの検査で用いる重心動揺計の上に健常者が立った場合のデータでは、常に一定の軌跡で重心が移動していることが分かります。 また、我々が、映画館で長時間座っていても簡単にお尻が痛くならないのは、常に無意識のうちに重心を移動させて殿部の体圧を分散させているからです。 細かい重心移動と共に姿勢にも変化があります。 姿勢を保持する上で重要と言える体幹ですが、それらは一つの塊ではありません。 例えば、脊柱を構成する24個の椎骨は全て関節を形成しており、常に分節的な動きを行うことで重心移動を生み出しています。
正しい姿勢とは、常に一つの姿勢をとり続けることではありません。 姿勢には多様性や連続性があります。 例えば、普段は円背の姿勢をとっているようでも、活動時にはどんどん変化します。 例えば、腕を前や上に伸ばす時、あるいは立ち上がる時などです。 このような時には、それまで円背のように見えた姿勢がダイナミックに変化して、脊柱が伸びます。 重心の位置は前に移動して、足の裏に体重が移動します。 このような正しい姿勢変化を作れることは、その後の運動をより正しく確かなものにします。
正常な背臥位姿勢
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では、上記のことを頭に入れて具体的な姿勢を見てゆきましょう。
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背臥位とは仰向け姿勢のことです。
背臥位は、支持基底面が広く安定した姿勢です。
しかし、一方で、人間の身体の構造上、硬い支持面には馴染まない側面もあります。
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図は、人間が硬い平面上に背臥位になった時のモデルです。
脊柱の湾曲などに伴い、空間がいくつもできていることが分かります。
丁度、青色の部分が空間になります。
例えば、頸椎の後ろや腰椎の後ろなどです。
太腿の後ろや脛の後ろなどにも空間があります。
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その結果、骨盤などの身体が接地している部分は、むしろ体圧が集中しやすいという事が言えます。
実は、体圧が集中しやすい骨盤や胸椎の部分は、褥瘡の後発部位といえます。
褥瘡とは、床ずれのことですが、寝たきりの患者さんの場合では大きな問題となります。
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本当ですね。
安定していると思える背臥位ですが、実はこんなに支持面との間に空間ができるのですね。
寝たきりの人には、定期的な体位交換が必要な筈ですね。
正常な側臥位姿勢
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次に、側臥位を見てみましょう。
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ところで、夜眠る時は、どんな姿勢で眠りますか?
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私は、最初寝つくまでは、横向きで寝ます。
側臥位ですね。
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どうして、背臥位ではなく側臥位なんでしょうね?
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あまり、考えたことがなかったです。
ただ、側臥位の方がなんとなく落ち着くような気がします。
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そのような意見は多いでしょうね。
何故、側臥位が落ち着くのかを考えてみましょう。
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写真のように、軽く脚を曲げた側臥位は、意外と安定感があります。
先ほどの、背臥位に比べても、身体が支持面にフィットしやすいものです。
脚を曲げることで、支持規定面が前後に広くなります。
実際にやってみれば分かりますね。
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たしかにそうですね。
脚を曲げるのが大事ですね。
脚を伸ばした状態だと、姿勢を維持するだけでも結構難しいかもしれません。
体幹に力を入れる必要があります。
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そうなんですよ。
だから、リハビリの場面でも、心身をリラックスしてもらいたい時は、脚を曲げます。
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逆に、体幹のトレーニング的な事を意識して行う場合は、脚を伸ばし気味にします。
それにより、腹筋群などの体幹筋を使いやすくするのです。
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なるほど。
一口に、側臥位と言っても、いろいろな種類と使い方があるのですね。
正常な座位姿勢
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次は、座位ですね。
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普通、座位の話をすると、必ず良い姿勢、悪い姿勢という話になりますね。
ここで、質問しますが、本当に良い姿勢や悪い姿勢というものが存在するのでしょうか?
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あるような気がします。
良く言われるように、猫背は良くないのではないでしょうか?
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なるほど、そうですね。
写真の左は背中を伸ばした、所謂良い座位です。
右は、猫背気味の姿勢です。
たしかに、左の背中を伸ばした座位の方が綺麗に見えます。
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ただし、我々は、常に左の姿勢を取り続けられる訳ではありませんね。
時には、右の姿勢もとらなければなりません。
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たしかに、左の姿勢ばかりでは疲れてしまいます。
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その通りです。
実は、良い姿勢の定義などありません。
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あえて、良い姿勢を定義づけるとすると、それは多様性がある姿勢というべきかもしれません。
先ほど、我々は常に動的に姿勢を維持していることについて述べました。
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止まっているように見える姿勢でも、常に重心が移動しているお話ですね。
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そのように、一つの姿勢でも常に変化があります。
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椅子に座る姿勢をイメージしても、ソファーでくつろぐ時と勉強する時では全く姿勢が異なります。
我々は目的に応じて、常に姿勢を変化させることができます。
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正しい姿勢とは、その様に変化を常に作りだせる状態というべきかもしれませんね。
片麻痺の姿勢の問題
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ここまでで、健常な姿勢について、大分理解できたように思います。
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それでは、次に片麻痺の姿勢について考えてみましょう。
以下に、片麻痺の姿勢の特徴を挙げてみます。
- 左右非対称
- 正しいアライメントを維持できない
- 重心と床反力の関係が不安定
- 姿勢の動的要素の低下
- 正しくない姿勢と運動の非効率化
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こちらも、一つづつ解説してゆきましょう。
片麻痺の姿勢には明らかに左右非対称性があります。 ここで大事なのは、上下肢だけでなく体幹にも左右差があることです。
片麻痺は、特に麻痺側において身体各部の位置関係を正常に保つことができない場合があります。 そして、それは自分では容易に修正できません。 さらに、その状態が定型化することにより、例えば拘縮などの問題を引き起こすことにつながります。
先ほど、健常者の姿勢の安定性の背景には、重心と床反力の関係があることをご説明しました。 普段の姿勢で、なるべく余計な力を抜いて姿勢を保持できているのは、この関係性が成立しているからです。 座るためには、強い筋力は必要ではなく、むしろこの関係性を感じることができるかどうかが大事なのです。 ところが、片麻痺の場合は、それが難しい場合があります。 左右の姿勢が非対称であるため、重心に対する床反力の方向にばらつきが生じやすいのです。 例えば、片麻痺の患者さんが、座っていて不安定だと感じて身体をふんばると、主に健側に力が入ります。 そうすると、左右の力のアンバランスから支持面に対して横方向の力が加わります。 その結果、床反力の方向にも変化が見られます。 そのような状況が片麻痺の姿勢の不安定さを助長すると言えるのです。
健常者においては、一見静的に見える姿勢でも、実は細かい重心移動に伴う動的バランスが働いています。 ところが、片麻痺では、そのような細かい動的バランスが低下しています。 また、片麻痺では、一般に麻痺側に重心を移すことが困難と思われていますが、実は非麻痺側への重心移動も不十分です。 片麻痺は、左右どちらへも動き難い状況で、常にバランスへの不安があります。
健常者の姿勢には、多様性があります。 一見、猫背に見える姿勢を保持していても、活動時には脊柱が伸びたり、体重が足底に移動することができます。 ところが、片麻痺ではそのような変化が少ない状況があります。 猫背のように骨盤が後ろに倒れている姿勢だと、立ち上がり時も骨盤を上手に起こすことができずに、体重を前に移すことが困難となります。 片麻痺などの脳損傷では、多様性に欠けるステレオタイプな姿勢となりやすいと言えます。
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片麻痺は、大分健常者と異なりますね。
真逆と言っても良さそうです。
片麻痺の背臥位姿勢
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それでは、具体的に各姿勢を見てみましょう。
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一見、支持規定面が広く、安定している背臥位ですが、片麻痺では問題もあります。
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決定的なことは、重力により麻痺側半身が後方(床面)に押し付けられるような力を受けやすいことです。
それは、寝返りなどの実際的な運動にも悪影響を及ぼします。
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片麻痺が寝返る場合は、健側方向が多いものです。
しかし、健側方向に寝返るには、重力の影響を強く受ける麻痺側を上に持ち上げる必要があります。
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片麻痺では、本来上側に位置する麻痺側の肩や骨盤などを十分前に運ぶ事ができません。
そのため、側臥位に寝返る時に、身体の前面は斜め上を向いたような状況になります。
このままでは、その後の寝返りや起き上がりの運動にも支障を及ぼすのです。
片麻痺側臥位姿勢
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先ほど触れましたように、片麻痺の側臥位では、麻痺側が後方に引かれた状態で、上側の肩や骨盤などが十分前に出てきません。
そのため、身体の前面は斜め上を向いたような状況になります。
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片麻痺で半身麻痺になるということは、言わば身体が二分化されたようなものですね。
寝返りや側臥位になるだけでも、こんなに大変なんですね。
片麻痺の座位姿勢
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健常者の座位姿勢では、一見前屈みや猫背が目立つような状況であっても、その後の活動によって様々な姿勢の変化が作れます。
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しかし、片麻痺では、活動時の変化において姿勢の多様性が少ないことが特徴です。
円背の患者さんは常に円背であり、逆に、やや反り返ったように見える姿勢の患者さんはいつも同じような固定的な状態を続けざるを得ません。
片麻痺の車椅子姿勢の問題
車椅子の特性 椅子か?移動用具か?
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ここまで、片麻痺の姿勢の特徴を述べてきました。
次には、そのような傾向を踏まえて、片麻痺の車椅子姿勢について考えてみましょう。
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その前に、先ず車椅子についてです。
車椅子は、歩行が困難な状況においては、とても便利な補助具といえます。
椅子に腰掛けた状態で自ら移動をすることができます。
ただ、椅子と移動具を兼用することによる問題も理解しておく必要があります。
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その一つは、片麻痺では、健側による片手片脚での駆動が必要なことです。
これには、慣れるまではかなり苦労をするかもしれません。
健側の片手で大車輪を回すと、進む方向は麻痺側へ偏ります。
そのため、健側の足を利用して方向を修正する必要がありますが、これはそれなりに大変なことです。
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これは、一度やってみると分かります。
健常者でも、結構大変です。
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さらに、もう一つ根本的な問題として、大車輪の位置があります。
大車輪の車軸の位置の関係により、手を必ずしも使いやすい場所で操作できないということです。
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写真は、ホイールの頂上付近の左手で車椅子のハンドリムを回そうとしている場面です。
この時の肩関節の角度に注目してください。
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大分、腕を後ろに引いていますね。
大体、角度にして50度ぐらいでしょうか?
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そんなものでしょう。
実は、腕を後ろに引く肩関節の運動のことを「伸展」といいますが、この伸展の最大角度は50度が標準です。
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つまり、車椅子のホイールを効率よく回すには、肩関節の可動域を最大近くに使う必要があるということですね。
ご高齢などで、肩関節が十分動かせない場合には支障がありそうですね。
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そうです。
そこには、車椅子の構造上の問題があります。
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写真を見れば分かりますが、車軸の位置が車椅子のシートの一番後ろ端にあります。
車椅子は、乗る人の体重を大車輪で支える構造になります。
そのため、どうしても大車輪を回すには、最大限に腕を後ろに引く必要があるのです。
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健常者だと何気ないことでも、片麻痺の患者さんだと大きな問題になりますね。
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そうなんです。
片麻痺の車椅子使用の問題については、この後でお話をしますね。
健常者の車椅子駆動
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続いて、健常者の車椅子駆動についてです。
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写真は、健常者が車椅子をこいでいるところです。
大車輪を前に回す運動に伴い、上部体幹も軽く前に反応しています。
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ここで大事なのは、肩甲骨です。
肩甲骨は肩の運動をサポートしますが、その時には背骨から離れるような動きとなります。
そのためには、上部体幹は少し前に傾く程度が理想です。
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逆に、体幹がのけ反ると、肩甲骨は背骨に近づくように反応します。
この状態で、肩関節を無理に動かすことはあまり良くありません。
最悪の場合は、肩を痛めてしまうこともあります。
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続いて、片麻痺の車椅子駆動の問題についてです。
片麻痺の車椅子駆動の問題
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次の写真は、片麻痺の患者さんの車椅子駆動です。
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動画ではないので分かりにくいかもしれませんが、片麻痺患者さんでは、腕の動きに応じた体幹の反応があまりありません。
その結果、腕の可動範囲は狭くなり、小さなストロークでちょこちょことした動きになってしまいます。
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たしかに、そのようですね。
一般には、健側の腕は普通に使えると思われていますので、車椅子もなんとか駆動できると考えられています。
しかし、意外と難しい理由が分かりますね。
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そうなんです。
もっと大変な場合は、頑張って車椅子を駆動することによって、どんどん姿勢が崩れてしまう場合もあります。
そのような場合には、お尻が前に滑ってしまい、車椅子からずり落ちる危険性もあるのです。
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ちょうど、上の写真のような感じです。
腕の動きと反対に体幹が後方にのけ反ることにより、お尻が前に滑っています。
- 大車輪を前に回す時に、上部体幹が前に反応しない
- 体幹は、安定感を求めて背もたれにおしつけられる
- その結果、お尻が前に滑る
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なるほど、前に滑るには理由があるのですね。
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そうなんです。
では、次は片麻痺の姿勢を正しく保つポジショニングについてお話しましょう。
片麻痺の正しい車椅子姿勢へのポジショニング
ポジショニングの意義
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ポジショニングとは、正しい姿勢を保つことです。
片麻痺の中でも、より重症な場合は特にポジショニングの必要性が高くなります。
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寝たきりや座りきりの片麻痺患者さんでは、かなり重要ですね。
ポジショニングを軽視すると、褥瘡(床ずれ)や拘縮(こうしゅく)と言って関節が固まる危険性がありますよね。
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そんな中で、特に座位保持のポジショニングのことをシーティングと呼んでいます。
ポジショニングの治療的意義
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ポジショニングやシーティングには、他にもいろいろ意義がありそうですね。
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たしかに、そう思います。
しかし、あまり明確には言われていない面もあります。
そこで、私なりにポジショニングの治療的意義を考えてみますね。
①廃用症候群(拘縮・褥瘡)の予防 ②全身のリラクゼーションを作る ③運動を開始しやすい姿勢作り ④正常な感覚を常に学習
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「①廃用症候群の予防」は、非常に重要ですね。
特に車椅子での不良姿勢では、具体的にはどのような問題がありますか?
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車椅子では、 お尻が前に滑ることに伴う、仙骨部の褥瘡などが問題になります。
また、不良姿勢をとり続けることによる上下肢の拘縮も心配です。
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それらは、適切なポジショニングにより予防ができます。
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分かりました。
では、「②全身のリラクゼーションを作ること」についてはいかがでしょうか?
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適切なポジショニングを行うことで、身体の内部環境にも影響があります。
安定した姿勢は、快適さや安定感をもたらします。
そのような時には、自律神経の中の副交換神経が優位となります。
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副交感神経が優位な状態では、内臓の働きが良くなったり、血圧が落ち着いたりします。
また、血管も拡張して血流が良くなります。
心身ともにリラクゼーションが得られ、精神的な安定も期待できます。
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それらにより、片麻痺にありがちな麻痺側上下肢の筋肉の緊張も緩和しやすくなります。
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①の拘縮予防ともつながりますね。
「③運動を開始しやすい姿勢作り」についてはいかがでしょうか?
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リラックスした良い姿勢を保つことができれば、そこから直ぐに動くことが可能です。
例えば、立ち上がりの際には、体重を殿部から両足底に移します。
しかし、仙骨座りの状態では、それは困難となります。
本来の坐骨で座る座位を維持できれば、立ち上がりが容易となるのです。
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「④正常な感覚を常に学習」についてはいかがでしょうか?
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片麻痺のリハビリの大原則として、正しい運動や感覚の反復ということがあります。
脳は、脳卒中を発症した後には、新たな刺激に対しての学習が活発になることが知られています。
これを、脳の可塑性(かそせい)と呼ぶ場合もあります。
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発症直後に近いほど脳の可塑性は活発ですが、時間が経過してもある程度は継続します。
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この脳の学習に必要なことが、反復的な刺激と言われています。
我々でも、同じことを毎日繰り返していると次第に習慣化して無意識にできるようになる場合がありますよね。
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つまり、片麻痺でも、正しいポジショニングを継続することで、正しい感覚が身に付くということなのですね。
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その通りです。
逆に不良な姿勢を継続すると、それを当たり前の事として学習してしまいます。
脳は、良いことも悪いことも学習するのです。
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良く分かりました。
小さなことでも、日々続けることが非常に重要なのですね。
片麻痺車椅子姿勢のポジショニングの実際
背臥位のポジショニングの実際
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それでは、ポジショニングの具体例をご紹介しましょう。
先ずは、背臥位です。
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片麻痺の背臥位のポジショニングでは、麻痺側半身が重力で引かれすぎないことを重視します。
そのために、写真のようにクッションを麻痺側半身の下に入れます。
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膝の下にもクッションを入れて、膝が軽く曲がるようにしています。
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しばしば、大腿が外に開いて、膝が曲がるような場合があります。
そのような時は、太腿が外に開かないように工夫してクッションを入れます。
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膝を軽く曲げることで、下肢全体の突っ張りを軽減する効果があります。
結果的に、アキレス腱などの短縮を予防することができます。
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このような姿勢を維持できれば、寝返りや側臥位になる動作も容易となるのですね。
もし、完全な寝たきりの場合は、いかがでしょうか?
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もし、完全な寝たきりの場合は、踵などに褥瘡を作らないようにさらにクッション類を追加します。
さらには、定期的な体位交換も必要となります。
側臥位のポジショニングの実際
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次は、側臥位です。
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麻痺側半身が上にくるような側臥位姿勢です。
側臥位のポイントは、麻痺側の肩甲帯や骨盤が後ろに引かれすぎないように注意します。
肩甲帯とは、肩甲骨と肩関節などを合わせた総称です。
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両膝の間にも、クッションを入れるのですね?
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はい。
褥瘡予防という意味もありますが、麻痺側の股関節周囲を適切な位置にするという目的もあります。
股関節は、発症初期の段階で拘縮傾向になると、その後も痛みなどが継続してしまう危険性があります。
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適切な側臥位が保持できていると、左右半身が対称的という感覚を持ちやすくなります。
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通常、健常者では、背臥位も側臥位もそれほど意識せずに行っています。
しかし、片麻痺では、それらをあえて意識的に正しく実施することが大事です、
正しい姿勢の反復は、立位や歩行などの別な姿勢にも活かされると考えます。
車椅子座位のポジショニングの実際
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車椅子については、先ずは適切なサイズのものを選択することが重要です。
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重症例では、リクライニングや背張り調整などの応用的な内容も必要ですが、先ずは、一般的なケースを想定してみます。
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先ずは座面の幅です。
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車椅子のシート幅
テクノエイド協会 https://www.techno-aids.or.jp/research/vol24.pdf
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シートの幅は図のように、自走用車椅子では座位殿幅(でんぷく)より2〜3cm程度広いことが理想です。
介助用車椅子では、3〜5cm程度広いことが理想です、
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次は、シートの奥行きと高さについてです。
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シートの奥行きは、深く座った状態で、シートと膝裏に3〜5cm程度の余裕があることが大切です。
仮に、この余裕が無い状態では、仙骨座りになりやすく、不良姿勢となります。
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シートの高さについては、下腿長+5cm程度が理想です。
シートにクッションを敷く場合は、敷いた状態での高さとなります。
仮に、シート高が低い場合は、膝の高さが座面より高くなる危険性があります。
この状態も、やはり不良姿勢となります。
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車椅子については、他にもチェックポイントが多数あります。
また、より障害が重症な場合には、さらに様々な工夫が検討されます。
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今回は、最低限度必要な事のみをご説明しています。
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介護保険のレンタル品では、モジュールタイプと呼ばれる高さなどの調整が可能な物が主流となっています。
少しでも、不十分さを感じる場合は適切に調整を試みた方が良いと思います。
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福祉用具業者の方でも、納得行くまで対応させていただいています。
困った場合は、先ずは、ケアマネージャーに相談してみて下さい。
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ケアマネージャーや介護保険については、以前に書いたこちらの記事もご参考にされて下さい。
片麻痺の正しい姿勢と車椅子への応用 ポジショニングとは?のまとめ
片麻痺の姿勢と車椅子のまとめ
健常者と片麻痺の姿勢と特徴は以下の通りです。
- 健常者:基本的に左右対称 ↔︎片麻痺:左右非対称
- 健常者:正しいアライメントを保つ↔︎片麻痺:正しいアライメントを維持できない
- 健常者:重心と床反力の関係が安定 ↔︎片麻痺:重心と床反力の関係が不安定
- 健常者:静的姿勢と動的姿勢↔︎片麻痺:姿勢の動的要素の低下
- 健常者:正しい姿勢は正しい運動↔︎片麻痺:正しくない姿勢と運動の非効率化
片麻痺の車椅子姿勢の問題のまとめ
車椅子の特性の影響により、片麻痺では車椅子姿勢に問題が生じやすいと言えます。
片手片脚での駆動の難しさなどを理解しましょう。
片麻痺の正しい車椅子姿勢へのポジショニングのまとめ
片麻痺の車椅子ポジショニングには、様々な治療的意義があります。
リハビリの進行にも大きな影響があります。
片麻痺車椅子姿勢のポジショニングの実際のまとめ
片麻痺のポジショニングは、クッションなども利用して適切に行います。
車椅子のポジショニングでは、先ず、シート幅やシート高などを適切に整えることが大事です。