片麻痺リハビリの自主トレ下肢編|正しい座位と立位で歩行の準備する 

片麻痺リハビリの下肢自主トレ

片麻痺リハビリは自主トレが大事

片麻痺の下肢リハビリでは、自主トレが重要です。

脳卒中治療ガイドライン 2015

図は、日本の脳卒中治療ガイドラインにおける、「運動障害・ADLに対するリハビリテーション」についての頁です。

脳卒中治療ガイドラインとは、我が国の医療機関などにおいて、医師が治療方針を決定する際の指針とするものです。

ADLとは、日常生活活動のことで、歩行などの移動や、食事や更衣などのセルフケアの項目を含みます。

ここでは、赤線の部分に注目していただきたいと思います。

「発症後早期の患者では、より効果的な能力低下の回復を促すために、訓練量や頻度を増やすことが強く勧められる(グレードA)」とされています。

グレードAとは、最も高い推奨度です。

リハビリでは、内容も大事ですが、訓練量や頻度はさらに重要と言えます。

そのためには、積極的に自主トレを行うことが望まれます。

このような発想は、既に回復期のリハビリや老人保健施設などの介護サービスにも取り入れられています。

例えば、回復期リハビリの中心となる回復期リハビリテーション病棟を例に挙げてみます。

回復期リハビリテーション病棟では、最大で9単位のリハビリスタッフによる個別リハビリが提供されます。

1単位は20分間ですので、9単位とは3時間にも及びます。

1日の中の3時間も、専門職によるリハビリを受けるとするとかなりの運動量になります。

しかし、回復期リハビリテーション病棟では、さらなる訓練が行われます。

それは、看護師や介護士によるものです。

例えば、自主トレを看護師などがサポートする場合もあります。

また、自主トレが困難なケースにおいても、日々のADL介助の中に運動要素を盛り込みます。

簡単に言えば、できることは一人で行わせ、できないことは最小の介助量で支援するということです。

つまり、1日24時間をすべてリハビリの場にするという発想なのです。

これと同じようなことが、老人保健施設などの介護機関でも行われます。

それを、自立支援介護といいます。

内容としては、回復期リハビリテーション病棟における看護師や介護士の役割とほぼ同じです。

過剰介助にならないように、難しい動作のできない部分のみを介助するという発想です。

介護保険では、サービスを受ける前提として、必ず要介護認定を受けます。

これは、要支援1から要介護5までの7段階の判定となります。

この段階を1段階軽くするとどうなるかと言うと、それだけ自立度が向上することになります。

それと同時に、本人や国などの行政の負担する介護費用も安くなる可能性があるのです。

要介護認定については、以下の記事が参考になります。

脳梗塞片麻痺の介護度とは?|日常生活自立度を改善するリハビリ方法

どうぞ、ご参照ください。

このように、現在の医療や介護では、専門職によるリハビリや多職種による支援により運動量を少しでも多くする工夫をしています。

そして、それにより自立度向上への成果を挙げようとしているのです。

下肢自主トレは座位がとれたら開始

下肢の自主トレというと、立位や歩行などを積極的に行うというイメージがあるかもしれません。

しかし、下肢の自主トレは、もっと他の姿勢でも行うことが可能です。

例えば、臥位でも行うことはできます。

また、座位が可能となれば、より簡単に高頻度で自主トレを行うことができます。

片麻痺リハビリにおける自主トレとは、けっしてジムで行う筋トレのようなものばかりではありません。

仮に、筋トレのような高負荷の訓練でなくとも、低負荷の訓練を高頻度にて実施することも有効です。

少し想像していただきたいのですが、歩行を含めた我々の日常生活では、それほど強い筋力が必要な訳ではありません。

歩行に関して言えば、単に歩くだけならそれほどの筋力は必要ありません。

例えば、スクワットと比較すると分かりやすいでしょう。

スクワット10回程度による筋肉の疲れを、歩行で経験しようとするとかなりの距離を歩く必要があります。

日常生活に必要なのは、それほど強くない力で長時間持続的に働き続けるような筋力です。

実は、このような筋力は、座位場面だけでも自主トレすることができます。

必ずしも、立ったりしなくともよいのです。

それは、座り方を工夫するなどで可能です。

リハビリを行う上で、先ず、意識しなければならないことにリスク管理があります。

リスク管理の中でも、転倒や転落の防止は重要です。

仮に、転倒により大腿骨などを骨折すると、それだけで数週間は立つことができなくなります。

片麻痺からの回復を図っている時に、下肢骨折までも合併することは大変致命的なことです。

そのため、無理に立位で訓練することを考えるよりは、座位などの安全な姿勢で自主トレを行うことを考えるべきです。

座位での自主トレの実際については、後でご紹介したいと思います。

片麻痺リハビリの下肢自主トレの目的は歩行

片麻痺の多くで歩行は可能となる

片麻痺リハビリにおける下肢自主トレの最大の目的は、やはり歩行の獲得だと思います。

個人的には、歩行だけがリハビリの重要な目的だとは思いません。

仮に、歩行が再獲得できないケースであったとしても、下肢へのリハビリは別の意味で重要です。

ただ、多くの患者さん達にとっては、歩行獲得への希望は大変強いものだと思います。

ここで、ある論文を引用します。

1991年から9年間に発病後7日以内に入院した脳卒中140例について分析した。男性73例、女性67例。年齢は平均72.3±11.2歳で、50歳未満5%、50歳代11%、60歳代21%、70歳以上が62%だった。

リハを行なった49例の歩行の最終成績は、自立70%、監視6%、介助11%、不能13%であった。

中には、5ヶ月近くを要した例があったが、大半は1ヶ月前後で歩行可能になっていた。

三 好 正 堂「 臨 床 医 に必 要 な脳 卒 中早 期 リハ ビ リテ ー シ ョン」リハ ビ リ テ ー シ ョ ン 医 学2001; 38: 744-746

これは、日本のリハビリの大家である三好先生の論文からの引用です。

この論文のよると、歩行が自立するのは7割で、介助歩行も含めると8割以上が歩行出来るようになると言うことです。

歩行に必要なことは、麻痺した下肢の回復だけではありません。

しかし、自主トレにより下肢を訓練することは、それだけ可能性を広げることになります。

両下肢と体幹の自主トレで歩行獲得

今、歩行に必要なのは、麻痺側の下肢機能の回復だけではないと申し上げました。

歩行に必要な機能は、麻痺側を含めた両下肢と体幹の機能です。

元々、我々には生まれつきに下肢を交互に動かす神経的なメカニズムが存在しています。

このような機構のことを、Central Pattern Generator(CPG)といいます。

中枢パターン発生器について

歩行、呼吸、咀嚼などの運動リズムを作る中枢神経機構を中枢パターン発生器(Central Pattern Generator:CPG)という。歩行の中枢パターン発生器は脊髄の頚膨大部と腰膨大部の左右1対ずつ、四肢それぞれに対応して存在する。

尾崎繁ら 「運動の神経科学」NAP Limited より

これは、CPGに関する文献からの引用です。

このCPGの存在により、片麻痺により下肢の麻痺が重度であったとしても、歩行に必要な交互運動は残存している可能性があります。

ここで、少し興味深いお話をご紹介しましょう。

CPGは、生まれつきに備わっています。

つまり、それは生後間もない新生児にも存在するということです。

新生児と言えば、首も座っていませんし、お座りもできない状態です。

そんな状態でも下肢の歩行運動は認められます。

まず、新生児を抱えて立たせてみます。

その時に、新生児は反射により下肢を突っ張って体重を支えようとします。

この反射を、初期起立といいます。

さらに、そのまま新生児の身体を抱えたままゆっくりと前に動かしてみます。

そうすると、新生児はまるで歩いているように下肢を交互に動かします。

この反射のことを自律歩行といいます。

このように、新生児は、首も座っておらず、座位もとれない状態にもかかわらず、下肢は歩行のような動きを行うことが可能なのです。

これが、生まれつき備わっているCPGの一つの表れなのです。

しかし、実際に乳児が歩行できるようになるのは、およそ生後12か月以降です。

その頃には、首も座り、お座りや四つ這いが可能なくらいに体幹が安定してきます。

つまり、歩行に必要なのは、体幹の安定性やバランスなのです。

それらが、完成することで、元々存在するCPGの機能を発揮することが可能となるのです。

ここで言えることは、歩行獲得のための自主トレには、両側の下肢に加えて、体幹の安定性やバランスを考慮することが必要ということです。

CPGや下肢のリハビリプログラムについては、以下の記事も参考になります。

片麻痺リハビリの下肢プログラムの実際|回復期後も歩行自立に向けて

是非、ご参照ください。

片麻痺リハビリの下肢自主トレの実際

それでは、転倒などのリスクを軽減しつつ両下肢や体幹の能力を向上させるような下肢自主トレをご紹介したいと思います。

正しい座位姿勢は下肢自主トレの第一歩

先ずは、正しい座位保持について考えてみます。

何故、片麻痺では正しい座り方が大事なのでしょうか?

右片麻痺の女性の座位
右片麻痺:右上肢の屈曲や右足関節の尖足に加え、麻痺側の膝が外に開き下肢に体重が乗らない

図は、典型的な片麻痺の座位姿勢をイメージしています。

このケースは、右片麻痺です。

先ず、右片麻痺で目立つのは、上下肢の麻痺でしょう。

たしかに、このケースにおいても、右上肢の屈曲や右足関節の尖足が目立ちます。

尖足とは、片麻痺特有の麻痺によって足首が下向きに固定される症状です。

尖足については、是非、以下の記事をご参照下さい。

理解が深まると思います。

片麻痺の尖足の原因はなにか?|足首ストレッチではダメな理由

この右片麻痺の姿勢には、上下肢の麻痺以外にも注意すべき点があります。

それは、麻痺側の膝が外に開いてしまい、全く下肢に体重が乗っていない点です。

座っている時の膝の向きは、左下肢の状態にあることが大切です。

左の膝は前を向いています。

この場合は、足底も床に接地して、体重が下肢に乗っています。

しかし、右下肢の場合はどうでしょうか?

足底は床に接地しておらず、体重が下肢に乗っていません。

このような状態では、右下肢は全く使われていません。

つまり、いくらこの姿勢で座っていても、下肢の自主トレにはならないということです。

右片麻痺の女性の座位
右片麻痺:麻痺側の膝が内に閉じ下肢に体重が乗らない

こちらも、同じような右片麻痺のイメージです。

この場合は、前の図と異なり、右膝が内側に閉じています。

膝の向きは異なりますが、やはり右下肢に体重が乗っていない状況です。

正しい座位
正しい座位姿勢: 両方の膝が前を向いている

それらに対して、こちらは正しい座位姿勢です。

両方の膝が前を向いています。

このような姿勢であれば、麻痺側の足底も正しく接地して、下肢に体重が乗った状態となります。

つまり、座っている間も両下肢の筋肉を使い続けることができます。

そして、ここから少し前傾姿勢をとるだけでも、さらに下肢の筋肉を刺激することができるのです。

座位で下肢に体重をかける自主トレ

実際に、前傾姿勢をとってみましょう。

正しい座位と前傾姿勢
左図:正しい姿勢  右図:少し前傾姿勢を保持

図は、先ほどの正しい座位姿勢を横から見たものです。

左図は正しい姿勢で、右図は少し前傾姿勢をとったものです。

赤色で、重心線を示しています。

僅かな前傾姿勢ですが、重心線は随分と前に移動します。

右図では、重心線が足底の位置に移動していることが分かります。

この二つの姿勢を繰り返すだけでも、下肢に体重を乗せて筋肉を働かせることができます。

この二つの姿勢の違いは、一見すると些細なものに思えるかもしれません。

しかし、たとえ小さな事でも行うのと行わないのとでは、時間が経てば大きな違いになります。

リハビリでの自主訓練では、そのような小さな効果の積み重ねが大事であることを強調したいと思います。

ここで、一つ悪い例をご紹介しましょう。

車椅子の落とし穴

まだ、歩行できない片麻痺患者さんは、しばしば車椅子を使っています。もちろん、それ自体には問題はありません。車椅子には、フットレストと呼ばれる足乗せ台があります。通常、片麻痺では、麻痺側の足をフットレストに乗せた状態にて車椅子を駆動します。そして、車椅子のまま食事を摂ったり、歯を磨いたりすることもあります。しかし、この時に、麻痺側の足をフットレストに乗せたまま行うとどうなるでしょうか? 麻痺側の足を全く使わないばかりか、前傾姿勢がとれないため、非麻痺側の下肢にも十分体重が乗らないことになります。これを、常に習慣化してしまうと、麻痺側の下肢の回復が遅れるだけでなく、非麻痺側の下肢の筋力も徐々に落としてしまう危険性があります。

このような悪い例は、リハビリ病院などでも頻繁に見られます。

折角、リハビリにより機能回復を図っているのに、むしろマイナス効果のことをしてしまうのは、とても残念なことです。

車椅子での正しい姿勢については、以下の記事も参考になります。

片麻痺の正しい姿勢と車椅子への応用|ポジショニングとは?

是非、ご一読ください。

立ち上がりで下肢と体幹の活動向上

座位にて正しい前傾姿勢が可能になったら、徐々に立ち上がり動作も獲得しやすくなります。

前傾姿勢から立ち上がり
左:重心を前に移動 右:重心を上に移動

図は、前傾姿勢から立ち上がりに移行する場面です。

赤線は、重心移動の方向を描いています。

左図では、前傾姿勢をさらに強めています。

それにより、重心が前に移動します。

そして、右図では、お尻が徐々に上がって立位に近づきます。

この時は、重心は上に移動してゆきます。

この動作が、下肢の自主トレになることはご理解いただけるでしょう。

横から見ると、スクワットの場面のようでもあります。

多くの片麻痺患者では、最初はこのような綺麗な前傾姿勢からの立ち上がりは難しいものです。

よって、最初は手すりや平行棒などを非麻痺側の手で持って行うかもしれません。

しかし、徐々に図のような綺麗な姿勢に近づける可能性もあります。

もし、このような立ち上がり動作が未だ困難な場合はどうするべきでしょうか?

その時は、一つ前の段階に戻って練習していただきたいと思います。

前述の、座位で前傾姿勢をとり、下肢に体重をかける場面を行います。

このような座位での前傾姿勢や立ち上がり動作は、人によっては面倒くさかったりするかもしれません。

しかし、急がば回れという言葉があるように、実は簡単なことを地道に行うことの意義は高いものです。

是非、取り組んでいただきたいと思います。

正しい立位姿勢の下肢自主トレ

立ち上がりの延長で、実際に立位まで行います。

立ち上がりから立位の姿勢
正しい立位。重心性は足底を通る。

図のように、重心線が足底を通るようにします。

立位については、他にも複数の注意点があります。

後日、別の機会にご説明したいと思います。

片麻痺リハビリの自主トレ下肢編|正しい座位と立位で歩行の準備するのまとめ  

片麻痺リハビリの下肢自主トレのまとめ

片麻痺の下肢リハビリでは、自主トレが重要です。

リハビリでは、内容も大事ですが、訓練量や頻度はさらに重要と言えます。

そのためには、積極的に自主トレを行うことが望まれます。

片麻痺リハビリの下肢自主トレの目的は歩行のまとめ

片麻痺リハビリにおける下肢自主トレの最大の目的は、歩行の獲得です。

実際に、片麻痺の多くは歩行が可能となります。

片麻痺リハビリの下肢自主トレの実際のまとめ

正しい座位姿勢は、下肢自主トレの第一歩です。

転倒などのリスクを軽減しつつ、両下肢や体幹の能力を向上させることができます。

さらに、徐々に立ち上がりも取り入れてゆきます。

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