脳梗塞の保険外 リハビリが必要な理由とは|ベテラン作業療法士が解説します

脳梗塞の保険外リハビリとは

保険外リハビリとは

アザーシ君

最近、保険外リハビリとか自費リハビリという言葉を聞くけど、病院や介護施設のリハビリとどう違うのかな?

さくら先生

保険外リハビリとは、医療や介護などの保険制度を使わないリハビリのことだよ!

一般に、病院や介護施設などのリハビリは保険制度を利用します。

アザーシ君

保険外リハビリとは、医療や介護の保険制度を使わないリハビリのことなんだね。

でも、そもそも医療や介護のリハビリは、どのように分類されているのかな?

さくら先生

じゃあ、保険制度のリハビリと保険外リハビリを関係を説明するから下の表を見てね!

表は、一般的な医療保険や介護保険の保険内リハビリと保険外リハビリの位置付けを示したものです。

医療保険のリハビリは、5種類の疾患別リハビリテーションに分けられます。

脳梗塞などの脳卒中は、脳血管疾患リハビリに含まれます。

その他、骨折などの整形外科的疾患は運動器リハビリ、高齢による虚弱などは廃用症候群リハビリというように疾患により分類されます。

一方、介護保険リハビリは、通所リハビリと訪問リハビリに分けられます。

介護保険リハビリは、疾患別ではなく通所か訪問かというようにリハビリサービスの提供の仕方によって分けれています。

そのため、同じ通所リハビリ内に、脳梗塞の利用者もいれば整形外科疾患の利用者もいることが一般的です。

そのため、リハビリスタッフも脳梗塞片麻痺などの特定の疾患のリハビリに習熟したスタッフが担当するとは限りません。

介護リハビリは、治療よりも機能維持の場という意味合いの方が強いので、提供されるリハビリ内容も必ずしも脳梗塞片麻痺の機能回復に特化したものとは言えないことが実情かもしれません。

アザーシ君

なるほど!

医療保険のリハビリは、病気の種類などによって分類される疾患別リハビリテーションって言うんだね!

それに対して、介護保険のリハビリは通所リハビリと訪問リハビリの二つなんだね。

そう言えば、通所リハビリはデイケアとも言われるよね。

訪問リハビリは、自宅などにリハビリ担当者が来てくれるんだね。

保険外リハビリは、これらの保険内リハビリとは全く異なる面があります。

まず、法的な規定のない世界なので、リハビリに必要な費用や時間などは事業所ごとに独自に設定されます。

さくら先生

費用のことですけど、当然のことながら保険による一部負担がありません。

なので、金額だけを聞くと比較的に高額と感じられることは否めませんね。

逆に、時間については、入院中に比べてもあまり遜色なく、通所リハビリなどの介護保険リハビリよりもかなり長めに設定されている場合が大半ですよ。

内容についても様々で、特定の疾患に特化したものもあれば、様々な疾患や要介護状態を対象にしているところもあります。

前者については、「脳梗塞リハビリ○○」のように事業所名に疾患名を入れたものが目立ちます。

そのようにすることで、事業所の強みや売りを全面に出すことで利用者にも分かりやすくする狙いがあるものと思われます。

2014年にワイズが始めた脳梗塞リハビリセンター

現在の保険外リハビリに大きな影響を与えたのは、2014年に株式会社ワイズが始めた脳梗塞リハビリセンターだと思います。

名前の通り、脳梗塞などの脳卒中に特化した保険外リハビリ施設として誕生しました。

東京を中心に店舗を増やし、現在は全国に展開しています。

医療・介護に続く第3の選択肢として、保険外リハビリを発展させてきました。

ワイズや脳梗塞リハビリセンターについては、こちらをご覧ください。

保険外リハビリの現在

保険外リハビリは、自費リハビリという言葉でも知られています。

脳梗塞以外にも、保険外リハビリは拡大しつつあります。

令和2年に出された、日本医師会総合政策研究機構の報告では、保険外リハビリは、「高齢者数の増加を背景に市場ポテンシャルが高まると予想される」とされています。

今後の、さらなる充実が期待されています。

脳梗塞の保険外リハビリが生まれた背景とは

保険外リハビリのきっかけとなったリハビリ難民問題

アザーシ君

さくら先生!リハビリ難民って何ですか?

保険外リハビリが始まるきっかけとなったのは本当ですか?

さくら先生

たしかに、リハビリ難民問題は深刻です。

では、今から15年以上前から始まったリハビリ難民問題についてご説明しましょう。

現在の保険外リハビリのあり方に大きな影響を与えたのは、2006年(平成18年)年度の診療報酬改定を発端に起こった「リハビリ難民問題」です。 2005(平成17)年度までは、リハビリの診療報酬に期間的な制限はありませんでした。 しかし、この年から、リハビリには疾患ごとにリハビリ日数に制限が定められることになったのです。 これにより、回復への道が閉ざされたと感じた患者が数多く存在したのです。 このリハビリ日数制限については、多くの著名人からも厚生労働省への批判の声がありました。 闘病中の多くの患者さんたちを無視して導入されたのがリハビリ日数制限であり、それにより多くの人が声を上げたことがリハビリ難民問題です。

リハビリ難民問題については、私も過去に記事を書いています。

よろしければ、こちらもご参照ください。

2006年度開始のリハビリ日数制限とは

2006年度より開始されたリハビリ日数制限とは、疾患別リハビリテーションにおける標準算定日数のことです。

さくら先生

図のように、医療保険内の疾患別リハビリには、それぞれに標準算定日数が定められ、脳梗塞などの脳血管疾患は180日とされています。

その他は、運動器と心大疾患が150日、廃用症候群は120日、呼吸器は90日と決まっています。

さくら先生

私は、運動器や廃用症候群などについては、比較的に手厚い期間設定だと思います。

しかし、脳血管疾患については、正直なところ短いと思います。

アザーシ君

どうして?

さくら先生

脳梗塞などの脳血管疾患の病態は、脳血管の障害により神経細胞がダメージを受けることです。

その結果、運動機能を始めとして、感覚機能や高次脳機能にも障害をきたす場合が多くあります。

軽度例については、この期間で問題ありませんが、重度例や障害が多岐に及ぶ場合では、この期間は短すぎます。

さくら先生

さらに言えば、近年は医療機関は、基本的に入院日数の短縮化を目指す傾向にあります。

それにより、実際にはこの180日よりもさらにリハビリ期間が短くなることも珍しくありません。

アザーシ君

そうなんだ!

さくら先生

回復期リハビリなどの医療機関を退院すると、後は介護保険リハビリのみしか選択肢が無くなることが今日の実情です。

介護保険リハビリは、主に機能維持が目的となることからも、患者さんの願いとしては少しでも長く医療のリハビリを受けておきたいところですね。

保険外リハビリ誕生の根底には国の財政問題

2005年度までは、全く制限がなかったリハビリ期間に突然半年以内という規制がかかった理由は何でしょうか? それは、1990年代後半から始まった日本政府の緊縮財政路線の影響です。 これは、簡単に言うと日本は借金大国なので、これ以上国債発行を増やし続けると国が経済破綻を起こす。 そのため、国債発行による政府支出を抑制してゆかねばならないという方針です。 それにより、政府のあらゆる予算が削られました。 医療介護などの社会保障費は、高齢化に備えて減らされることはありませんでしたが、その伸び率は低く抑えられています。 当然、リハビリ医療もその影響を受けて削られることとなったのです。

図のように、たしかに国債残高は1990年代後半より急速に伸びています。

財務省や政府の主張では、国債残高の累積は国の借金の増加ということのようです。

しかし、一方で財務省は「日本のような経済先進国で自国建の通貨が発行できる国の経済破綻はありえない」という見解も示しています。

いずれにしても、国の経済問題がリハビリ難民問題やリハビリ日数制限の背景にあることは間違いありません。

脳梗塞の保険外リハビリが必要な理由とは

さくら先生

ここからは、脳梗塞の保険外リハビリが必要な理由について考えてゆきましょうね!

医療リハビリ後は介護保険リハビリへ

さくら先生

日本では、来たる高齢社会に備えて2000年度より介護保険制度が始まりました。

この介護保険制度は、リハビリにおいてもとても大きな関連性を持ちます。

介護保険制度が始まり20年以上経過した現在では、医療機関退院後のリハビリはほぼ強制的に介護保険リハビリを利用することが求められます。

アザーシ君

ええっ!

強制的なの?

さくら先生

強制的という言うとかなり強い表現ですが、実際にそうなっていまね。

さくら先生

上の図は、リハビリテーションにおける医療保険と介護保険の分担について示したものです。

オレンジの部分は、主に医療保険より行われるもので、グリーンの部分は主に介護保険により行われるものです。

オレンジの部分は、急性期と回復期という位置付けとなります。

さくら先生

脳卒中などを発症すると急性期で診断や治療が行われ、状態が安定すると回復期にて本格的なリハビリが始まります。

図の下半分は、その際に行われるリハビリの目標が記載されています。

医療保険下でのリハビリでは、心身機能とADL(日常生活活動)の改善や向上が目的とされています。

いわゆる、上下肢の麻痺の改善などはこの時期に行われることになります。

アザーシ君

なるほど!

麻痺した手脚の本格的なリハビリはこの時期に行われるんだね!

さくら先生

続いて、グリーンの部分の介護保険に移行します。

グリーンの部分は、維持期・生活期という位置付けとされています。

この時の主なリハビリ提供の場は、通所リハビリや訪問リハビリということになります。

さくら先生

そして、下半分にはその際に行われるリハビリの目標が記載されています。

介護保険下でのリハビリでは、活動・参加の再建・維持・向上、QOL(生活の質)の維持・向上が目的とされます。

活動・参加とは、少しわかり難いですが、つまりは自宅で家事や軽作業を行うなどの生活機能や社会活動への参加などのことです。

また、QOLについては、障害が残っていてもその人らしい生活を取り戻すという意味です。

さくら先生

ここから理解できることは、介護保険のリハビリでは、必ずしも運動麻痺などの心身機能の回復は目的とされていないということです。

それらについては、疾患別リハビリでの180日間で終了しているという認識なのです。

よって、介護保険のリハビリは運動機能の回復を一次的な目標にはしていないということになるのです。

そのため、介護保険リハビリでは、脳卒中後遺症などに特化したリハビリを行うというよりも、機能の維持や廃用症候群などの二次的障害を予防するような内容が中心になるのです。

介護保険リハビリの目的は運動機能回復とは限らない

介護保険リハビリとは、必ずしも運動機能回復を目指すものではないと聞くと驚かれる方は多いと思います。 私も、利用者さんに上記のような説明をする機会はありますが、多くの場合は意外という反応をいただきます。 しかし、これが現状と言えます。 しばしば、介護保険のリハビリは時間が短くて物足りないというご意見を頂戴します。 しかし、介護保険リハビリの物足りなさは、時間だけでなく内容や目的によるものも大きいのです。 何故、このような制度設計となったのでしょうか? それは、いわゆるエビデンスというものの存在です。 近年は、コロナ禍の影響もありエビデンスという言葉がよく聞かれます。 エビデンスの基は、医学会が出しているガイドラインや最新の論文であることが多いでしょう。 我が国の脳卒中リハビリのエビデンスにはとても有名なものがあります。 それは、上下肢の麻痺などの運動機能の回復は、概ね発症から半年程度で終了するというものです。 ただ、現状では半年以降の慢性期に入ってから機能回復があったという海外論文は多く存在します。

事実、我が国においても、リハビリ日数制限が導入される前には、そのような話は珍しくありませんでした

私も、そのような事例を報告していますので、よろしければこちらこちらをご覧ください。

介護保険リハビリの時間は脳梗塞には短すぎる

さくら先生

介護保険のリハビリは期間のみでなく、リハビリ時間も短いということが実情です。

実際には、どの程度なのかを見てみましょう!

さくら先生

図は、介護保険リハビリの種類と時間を示したものです。

通所リハビリと訪問リハビリで多少ルールは異なるものの、時間として規定されているものは、20分間や40分間程度といったものです。

さくら先生

通所リハビリでは、いくつかの加算が存在します。

それらの加算の期間は、3ヶ月か6ヶ月です。

加算によっては、時間規定があるものもあれば無いものもあります。

期間が切れて加算なしになると、時間規定はなくなります。

通所リハビリにおいては、全体で20分間が平均というデータもあります。

さくら先生

一方、訪問リハも1回20分間が一つの基準となります。

しかし、必ずしも1日1回という意味ではなく、週6回以内であれば柔軟な対応が可能です。

一般的には、2回40分間を週2~3回という程度が多いかもしれません。

さくら先生

いずれにしても、介護保険リハビリでは、1日あたりのリハビリ時間は20分〜40間分程度が主です。

例えば、通所リハビリでは、最も長い利用時間の7時間以上であっても、リハビリ時間は20分間が平均です。

勿論、通所リハビリは1〜2時間などの短い利用時間もありますし、そもそもリハビリのみが利用目的ではない方も多くおられます。

しかし、それにしてもけっして長いとは思えない時間設定ではないでしょうか?

因みに、回復期リハビリテーション病棟では、個別リハビリ時間は最大9単位の3時間と言われています。 退院直後の利用者さんが、最初に介護保険を利用する際には、その大きな差に驚かれる場合が多いようです。 私は、全ての介護保険利用者において、リハビリ時間が短いとは思いません。 しかし、脳梗塞などの脳卒中後遺症を抱えて、比較的若く意欲が高い方にとっては圧倒的に短いと思います。 何故なら、そのような方々には改善の可能性が残されているからです。 先ほど、そのような慢性期の改善報告にも触れました。 では、意欲が高く介護保険リハビリに満足してない方にはどのような道が残されているのでしょうか? いくら慢性期でも可能性があると言っても、時間経過とともにその可能性は小さくなります。 発症1〜2年と10年以上では、神経の再生は同じようには行かないでしょう。 加齢とともに可能性が縮小することも否めません。 ここで、提案したいことは、介護保険リハビリに併せて保険外の自費のリハビリなどを併用されてみてはどうか?ということです。 冒頭で述べたように、保険外リハビリには一定の法的な基準がありませんので、費用も内容もそれぞれです。 利用前に、よく調べて検討する必要はあります。 しかし、上手く良い保険外リハビリサービスと巡り会えれば、回復の可能性は広がるものと思われます。

保険外リハビリが介護保険の課題を補う

さくら先生

私たちの経験上も、保険外リハビリと介護保険リハビリを併用すると効果的な場合があります。

次は、そのような改善例についてご紹介をします。

アザーシ君

そうなんだ!

是非、知りたいですね!

さくら先生

図は、4ヶ月間、保険外リハビリを実施して、現在もなお通所リハビリを継続されている利用者様についてです。

70代前半の男性で、要介護度は3です。

さくら先生

脳梗塞による左片麻痺で、保険外リハビリ開始時点では、すでに発症から2年以上を経過していました。

通所リハビリには、コンスタントに週3~4回通い、毎回20分間の個別リハビリを受けておられました。

さくら先生

保険外リハビリを開始したきっかけは、やはりリハビリ時間が短く回復が感じられないといった理由からでした。

一度、体験利用を試された後、週1回の頻度で4ヶ月間16回の保険外リハビリ施術をおこないました。

開始時点の状態は、上肢にはすでに拘縮もあり、平行棒内での歩行訓練も健側主体での実施でした。 姿勢の安定を司る体幹の筋緊張が低い状態にあり、立位・歩行訓練では不安定感が強いと訴えられました。 保険外リハビリの施術内容は、主に麻痺側半身と体幹の筋活動向上を促す内容でした。 結果、図の左のグラフの通り、上下肢とも客観的な機能向上が認められました。 杖歩行も可能となり、上肢の拘縮や緊張も改善しています。 現在も通所リハビリを継続されており、機能回復が継続中です。 上記の利用者様は、発症から2年以上経過している上に、要介護3という決して軽くはない身体障害の状態でした。 しかし、保険外リハビリの導入をきっかけにして、現在も回復が進行中です。 リハビリの時間を大幅に増やし、内容も上下肢などの運動機能回復を主体にした成果ではないかと考えています。

他の改善例についても、こちらをご覧ください。

以上のように、保険外リハビリで介護保険の課題を補うことで大きな成果を生むケースは非常に多いと考えています。

脳梗塞の保険外リハビリの今後

脳梗塞など脳卒中後遺症への保険外リハビリには、大きな可能性があります。

しかし、現時点では、まだ事業所も少なく、内容も質も不透明な面があります。

私が、様々な疾患の中でも、脳卒中には保険外リハビリが必要だと考えるには理由があります。

それは、脳卒中発症後の脳には大きな可塑性が残されているからです。

可塑性とは、脳などの神経系の再生能力のような意味です。

神経系の可塑性は、発症から早ければ早いほど、年齢が若ければ若いほど豊富だと言われています。

また、リハビリで運動を再獲得するには努力や集中力も必要ですから、意欲がなければ難しい面があります。

比較的年齢が若かったり、意欲が高いケースであれば、保険外の自費のリハビリを行うことも決して無駄では無いと考えています。

また、施術を行う側の力量も必要です。

保険外で自費料金をいただきながら、病院や介護保険と同じ内容のリハビリでは意味がありません。

特に、麻痺した上肢回復への施術などにはそれなりの特殊性があります。

上手く良い保険外リハビリサービスと巡り会えれば、回復の可能性は広がるものと思われます。

今後は、そのような、力量があり実績が示せるスタッフが在籍する保険外リハビリ事業所がより増えるべきだと考えます。

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