片麻痺はなぜ麻痺側や非麻痺側に傾くのか?|リハビリ専門家が解説

なぜ片麻痺麻痺側に傾くのか?

片麻痺は体幹機能も低下

新人PTペン

モクモク博士、お疲れ様です!

最近、少し疑問になっていることがあります。

質問してもよろしいでしょうか???

モクモク博士

いいですよ!

何でしょうか?

新人PTペン

現在、片麻痺の患者さんを担当しています。

先日、ご家族から身体が麻痺側に傾くことの理由を聞かれましたが、上手く答えられなかったのです。

どのようにお答えすべきでしょうか?

モクモク博士

なるほど!

良くある話ですね。

新人の頃は、答えに困るかもしれませんね。

新人PTペン

これまで、片麻痺だから姿勢が傾くのは当然だと思っていました。

しかし、良く考えると答えるのが難しいですね。

新人PTペン

片麻痺では、麻痺側に傾く患者さんもいれば、反対に非麻痺側に傾く患者さんもいますよね。

何が違うんでしょうか?

モクモク博士

片麻痺の身体が傾くことは、非常に良くある現象です。

たしかに、多くは麻痺側に傾きます。

しかし、中には非麻痺側に傾く患者さんも珍しくないです。

モクモク博士

麻痺側に傾く場合も、非麻痺側に傾く場合も、一番の問題は体幹の機能が低下することです。

先ずは、脳卒中後の片麻痺と体幹機能の低下について考えてみましょう。

下の図を見てください。

皮質脊髄路

Robert Schmidt 「神経生理学」
モクモク博士

上の図は、教科書で良く紹介されるものです。

脳から下降する運動に関する神経系が、左右の身体にどのように伝達されるのかを示しています。

新人PTペン

はい!

何度か見ています。

国家試験前には、必須の勉強内容ですね。

モクモク博士

右の脳の運動野から出発した神経が、脳幹で交叉して左の身体に下降してゆくことが分かる図です。

モクモク博士

文献にもよりますが、大体75〜90%の伝達情報が交叉して反対側の身体とつながるのです。

さらに、図では、主に四肢へと注釈が書かれています。

モクモク博士

つまり、右脳の運動野からの情報は、左半身の中でも上下肢に強く影響することを示唆しています。

モクモク博士

経験的にもお分かりだと思いますが、脳卒中で左片麻痺になった場合では、特に左上下肢の麻痺が強くなります。

ただ、病巣によっては違う傾向の場合もあります。

ここでは、多くの片麻痺における一般的な傾向を述べています。

新人PTペン

はい、分かります。

これまでの常識として、右の病巣で左片麻痺になるというものですね。

たしかに、麻痺が目立つのは、手指や足関節などですね。

モクモク博士

では、次の図を見てください。

同側性運動路について

山田深 「片麻痺の回復パターンと同側性運動路の関与」クリニカルリハVol16 No10
モクモク博士

今度の図は、先程のものと少し異なります。

A~Cの3つが示されていますが、いずれも交叉せずに同側性に下降する神経系が描かれています。

一部は、交叉していますが、大半は同側性です。

新人PTペン

たしかに、あまり交叉していませんね。

学生時代は、あまり見なかった図です。

モクモク博士

これらの神経下降路は、主に、身体の中枢部とつながっています。

体幹や四肢の中でも肩や股関節などの身体の近位部です。

モクモク博士

脳卒中になると、このようなあまり反対側に交叉しない神経系の伝達も結果的にダメージを受けます。

交叉しないということは、病巣と同側の身体へ影響するのです。

つまりは、健側ということです。

新人PTペン

専門家の間では、健側と呼ばずに非麻痺側といいます。

それは、上の図のような状況から、完全な健常とは言えないからなのですね。

モクモク博士

そうです。

健側ではなく、非麻痺側と呼ぶべきです。

モクモク博士

さらに言えば、左右の体幹の機能も低下することを忘れてはいけません。

片麻痺だから、麻痺側の体幹が弱いということだけでなく、非麻痺側も含めて体幹機能全般が低下するのです。

新人PTペン

なるほど!

全般的に左右の体幹機能が低下するのですね。

それなら、麻痺側に傾くだけでなく、非麻痺側に傾くことも十分あり得るのですね。

モクモク博士

このへんのお話は、脳卒中片麻痺に多い痙性麻痺とは|症状と治療やリハビリ方法についてという記事にも詳しく書いていますので、参考にしていただければと思います。

また、こちらのサイトもとても勉強になりますよ!

高草木薫 脊髄外科(2013.12)27号3巻208-215

モクモク博士

それに加えて・・・・・、

片麻痺の体幹の問題は、神経伝達によるものだけではありません。

モクモク博士

体幹の構造そのものからくる機能低下や、それによる身体の傾きもあり得るのです。

モクモク博士

図は、人の体幹を示したものです。

右側は、それをさらにクローズアップしています。

新人PTペン

腹筋を拡大しています。

腹直筋ですね。

けっこう、割れていますね!

モクモク博士

実は、腹直筋を含む腹筋群は、丸で囲んだ付近では、どこにも骨と接していません

腹筋群以外の大体の筋肉は、大半が骨と接していたり骨の上を走行しています。

しかし、腹筋群に関しては骨の上を走行していません。

モクモク博士

丁度、左右の腹筋が引っ張り合うような構造になっているのです。

つまり、左右どちらかの機能が低下すると腹筋全体が弱くなるような構造なのです。

新人PTペン

たしかに、言われてみればそうですね。

新人PTペン

片麻痺では、神経伝達においても左右の体幹機能が低下するのに、腹筋群の構造としても働きが弱くなるのですね。

片麻痺なぜ麻痺側だけでなく非麻痺側に傾くのか?

脳卒中発症後では健側脳半球の活動が活発になる

モクモク博士

では、次には、特に非麻痺側に傾くことについて、解説してみます。

新人PTペン

片麻痺では、左右の体幹機能が低下するので、麻痺側だけでなく非麻痺側にも身体が傾くことは分かりました。

モクモク博士

それに加えて、もう一つ知って欲しいことがあります。

それは、脳卒中発症後の脳の働き方の変化に理由があります。

脳卒中後は、脳の働き方が変化するのですか?

それは、とても興味があります。

モクモク博士

では、下の図を見てください。

モクモク博士

図は、健常者が右上肢を使っている時のイメージです。

両方の脳が活動しますが、主には左脳半球が優位に働きます

モクモク博士

次は、脳卒中発症後の脳の働き方の変化です。

こちらも両方の脳半球が活動します。

先ほどと異なるのは、病巣が無い右半球の活動が増えることです。

これは、さまざまな文献にも書かれていることです。

新人PTペン

病巣の無い、健側半球の活動が増えるのはどうしてなのでしょうか?

モクモク博士

それは、脳の代償機能が高まるからだと思います。

脳は、損傷を受けた部分の機能を代償しようとして、残された神経細胞が機能の再編を行うのです。

モクモク博士

ただ、ここには問題もあります。

次の図を見てください。

モクモク博士

病巣の無い右脳半球の働きは、当然のこととして、左半身にも強く作用することになります。

これにより、非麻痺側である左半身に強く情報が送られます。

この結果、左半身にも余計な力が入ってしまいます。

新人PTペン

しばしば、片麻痺の患者さんが、非麻痺側の力が抜けないなどと言われます。

この事と関係がありそうですね。

モクモク博士

そうだと思います。

一般には非麻痺側の問題は、

  • 筋力の低下
  • 器用さの低下

などと言われます。

しかし、同時に力が抜けないと言った訴えもかなりの頻度で聞きます。

新人PTペン

元々、さまざまな理由で体幹の機能が低下しているところに、病巣が無い健側脳半球からの指令が強くなりすぎると、非麻痺側の身体にも力が入りやすくなるのですね。

それが極端になれば、体幹が非麻痺側に傾くことになるのですね。

モクモク博士

そのような仮説が成り立つでしょう。

ただ、この事は十分研究されているとは言えません。

今の段階では、あくまで仮説ということにしておきます。

新人PTペン

わかりました。

ただ、とても興味深い仮説です。

片麻痺麻痺側に傾くことを防ぐリハビリ

体幹のリハビリがポイント

モクモク博士

片麻痺の身体が麻痺側に傾くことや、非麻痺側に傾くことを防ぐにはポイントがあります。

それは、体幹のリハビリを意識することです。

新人PTペン

そうですね。

僕も、上司や先輩から片麻痺には体幹のアプローチが必要だとよく言われます。

モクモク博士

下に、体幹のリハビリとしてよく行われる場面を記載してみます。

体幹トレーニングの場面
新人PTペン

よく見かける場面です。

モクモク博士

ただ、実際に患者さんが一人でできるかどうかは、回復の状態にもよります。

実際には、リハビリスタッフが援助をしながら行う事が多いでしょう。

上図は、あくまで場面の紹介ということでご理解ください。

新人PTペン

いずれにしても、体幹へのアプローチが重要ですね。

片麻痺が非麻痺側に傾くことを防ぐリハビリ

非麻痺側半身も柔軟性を保つ

モクモク博士

片麻痺の非麻痺側に傾くことを防ぐには、さらにポイントがあります。

それは、非麻痺側半身にも柔軟性を保つことです。

新人PTペン

それは、関節可動域訓練やストレッチを非麻痺側にも行うということでしょうか?

モクモク博士

そうです。

もちろん、必要に応じてで良いのです。

モクモク博士

一般的には、麻痺側を中心に行いますが、意外と非麻痺側にも必要な場合もあるのです。

ここには、注意が必要です。

可能は範囲でバランス訓練を行う

モクモク博士

可能な範囲で、バランス訓練を行うことも大事です。

これも、回復の状況に応じて様々な姿勢で行うことができます。

一例として、座位で行うことをご紹介しましょう。

モクモク博士

座位で左右に体重を移動している場面です。

一見、簡単そうに見えますが、片麻痺の患者さんの場合はそうも言えません。

大事なことは、体重移動時に身体が傾かないように意識することです。

赤線で示しているように、左右の肩を結ぶ線が水平を維持できることが目安です。

新人PTペン

体重移動に応じて、身体が立ち直った状態ですね。

モクモク博士

次は、良くない例です。

モクモク博士

体重移動に伴い、肩が下がってしまっています。

こうならないように注意が必要です。

新人PTペン

体重移動に応じて、身体が立ち直っていないですね。

新人PTペン

なるほど、良くわかりました。

なぜ、片麻痺が麻痺側や非麻痺側に傾くのかについて、しっかりと復習します。

片麻痺はなぜ麻痺側や非麻痺側に傾くのか? リハビリ専門家が解説のまとめ

なぜ片麻痺麻痺側に傾くのか?のまとめ

片麻痺では、麻痺側だけでなく、非麻痺側の体幹機能が低下します。

脳からの運動に関する神経下降路には、脳幹で交叉して反対側の身体を司る経路だけでなく、交叉せずに同側性に下降する経路もあります。

同側性の下降路は、主に体幹などの身体の中枢部の筋活動と関連します。

そのため、片麻痺では、麻痺側の上下肢の麻痺に加えて、左右体幹の機能低下をおこしやすいのです。

これに加えて、腹筋群などの体幹の筋肉の構造の影響もあり、片麻痺では体幹全体の機能が低下します。

これらが、姿勢が麻痺側に傾く要因なのです。

片麻痺なぜ麻痺側だけでなく非麻痺側に傾くのか?のまとめ

片麻痺は、麻痺側だけでなく非麻痺側にも姿勢が傾くことがあります。

その背景には、脳卒中発症後の脳の働き方の変化があります。

脳卒中後の脳は、病巣の無い健側脳半球の活動が高まります。

これは、脳が損傷された部分の機能を代償しようとして、機能の再編を行うからです。

しかし、結果的には、健側脳半球の活動亢進は、非麻痺側身体への過剰筋出力の原因となります。

つまり、体幹を含む非麻痺側半身に常に力が入った状態になりやすいのです。

片麻痺の身体が非麻痺側に傾くことの背景には、このような事実があるのです。

片麻痺麻痺側に傾くことを防ぐリハビリのまとめ

片麻痺が麻痺側に傾くことを防ぐためには、体幹へのリハビリアプローチが重要です。

体幹のトレーニング方法には、様々な方法があります。

患者さん個々の回復状況に応じて、先ずはリハビリスタッフなどと一緒に行うことが重要です。

片麻痺が非麻痺側に傾くことを防ぐリハビリのまとめ

片麻痺が非麻痺側に傾くことを防ぐには、非麻痺側半身の柔軟性を保つことが大事です。

関節可動域訓練やストレッチなどは、必要に応じて麻痺側のみでなく非麻痺側にも実施することが大事です。

また、可能は範囲でのバランス訓練も重要となります。

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