専門職によるリハビリと他職種によるリハビリ|違いと共通点とは何か

リハビリの専門職と医療介護チーム

リハビリは、主に専門職である、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)により行われると考えられています。
たしかに、PT OT STがリハビリの中心となる職種であることは間違いありません。
しかし、広い意味でのリハビリとは、多職種によるチームアプローチでもあると言われます。

9職種による質の高いチーム医療

回復期リハビリテーション.net より一部改変  

図は、リハビリチームとしての主な職種を示しています。
基本的には、全ての職種にリハビリ的な役割があります。
全ての職種についてご説明することは難しいので、今回は特に重要な職種について触れたいと思います。
赤丸で囲んでいる、PT OT ST、看護師、介護士について、それぞれの立場でのリハビリ内容を考えてみましょう。

リハビリの専門職PT OT ST

PTによるリハビリ

理学療法とは病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法です。 「理学療法士及び作業療法士法」には「身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう」と定義されています。

理学療法の定義

日本理学療法士協会HP

また、分かりやすい動画がありますので、是非ご覧になってください。

このように、PTは基本的な運動機能へ直接的な治療訓練を行うことが特徴です。
一般的に考えられているリハビリのイメージに近いと思われます。

OTによるリハビリ

次はOTです。

「作業療法」とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。

作業療法の定義

理学療法士及び作業療法士法

また、日本作業療法士協会のHPにも詳しい説明があります。

日本作業療法士協会

OTは、PTに比べると概念的に分かりにくい面があります。
身体障害のみならず、精神障害も対象にしていることも特徴です。
ここでは、人の様々な活動を作業と考えています。
実は、OTの働き方は、国や時代によっても多様性があります。
日本においても、一時期は手工芸的な活動を主な作業と考えていた時期もあります。
現在では、特に脳梗塞などへのリハビリに関しては、応用的動作能力である日常生活活動(ADL)が主な対象と言って良いでしょう。
食事・排泄・更衣・入浴・整容などのセルフケアや歩行などの移動が含まれます。
OTは、PTと同じように運動機能そのものにもアプローチしますが、ADL全般を目標にする点が特色です。

STによるリハビリ

次は、STです。

言語聴覚士は、『音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者についてその機能の維持向上を図るため、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導その他の援助を行うことを業とする者』とされています。

言語聴覚士の定義

言語聴覚士法

また、日本言語聴覚士協会のHPでは、「話す・聞く・食べるのスペシャリスト」と位置付けています。
言語障害や聴覚障害に加えて、脳梗塞などで伴いやすい高次脳機能障害もアプローチの対象としています。

言語聴覚士のアプローチの分野

言語聴覚士協会HPより

以上のようにPT OT STには、それぞれ独自の専門性があります。
しかし、この3職種は総合的なリハビリ実施のために、他の職種以上に連携が求められます。
特に、PTとOTは専門性と同時に共通性も多く有しています。
各自が専門性にばかり拘るのでなく、お互いの領域を超えて一歩踏み込むことで、患者さんや利用者の問題を取りこぼさずにアプローチしようとすることが重要です。

介護サービスではPTとOTの違いはあまりない

実際に、介護保険のリハビリサービスにおいては、PTとOTは医療でのリハビリのように業務を分担することはあまりありません。
リハビリ担当者が、PTかOTのどちらかのみということも多い状況です。
そのため、PTでもOTでも、リハビリ担当者として、利用者の全体的な課題に取り組むことになります。
医療機関から介護保険サービスに移行した利用者にとってしばしばある戸惑いは、リハビリがPTかOTのどちらかしかないということかもしれません。
介護保険サービスに従事するPT OTには、より幅広い知識と技術が必要と言って良いでしょう。

専門職以外によるリハビリ

リハビリは全専門職が関与すること

ここまで、PT OT STのリハビリ専門職の説明をいたしました。
この3職種が、リハビリの中核的立場を担うことは間違いありません。
しかし、同時に覚えておかなければいけないことがあります。
それは、リハビリとは患者や利用者に関わる全ての職種において必要な内容であるということです。
前述のチームアプローチの図にも多くの職種が記載されています。
その中で、特に重要なのが看護師と介護士です。

看護師によるリハビリ

看護には、元々リハビリテーション看護という分野があります。

「リハビリテーション看護とは、疾病・障害・加齢等による生活上の問題を有する個人や家族に対し、障害の経過や生活の場にかかわらず、可能な限り日常生活活動(ADL)の自立とQOL(生命・生活・人生の質)の向上を図る専門性の高い看護である。」 NPO法人日本リハビリテーション看護学会

リハビリテーション看護の定義

NPO法人 日本リハビリテーション看護学会

また、脳卒中リハビリテーション認定看護師や回復期リハビリテーション病棟認定看護師などの認定制度もあり、PT OT STと共通知識を持ちながらも、看護師の独自性を展開する分野が存在します。

急性期では、バイタルサインなどの全身管理を行いつつ、褥瘡などの廃用症候群を防ぐため適切な体位交換やポジショニングを実施します。
点滴や医療機器につながれた状態の患者さんに対しても、リハビリ的な視点での看護を実施します。

回復期では、日常生活における療養上のケアを行います。
日常生活におけるポイントは、現在の能力を最大限に活用しつつ、さらなる動作向上へと導くことです。

これは、回復期のリハビリ看護の最も重要なポイントと言えます。

PT OT STは、日中等の限られた時間帯での支援が主となります。
それに対して看護では、24時間のあらゆる生活場面に関わることが多く、それだけリアルタイムでの生活動作への支援を実施することが可能になるのです。
勿論、それに加えて、心理的にも個人に寄り添ったケアを行うことが特徴と言えます。

介護士によるリハビリ

介護現場では、看護師以上に介護士の存在が重要となります。
介護施設では、看護師は数は少ないため、どうしても医療系の業務に集中します。
それに対して介護士は、利用者の大半の生活上の支援を実施することになります。
旧来は、介護士の仕事は文字通り介護でした。
つまり、利用者ができない動作などを介助することだけを考えれば良かったのです。
しかし、近年は徐々にその考え方が進化しつつあります。
単なる介護ではなく、自立を支援する介護という考え方に変わりつつあるのです。

自立を支援する介護のことを自立支援介護といいます。
自立支援介護とは、簡単に説明すると、自立を促す介護と言えます。
旧来のできないことを手伝う介護であれば、利用者は徐々に機能が低下する可能性があります。
それは、必ずそこに過剰介護の要素が入ってしまうからです。
一方で、自立支援介護は、出来ないことを手伝いながら一緒に実施します。
ここで、重要なのは適切な介助量を調節することです。
過剰介助や過少介助にならない、丁度良い介助量にて一緒に動作を実施することが大切です。
これは、PT OT STの考え方にも似ています。
つまり、日々の生活場面が全てリハビリになるように工夫することが自立支援介護なのです。
このような高い技術力にて介護を実施することで、利用者の機能は徐々に向上することになります。

自立支援介護について

首相官邸HP 

自立支援介護には、理論的で科学的な側面もあります。
図のように、自立度が低下する要因には、運動面以外の要素もあります。
高齢になると、水分摂取量が低下したり、低栄養に至る傾向が高くなります。
また、しばしば便秘も併発することが知られています。
そのため、水分・食事・運動・排便をセットで考える必要があります。
冒頭の図で説明したチームワークがより一層重要となるのです。
水分摂取や食事は、STや管理栄養士との連携が必要となります。
また、しっかり食べるためには口腔機能が重要となりますので、歯科衛生士の存在も重要です。
このように、食べること、飲むことをSTや栄養士・歯科衛生士がサポートしつつ、さらにPT・OTが運動面を支援します。
その結果、自然に排便が促されるという好循環となります。
介護士は、日々のケアの中で、上記を踏まえた上で全般的に利用者を支援することとなります。
このような意味において、自立支援介護における介護士の役割は、非常に高度で重要なものと言えるでしょう。

介護士の業務の根幹となる、介護保険制度や介護度については、以下の記事も参考になります。

脳梗塞片麻痺の介護度とは?|日常生活自立度を改善するリハビリ方法

どうぞ、ご参照ください。

専門職と他職種によるリハビリの違いと共通性

最後に、PT OT STなどの専門職によるリハビリと他職種によるリハビリの違いと共通点についてまとめてみましょう。

図のように、PT OT STには、独自の専門性があります。
その専門性において、患者・利用者の能力を伸ばすことが望まれます。
ここでは、この能力のことを「できるADL」、「しているADL」などと表現しています。
ADLとは、Activities of Daily Livingの略で、日本語では日常生活活動と呼ばれます。
これは、食事や排泄などのセルフケアの動作の他、歩行などの移動も含まれます。
PT OT STはそれぞれの専門性において、先ず「できるADL」を向上させる必要があります。
そして、次に「できるADL」を「しているADL」へ結びつけることが必要なのです。 
「できるADL」を伸ばすことは、リハビリ専門職独自のテーマです。
例えば、歩けない患者さんを何とか歩けるようにするのは、主にPTの役割です。
しかし、何とか歩けても日常生活で出来なければ、あまり意味がありません。
生活の中における具体的な動作に結びつけることが大事です。
そこでは、OTが重要となります。
例えば、OTが応用的動作能力である、トイレ動作の自立を目指すとします。
そうすると、トイレまでの歩行練習はOTも取り組むことになります。

そのようにして、歩行もトイレ動作もリハビリ訓練中での「できるADL」として向上した後は、今度は、看護師や介護士と連携して、日常生活での「しているADL」として自立するように働きかけるのです。
実際問題として、リハビリの専門職が関与するのは、一日24時間の中では限られた時間帯のみです。
それ以外の時間帯では、看護師や介護士が昼夜問わず関わるのです。
その際に、適切な方法で反復訓練できることが、実際の「しているADL」の習得には欠かせない過程なのです。

以上のように、他職種のリハビリの中でも、看護師や介護士は非常に重要なキーパーソンになるのです。
それ以外の職種においても、管理栄養士はSTと連携して、食事自立のために食物の形状を工夫したりします。
薬剤師は、服薬の自立のため、様々な工夫を凝らします。
全ては、患者・利用者の自立支援のためです。

専門職によるリハビリと他職種によるリハビリ|違いと共通点とはのまとめ

リハビリの専門職と医療介護チームのまとめ

リハビリは、PT OT STなどの専門職が中心となり実施しますが、同時に他職種によるチームアプローチが重要です。

リハビリの専門職PT OT STのまとめ

リハビリ専門職のPT OT STには独自の専門性がありますが、総合的なリハビリの実施のためには他職種間以上に連携が必要です。

専門職以外によるリハビリのまとめ

他職種によるリハビリの中でも、看護師と介護士によるものは重要です。
看護にはリハビリテーション看護という領域があり、介護にも自立支援介護という考え方があります。

専門職と他職種によるリハビリの違いと共通点のまとめ

リハビリ専門職の重要な役割の中に、「できるADL」を向上させることがあります。
また、リハビリ専門職と他職種が協業することで、「できるADL]を「しているADL」へ結びつけることが可能となります。

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