目次
脳卒中片麻痺上肢のリハビリの現状
さくら先生!
こんちにわ!
あら!
ハニーワちゃん!
おじいちゃんの具合はどう?
おかげさまで、リハビリ頑張っています!
最近、上肢や手指も動きが出てきました!
それは、よかったわね!
それでは、今日も脳卒中片麻痺の上肢リハビリの重要性について勉強しましょうね!
はい!
よろしくお願いします!
今回の内容は、以前の書いた記事とも関連します。
よろしければ、こちらも参考にしてくださいね!
脳卒中片麻痺の上肢リハビリは軽視されやすい?
さくら先生!
以前の記事にもありましたけど、脳卒中片麻痺の上肢や手指へのリハビリは、少し軽視されているのではないでしょうか?
私のおじいちゃんも手が動かないことをとても嘆いていますが、歩行訓練や日常生活訓練に比べると上肢のリハビリは少ないようです。
そうですね・・・・
たしかに、その傾向はあります。
それには、リハビリを提供する医療や介護の保険制度の目的の影響などもあります。
医療のリハビリの大目的は、麻痺した手脚の回復そのものよりも、早期の社会復帰が優先されるのです。
医療保険リハビリの目的は早期社会復帰
A病院の急性期病棟からの転出先
上月正博「すぐに使える!実践リハビリ技術マスターガイド 第2版」より
上の図は、ある有名な病院の急性期病棟からの退院先を示したものです。
見て分かるように、急性期病棟からの退院先の半分近くは自宅です。
もちろん、最近は脳梗塞への早期治療も進み、全く後遺症が残らない患者さんも多くいます。
しかし、片麻痺などの後遺症が多少あっても、自宅生活が可能な場合には、積極的に自宅退院を勧められます。
イメージ的には、リハビリの本番は回復期と思われがちですが、実際には急性期病棟から回復期リハビリテーション病棟へ移る患者さんは2割程度に過ぎません。
そうなんですね。
私のおじいちゃんは、手脚の麻痺が明らかなので、今は回復期で頑張っています。
でも、一般的には急性期病棟からでも可能な限り自宅退院が勧められるのですね!
そうなんです。
回復期に来る患者さんは、それなりに大変な状況の方が多いとも言えますね。
回復期リハビリテーション病棟の在宅復帰率
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000198532.pdf
次は、その回復期リハビリテーション病棟についてです。
上の図を見てください。
これは、回復期リハビリテーション病棟の在宅復帰率です。
回復期リハビリテーション病棟では、在宅復帰率が最低でも7割が求められます。
それを下回ると、病棟自体の運営難しくなるのです。
そのため、入院時には、自宅などへの退院は必須条件として説明されることが多いでしょう。
たしか、おじいちゃんの入院時もそんな話があったみたいです。
さらに言えば、回復期リハビリテーション病棟では、入院期間も厳密に管理されています。
脳卒中の場合の入院期間は、最長で180日までと言われています。
しかし、現実的には、ある程度有名な回復期リハビリテーション病棟は、それよりも短い入院期間となる場合が多いでしょう。
何故なら、治療成績が良いとされる回復期リハビリテーション病棟は、より短い期間で日常生活の動作能力をより改善しようとするからです。
回復期リハビリテーション病棟の「回復」とは、上下肢の麻痺などの回復ではなく、日常生活動作の向上のことなんですね!!
そうなんです。
つまり、評判の高い回復期リハビリテーション病棟の条件とは、
- 在宅復帰率が高い
- 入院期間がより短い
- 日常生活動作の改善率が高い
ということなんです。
回復期リハビリテーション病棟とは、自宅復帰に向けて短期間で日常生活動作の向上を目指す場です。
一般的に、日常生活動作は安定して座れて、ある程度立てて、片手動作が上手になればかなり自立します。
下肢機能については、少なくとも杖などで歩けることを目指すべきですが、上肢機能については、極端な話全く使えない廃用手状態であっても日常生活動作は自立できます。
下肢機能についても、足首が動かせるなどまで回復しなくても、装具や杖を使うことなどで歩行自体は可能となります。
それで、上下肢の麻痺の回復よりも日常生活動作の向上の方が重視されるのですね。
では、ある程度まで日常生活動作が向上しても、さらに上下肢を改善したい患者さんはどうすれば良いのでしょうか?
回復期リハビリテーション病棟では、そこまでフォローする余裕は無さそうですね。
けっして、上下肢の麻痺がそれ以上良くならない訳ではありませんよね。
そうですね。
例えば、先端リハビリ医療などと呼ばれるような領域では、脳の回復の意義が追求されつつある現代で、実際には公的保険制度下ではそのようなリハビリの場が少ないという矛盾した現状があります。
この背景には、昔から言われてきたある定説の影響が根強くあります。
それは、上肢リハビリは、発症直後の早期以外は効果が少ないという定説なのです。
脳卒中片麻痺の上肢リハビリは早期以外は効果が少ないという定説
この定説は、日本のリハビリ医学の重鎮の多くから支持されてきました。
重鎮の皆さんは、有名大学の教授や名誉教授であったり、歴史がある病院の院長や理事長クラスのような方々ばかりです。
このような方々の論文などが、現在のリハビリテーションの流れの推進に大きな影響を与えていることは間違いないでしょう。
では、そのような定説の一つをご紹介しましょう。
Nakayamaらの論文を引用
Nakayama H et al:Recovery of upper extremity function in stroke patioents:the Copenhagen stroke study.Arch Phys Med Rehabil 75:394-398,1994
上の図は、1994年に発表されたある有名な研究をまとめたものです。
この研究によると、上肢が実用レベルまで回復したのは、重度例ではわずか11%、軽度例では77%だったというものです。
さらに、回復が終了した時期は、重度例では95%が11週、軽度例では95%が6週だったというものです。
つまり、大半の脳卒中片麻痺の上肢の回復は、11週までが限度であるというものです。
このような結果が、健在でも基本的には定説とされています。
このような研究結果は、ある意味では標準とされているものです。
ただし、この研究に使われている評価尺度は非常に目の荒いものです。
ある段階から次の段階までの幅が広く、多少の回復では数値に反映しないようなものです。
また、患者さんやご家族の心理としては、そもそも実用化しなければ回復しても意味がないというものではありません。
最終的に実用化に至らなくても、様々な面で機能回復の意義はあるのです。
はい、そうです。
もちろん、元通りに回復して欲しいという願いはあります。
でも、そうならなくても、少しづつの回復を励みにして前向きに頑張ろうと思います。
そうだと思います。
上肢などへのリハビリは、運動面へのサポートであると共に、心理的な面へのケアとしても重要です。
では、次には、実用化が難しい場合でも、上肢のリハビリに取り組むべき理由を考えてみたいと思います。
脳卒中片麻痺への上肢リハビリが重要な理由
実用手だけが目的ではない
実用化している状態を実用手と呼ぶんですね。
それは、例えば、お箸を使ったり、鉛筆で字を書いたりできるようなことですね。
利き手でなければ、お茶碗を持つことなどもでしょうか?
その通りですね。
ただ、正直に言うと、実用手の定義というものが明確に定まっている訳でもないんです。
研究者により個々の見解はありますが、一般に国際的な定義のようなものがあるとも言えません。
多くの論文も、そのような前提での研究結果ですから、我々も良く考えて読む必要がありますね。
そうなんだ!
実際の患者の立場では、完全な実用手でなくても、少しでも運動や生活の役に立つようにしてもらえればとても嬉しいです。
わかりました。
そんな視点で、仮に実用手にならなくてもリハビリをすべき点を挙げたいと思います。
例えば、上の写真は、新体操の選手のバランスを示しています。
この写真のように、片脚を大きく挙げてバランスを維持するには両上肢によりバランスをとる必要があります。
やじろべえのようなバランスですね!
そうです!
もし、両腕がなければ、このようなバランスを保つことはより難しいでしょう。
これが、脳卒中片麻痺の患者さんでは、日常的に立つことや歩くことと密接に関連します。
腕が曲がって固まってしまうと、バランスがさらに低下します。
逆に、何とか、腕を伸ばして広げられるように回復すれば、バランスも改善します。
なるほど、そうですよね・・・
言ってみれば、当たり前のことに聞こえます。
そんな当たり前のようなことが、リハビリ医療では当たり前でも無いのです。
リハビリに限らず、多くの医療は各専門職がそれぞれの特異分野に特化して取り組むような側面があります。
しかし、そうなると、理学療法士は歩行のために下肢を優先して訓練する発想になります。
作業療法士は、更衣やトイレなどの応用的な日常生活動作を訓練します。
言語聴覚士は、言語訓練や嚥下訓練を行います。
これは、あくまで一般論です。
中には、もっと運動機能をよく理解して、歩行のためにも上肢機能にアプローチする理学療法士もいます。
また、作業療法士の中にもバランスのために上肢アプローチを重視する人もいます。
ただ、一般的には分担作業のようになってしまう傾向は少なからずあるのです。
では、下記に実用手以外の目的を挙げてみます!!
- 座位や立位などの全身のバランス向上
- 補助手の獲得
- 拘縮の予防改善
- 手や手指の浮腫の予防軽減
- 痛みやしびれの予防や軽減
- 手の衛生管理
- 脳の廃用を防ぐ
バランス以外にもいろいろありますね!
そうでしょう!
2番目の補助手については、実はいろいろな機能があります。
これについては、後でご説明します。
最後の脳の廃用を防ぐというのは何ですか?
これも、後でのべますが、要するに使われなくなった脳細胞はどんどん退化するということです。
実は、手や指は脳の皮質とのつながりがとても深いのです。
廃用障害というと、筋肉や関節について言うのは知っていましたが、脳にもあるんですね!
実用手にならなければリハビリをしないのか?
ここまでは、実用手にならなくても上肢へのリハビリが必要な理由を身体機能の面から考えました。
はい、いろいろあるのがわかります。
でも、他にもあるんでしょうか?
例えば、私のおじいちゃんは、脳卒中で倒れた後から急に元気が無くなったり落ち込むことが増えたような気がします。
元々は、いつも元気な人だったのに・・・
やっぱり、手や脚の機能を失ったことが影響しているのでしょうか?
そうだと思います。
しばしば、脳卒中後にうつ状態に陥ることがよく知られています。
これには、脳の血流が低下することも理由にあるのかもしれませんが、はやり身体機能や人生における喪失感が大きいと思います。
心身の機能を失うことは大きな喪失感をもたらします。
あるリハビリ医の大家は、このようにいいます。
「失語症などの言語機能へのリハビリは長期的視点が必要。失語症は必ずしもリハビリによって改善するとは言えない面もある。しかし、言葉を失うことは心理的にも大きな損失である。長期的なケアの意義は、本人以外にも家族などを含めた心理的サポートの側面が重要である」
正にその通りです。
そして、これは言語機能にのみいえる事ではなく、身体へのあらゆる喪失感に共通することである。
仮に、このような正論を述べるリハ医が、一方では「あなたの手は治らないからリハビリするよりも早く受け入れましょう」
などと患者に説明しているとしたらそれは大きな矛盾と言える。
私は、常日頃から患者さん達と接する中で、仮に実用手ならなくてもリハビリをした方が良いことを感じています。
それは、単に個人個人の問題といういうよりは、ヒトとしての側面もあるのではないでしょうか?
人間が、ヒトという種として進化した過程のようなものが関係するような気がしています。
次は、そのようなことも考えてみたいと思います。
ヒトが類人猿と異なる理由
長く、脳卒中患者へのリハビリに携わっていると明確に感じられることがあります。
それは、患者さんの希望や尊厳とは、ヒトとしての文化的歴史と結びついていることです。
図は、よく文化人類学において強調されることです。
ヒトが類人猿と異なる文化を持ちえた理由として、直立二足歩行の獲得、言語の使用、道具(手を使う)の使用を獲得したからと言われます。
文化とはヒトの尊厳とも関連します。
我々、リハビリ関係者は、歩行の再獲得を目指し、言語訓練を行い、上肢・手指の回復に取り組みます。
つまり、脳卒中患者へのリハビリとは、単なる機能訓練だけでなく、尊厳の回復を目指すものでもあります。
そして、上肢へのアプローチもその一環と言えるのではないでしょうか?
上肢・手を使わないことは脳を使わないこと
さきほど、脳の廃用ということに触れましたね。
手や上肢を使わないことは、脳を使わないということですか?
そうです。
特に大脳皮質です。
大脳皮質は運動や感覚を始めとして、認知や行動などの様々機能を司っています。
手や上肢は、運動や感覚の領域において、とても広い領域を占めています。
つまり、手や上肢の領域を使わないということは、大脳皮質の大部分を使わないことになります。
俗に、「手は外に出た脳」などと表現されますが、それぐらいに脳と手は関係が深いのです。
脳卒中片麻痺上肢へのリハビリのポイント
さくら先生!
次は、実際のリハビリのポイントについてですね?
そうです。
実用手を目指せる場合とそうで無い場合、さらに重度麻痺についても考えてみましょう。
実用手が目指せる場合
脳卒中治療ガイドラインには、上肢機能障害へのリハビリテーションという項目があります。
早速、見てみましょう。
上肢機能障害リハビリテーションのエビデンス
脳卒中治療ガイドライン2015より
ガイドラインには、麻痺が軽度あるいは中等度の場合については、推奨度が高い項目があります。
特に、軽度麻痺については、グレードAという高い推奨度のものもあります。
軽度麻痺は、実用手が目指せるので積極的に取り組みましょう!という感じです。
一方で、重度麻痺については、特に記載がありません。
これを臨床の参考にするとなると、軽度麻痺が優先されるのも分かるような気がします。
リハビリの内容に関しては、ここに記載されている内容だけが実際に行われている訳ではありません。
あくまで推奨度が高いということです。
やっぱり、実用手になりそうな軽度麻痺が優先なんですね
実用手が目指せない場合
実際には、必ずしも実用手を目指せない場合でもリハビリの必要性は高いですよね。
そうです。
先ほど、こちらの内容でご紹介した通りです。
以下は、補助手としての上肢の機能について考えてみましょう。
Heringによる手の動作の分類
鎌倉矩子:手のかたち 手のうごき 医歯薬出版株式会社
上の図は、お箸や筆記具の操作などの高度な操作以外の手の動作を図示したものです。
完全な実用手でなくても、手には多くの役割があります。
赤のアンダーラインで示したのは、脳卒中片麻痺の中等度や重度の麻痺があっても目標にできるような動作です。
結構、沢山ありますね!
そうでしょう!
実際に良くあるのは、普段をほぼ使えない手でも手すりを握るだけはできるようなる場合などです。
これにより、転倒しないようにして良い方の手でズボンを着脱するような方がおられます。
私の経験では、全く動かなかった手指でも、リハビリによりなんとか握り離しが可能となり、パンなどは手掴みで食べられるようになったケースもいます。
しばしば、握ったら離せなくなる手指の問題があります。
このような場合でも、手首のコントロールを学ぶことで手指を緩めることができる方はけっして少なくはないと思います。
すごいですね!
しかし、結局のところ正しくリハビリを行うかどうかにかかってきます。
他動的なストレッチだけではどうしも限界があります。
先ずは、実用手以外にも目標はいくらでもあるということを知るべきです。
まともに取り組まなければ、回復以降は自然に回復することは少ないことが現状でしょうから。
重度麻痺の場合
さくら先生
もっと重度な麻痺の場合はどうでしょうか?
適切な目標はあるのでしょうか??
そうですね。
やはり、あります。
仮に、指が全く使えないほどの重度麻痺の方でも、身体の体重移動を上手に使うことで肘から先の腕全体で物を固定できるようになる方もおられます。
それで、新聞紙などを破ったりできるようになります。
さらに言えば、全く動かない上肢であっても、テーブルの上にのせて食事やテーブル上の動作ができるようになる方は私の経験ではとても多いと思います。
それにより、手の血行を改善して浮腫んだり腫れたりすることを防ぐこともできます。
仮に麻痺していても、自分の手を健康に管理できることは大切な能力ですよね。
そういうことができる患者さんは、結果的に拘縮で固まる危険性も低いでしょうね!
その通りです。
食事の時に麻痺側上肢が勝手に曲がって邪魔になっていた方が、リハビリにより邪魔にならなくなったなどという話は良く聞きますね。
脳卒中の障害受容は難しい
脳卒中の障害受容と上肢
次は、障害受容のことに少し触れておきたいと思います。
さくら先生!
障害受容とはどのような意味ですか?
障害受容とは、とても難しいテーマです。
よく使われる反面、きちんとした言葉の定義が確立していないように思います。
ただ、上肢のリハビリを考える上では避けては通れない気がします。
現状は、脳卒中片麻痺の上肢リハビリは早期以外は効果が少ないという定説で述べた通り、上肢は回復期以降はあまり改善しないと思っている医療関係者が多いと思います。
そのような中で、患者さんから手や上肢をもっと良くしたいと何度も訴えられた時、しばしばこの言葉が使われる可能性があります。
それは、どういうことですか?
つまり、医療関係者側が、「上肢は改善し難いので、あまり固執せずに別の面をがんばりましょう」と説明しても患者さん側が繰り返し訴えるような時です。
そのような時に、しばしば障害受容が難しいケースと言われる可能性があるのです。
何となくわかります。
ただ、患者側の立場としては、そのように言いたくなる気持ちも分かって欲しいです。
障害受容が難しいということは、諦めが悪いという意味なのでしょうか?
本来の意味は、そうではありません。
ただ、現状はそのように使われているような気もします。
本来の障害受容とは、もう少しポジティブな考え方です。
失った機能を諦めるのではなく、それにはきちんと取り組みながらも現実的な面も同時に考えましょうというニュアンスです。
例えば、麻痺側の上肢のリハビリにも取り組みながら、健側手による日常生活動作の訓練もきちんと行うというようなことです。
障害受容については、日本のリハビリテーションの大家の上田敏先生が下のようにまとめています。
上田敏の障害受容5段階説
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/57/10/57_57.890/_pdf
第1段階から第5段階への進むのですか?
進む場合もあれば、難しい場合も多くあります。
図にも書いてあるように、逆行することもあれば、行きつ戻りつすることもあります。
人の心の問題だから、客観的に見ることは難しいでしょうね・・・・
全くその通りです!
だから、医療関係者は安易にこの言葉を使うべきではないのです。
前述したように、意図していなくても患者さんやご家族を非難しているように聞こえる場合があります。
障害受容できないことはそんなに悪いこと?
だから、私は患者さんの訴えはありのままにお聞きすることにしています。
例えば、「今は焦っているから訴えが増える時期だな」とか、
今は、「落ち込んで少しうつ的になっているな」などです。
さくら先生
そもそも、障害受容ができないと言われるような状況はそんなに悪いことですか?
治りが悪いから訴えているとしたら、患者としては話を聞いて欲しいですよね。
リハビリこそが受容の過程であるべき
そうだと思います。
いくら言葉で「これ以上は難しい」と言われても納得できない時はあるでしょう。
私は、そのためにもリハビリが大事だと思っています。
どういう意味ですか?
リハビリとは、患者さんの意向を重視しながら取り組みながらも、現実的には回復には限界があることを身をもって患者さんが感じる場でもあるのです。
これこそが、体験を通じた障害の理解ではないでしょうか?
難しいテーマなので、簡単には結論を出したくはありません。
しかし、やるだけやって初めて納得できるようなこともあるのかもしれません。
脳卒中片麻痺へのリハビリは、心身両面へのケアになりうるものだと思います。
たしかに難しいテーマですが、リハビリ関係者には良く考えていただきたいです。
保険制度での脳卒中上肢リハビリの限界
大分、長い記事になってしまいました。
最後に保険制度内でのリハビリの限界と、自費リハビリなどの保険外リハビリの可能性について触れたいと思います。
OTは上肢の先生ではない
もしかしたら、こんな話を聞いたことがあるかもしれません。
下肢や歩行は理学療法(PT)が中心に担当、
上肢や日常生活動作は作業療法(OT)が主に担当、
言語や嚥下(えんげ)機能などは言語聴覚療法(ST)が担当
などの枠割分担についてです。
これは、ある程度は当たっています。
しかし、上肢の担当がOTとは必ずしも言えない面もあります。
作業療法(OT)の定義を見てみましょう。
作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。
日本作業療法士協会 作業療法の定義
https://www.jaot.or.jp/about/definition/
これが、日本作業療法協会による定義です。
何だか抽象的ですね。
これだけ読むと、何をする仕事なのかわかりにくいような・・・・
定義の内容はここでは議論しないことにしましょう。
ただ、お分かりの通り、OTが上肢のリハビリを担当するとはどこにも書かれていません。
だとすると、上肢のリハビリはどの職種が行うかは決まっていないのですね。
そうなんです。
下肢や歩行などの基本的動作は、PTが最終的に責任を持つでしょう。
しかし、上肢については、明確ではありません。
もしかしたら、上肢のリハビリが軽視されがちなのは、この影響もあるかもしれませんね。
一般に、病院ではOTが受けられますが、必ずしも上肢のリハビリをするとは限らないのですね。
脳卒中専門ではない介護保険リハビリ
そうです。
ただ、これが現状です。
介護保険はどうなのでしょうか?
介護保険のリハビリは、医療保険と違って疾患別リハビリではありません。
よって、介護保険のデイケアや訪問リハビリのスタッフは脳卒中専門という事ではありません。
勿論、施設の方針や母体となる医療機関の性格なども影響します。
時には、デイケアのスタッフの中にもとても脳卒中に詳しい方もおられるでしょう。
ただ、そこは事前に利用者側から分かるようなものではないのです。
リハビリの成果は、担当者によって大きな差がつく場合があると聞きました。
担当者が、どういう疾患が得意なのかが分からないのは残念なことです。
介護保険のリハビリには、時間の短さなどの問題も指摘されています。
そのため、上肢のリハビリについても時間が十分確保できないかもしれません。
介護保険リハビリでは、さらに良くするというよりも、現状の機能を維持するのが精一杯かもしれませんね。
長期的な回復を目指すには自費リハビリも視野に
さくら先生
わたしのおじいちゃんも、もうすぐ回復期の病院を退院する予定です。
上肢の回復は未だ不十分ですが、少しづつ物の握り離しもできるようになってきました。
せっかく、ここまで回復したのに、退院後にリハビリが少なくなるのは心配です。
そうでしょうね。
おじいちゃんのように、発症一年未満であれば、まだまだ可能性はあるでしょう。
もし、介護保険のデイケアなどのリハビリが物足りなかった場合にはどのような方法が残されているのでしょうか?
大変残念なのとですが、現行の制度ではこれ以上の方法はありません。
そのような場合は、保険外の自費リハビリを検討しても良いかもしれませんね。
前回の記事でも少し触れた保険外リハビリですね?
保険外の自費リハビリについてはまとめた記事があります。
よろしければ、こちらの「脳梗塞の保険外 リハビリが必要な理由とは」という記事を参考にされてください。
保険外自費リハビリについては、現時点では未だ事業所も少なく、質や内容にも不透明な面があります。
ただ、脳卒中発症後の脳には大きな可能性があります。
比較的若く、意欲が高いような患者さんでしたら、保険外自費リハビリを使うことは決して無駄ではありません。
リハビリ時間についても、介護保険よりも長く設定されている場合が大半です。
気になる料金や費用については、こちらにまとめた「自費リハビリの費用の相場とは」という記事がありますので、どうかご覧になってください。
費用な内容についてご不安な場合は、先ずは体験利用のお試しをおすすめします。
体験利用を通じて、実際に内容を確認して、費用面についてもいろいろとご質問されると良いでしょう。
わかりました!
一度、良く検討してみますね!
例え、費用がかかったとしても、利用する価値は高そうですね!
発症から1〜2年以内などは、特に効果的でしょうか?
そうですね!
あと、長期経過の方でも、余裕のある時に集中してやるのも良いでしょう!
是非、一度、考えてみてください!
脳卒中片麻痺の上肢リハビリの重要性|全ての患者さんに必要なことのまとめ
- 公的保険制度のリハビリの目標は早期社会復帰です。従来から、脳卒中片麻痺の上肢リハビリは早期以外は効果が少ないという定説もあり、 脳卒中片麻痺の上肢リハビリは軽視されやすい傾向にあります。
- 脳卒中片麻痺への上肢リハビリが重要な理由があります。実用手獲得以外にも様々なリハビリ目標があります。心理的ケアや脳の廃用予防のためにもリハビリは重要です。
- 脳卒中片麻痺上肢へのリハビリのポイントを解説します。 実用手が目指せる場合 、実用手を目指せない場合、重度麻痺の場合などではそれぞれポイントが異なります。
- 脳卒中の障害受容は大変難しく、上肢のリハビリとも深い関連があります。
- 保険制度での脳卒中上肢リハビリには限界があります。長期的な回復のためには自費リハビリを視野に入れることも必要です。